第33話 閑話が始まります
「おい、お前。この世界の科学レベルに関して詳しく説明しろ」
神奈が現れた日のこと。
夕食の席で、神奈が俺に向けてそんなことを要求してきた。
奏もミアもいるが、二人は二人で美容の話で盛り上がっており、話しに入れなかった所だ。
「科学レベルと言われてもな。電気も何もないぞ?」
俺は、掲げられた燭台を見ながら答える。
「そうはいっても上下水道は完備されているじゃないか。思った以上に清潔で私は驚いたぞ」
「確かに、それに関しては俺も驚いた。だが全部人力でやってるみたいだ」
この街は飲み水もしっかり確保されており、ミア曰く、下水処理もなされているらしい。
ただ、電気が無い以上、その処理はどうしても人力になるようだ。
なお、この事に関してこれ以上の詳しい話は聞いていない。
というより、聞きたい話ではなかった、というのが正確かもしれないな。
「そうなのか。となると前提条件が必要だな……。よし、なら天動説が支持されているのか、地動説が支持されているのかだ」
なぜそれで科学レベルを計れるのか疑問だが、俺は知っている事を神奈に伝える。
「この国では天動説が支持されているらしい。というより、地動説なんて物自体が存在しないみたいだ」
「まあそうなるのか。この時点で大体の科学力は想像がつくな。後は文明の発展度合いか」
神奈はたったそれだけの質問で納得がいったのか、新たに質問を投げかけてくる。
「道具や経済はどうだ。そうだな、身近なものだと紙やペン、後は物の値段だ」
「紙は羊皮紙のようなものが主流だな。魔物の皮を剥いでそれを加工しているらしい。ペンはインク、黒鉛はまだないようだから、鉛筆なんてないみたいだ。経済に関しては詳しく知らんが、食材はそれなりに安く手に入るみたいだが、調味料の一部は値段が高いらしい。主に嗜好品、お菓子の材料とかは値段が上がるそうだ」
「なるほどな。となると、概ねは聞いていた通りか。後は自分で見て回るとすれば……」
神奈がぶつぶつと何かを呟き始める。
科学者というものは皆が皆こうなのだろうか。
自分の聞きたい事だけ聞いてこちらに話す隙を与えず、聞き終わると自分の世界に没頭する。
まあ別に構わないのだが、せめてもう少し会話してくれたらなぁと思う。
そんな感じで夕食も終わり、暖炉の前のソファで休んでいた所。
「おい、屋敷を案内しろ」
と、神奈が何故か俺に対してそう命令してきた。
「なんで俺なんだ?同性の方が色々と通じるものがあるんじゃないか?」
俺がそう問いかけると、神奈は歯切れが悪くなる。
「普通そうなんだがな……。私は女の考えている事が分からないんだ。あいつらに頼むより、お前に頼んだ方が気が楽なんだよ」
「お前……よく女をやってこられたな。というか、本当に女なのか?」
「うっせぇ。お前には関係のない事だ。それで、案内するのか?しないのか?」
俺としては案内してもいいが、どうせなら俺なんかより、奏やミアと交流を深めて欲しいというのもある。
だが、今は二人して家事の最中だ。
邪魔するのも悪いだろう。
「仕方ない。案内してやるよ。感謝にむせび泣け小学生」
「お前には一度、礼儀というものを教え込んだ方がいいのかもしれないな」
悪態を吐きつ吐かれつ、俺は神奈に屋敷を案内する。
パーティールーム、応接室、客間、厨房と見て回り、それぞれで感心した声を上げていた。
そして最後に、日本人としては欠かせない、一日の疲れを癒す風呂へと神奈を案内した。
軽く十数人は入れるであろう広い風呂は今も熱気に包まれており、いつでも入れる状態にある。
「ほう、この屋敷には風呂まであるのか」
「ああ、この辺りは水も豊富だが温泉も豊富らしい。だから風呂を炊く必要も無く、一日中いつでも温泉に入る事が出来るんだ」
「なるほど。なかなか面白い立地をしているようだな」
神奈が風呂を見まわし、感心したように声を上げる。
ここに来て、こんなにしっかりとした風呂に入る事が出来るとは、神奈も思ってもいなかっただろう。
神奈が両手を腰に当て、風呂を見ながら言った。
「よし、じゃあ早速風呂に入るか」
神奈は風呂に入るらしい。
となると、俺の案内はもう終わりでいいだろう。
「じゃあ俺は戻るぞ。後はミアにでも聞いてくれ」
「は?何を言ってるんだ。お前も一緒に入れ」
「……は?」
神奈の言葉に、俺は口を開いてポカンとしてしまった。
百歩譲って奏ならまだしも、なぜ一緒に神奈と風呂に入らないといけないんだ。
「昔から言うだろう。裸の付き合いで親交を深めると。何だ、私と一緒に入るのがそんなに恥ずかしいのか?」
「寝言は寝て言え。奏にばれたら俺がどうなるか分かったもんじゃない。一緒になんて入るか」
「ほう、なら私がここで悲鳴をあげたら、一体どうなるんだろうなあ?」
衣服を着崩しながら、にやにやと不敵な笑みを浮かべる神奈に対し、俺は苦虫を潰したかのような表情をしてしまう。
コイツ……。出会い頭の事でも恨んでいるのか?
ここで悲鳴を上げられたら、間違いなく俺は奏に殺される。
しかし、奏に気付かれさえしなければ、後はどうにでもなるだろう。
ただ風呂に入るだけなら、やむなしか……。
「……分かった。入るから悲鳴を上げるのだけはやめてくれ。俺はまだやりたい事がたくさんあるんだ」
「一緒に風呂に入ったぐらいで一体何をされるんだ」
食事が無いのは当たり前だからな……。
どうなるのか見当もつかないから怖いんだ
そうして、何故か俺は、神奈と共に風呂へと入る事になった。
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