第30話 銃の撃ち方講座

「この銃は反動が無いに等しいため、銃を持つ際に推奨される両手持ちをする必要性が低い。当然、両手持ちの方が命中精度は安定するが、とっさの際にわざわざ両手でグリップするよりも、片手の方が素早く対応できるだろう。それに、もともと拳銃ハンドガンは片手で撃つことを前提に誕生した武器だ。今回はその例に習い、片手持ちでの照準の合わせ方を教える」


 庭に繰り出した俺達は、神奈監修の元、銃の扱い方の講義を受けていた。

 なお、ミアは屋敷内の清掃やら買い物やらといったメイド業に従事しているため、俺と奏、神奈の三人の講義となる。


 俺と奏は、それぞれ弾倉マガジンの抜かれたカンナM9Pを持ち、神奈の講義に耳を傾ける。


「初めに銃の持ち方だ。銃を持つ際気をつけなければいけないのは、銃を握る位置と指の置き場所だ。特に勘違いしやすいのは指の置く位置で、これを勘違いしたままでいると誤射をする可能性が高くなる為、注意しなければならない」


 神奈は別の銃、ベレッタM92FSを持ち、グリップの上辺りを指しながら説明する。


「まず銃を握る際は、銃把グリップの一番上をしっかりと握る。これは銃を撃った際、銃口が跳ね上がる『マズルジャンプ』という現象を最小限に抑えるためだ。これをしっかりしないと、銃が弾詰まりジャムを起こしたり、勢いで銃が手から離れたりする。そのため、握る際はしっかりと位置を把握し、握っておくように」


 銃把に関する説明が終わり、神奈の指が引き金トリガーの上あたりに移動する。


「そして引き金を引く指の位置だ。常に引き金に指をかけていたら、何かのはずみで誤射をしかねない。そのため、撃つまではこのフレームの部分に指を置き、撃つ時だけ引き金に指をかけるんだ。用心金(トリガーガード)に指を置く奴もいるがそれは間違いだ。そちらも誤射をしてしまう可能性がある為、必ずフレーム部分に指を置くように。以上の事を踏まえて、銃を持ってみろ」


「分かった」


 神奈の指示に従い、俺と奏は銃を持つ。


 銃を持つだけでこれだけの説明があるなんて思ってもいなかった。

 それに、弾詰まりはメンテナンスの問題だと思っていたのだが、持ち方によって起こる可能性があるというのも初耳だったな。

 危険な分、それだけ取り扱いに注意点があるという事か。


 俺達の銃の持ち方を神奈が見定める。

 見定めている間に緊張するが、神奈は満足がいったようで、頷きならが合格印を出した。


「良いだろう。照星フロントサイト照門リアサイトを結ぶ線が手首をちゃんと通っている。変な持ち方をすると手首を痛める原因にもなるから、絶対に変な持ち方をするなよ」


 神奈は用心金に人差し指を通し、クルクルと銃を回す。

 おい、それは一番やっちゃいけない事じゃないのか。


「銃を持つだけで一苦労ですね。まさかここまで注意する事があるなんて」


 奏が握り方を微調整しながらそう口にする。


「でもこれも事故を極力減らすための事だ。面倒がってはいられないだろう」

「良い心がけだ。物事を正しく運用する事は、無駄や事故を減らす重要なファクターになる。慣れてくるとそれを忘れてしまうから気をつけろ」

「今の神奈にその言葉をそのまんま送ろう」


 撃つ時以外引き金に手をかけるなと言ったのは誰だったか。


「弾が入ってないからいいんだよ。弾が入っていたら、こんな怖い真似出来るか」


 神奈は銃を回すのをやめ、再び銃把を握る。


「さて、実際に握ってみた所で、次は構えについて説明しよう。とはいっても、構えに関して私はとやかく言う事はないと考えている。というのも、姿勢に関しては多種多様で、人により撃ちやすい姿勢があるからだ。だから、今回は基本的な姿勢だけを教える」


 そう言うと、神奈は遠くにある木に向かって銃口を向けた。

 その姿勢はやや前傾姿勢で、両足は肩幅程度に開き、左足は木に向かって、右足は半歩後ろで外側に開いている。


「基本はこのような形となる。重要なのは、肘や膝を少し曲げておき、若干前傾姿勢を取る事だ。こうする事で、銃の反動を身体全体で逃がす事が出来る。後はまあ腰を据えればより安定するだろう」


 神奈はバアン、と口で言って引き金を引き、肘を曲げ反動の再現をする。


 関節を伸ばした状態だと、力の逃げ場が直線的になってしまう。

 関節をやや曲げておく事で、力を上手く逃がすという事が重要なのだろう。

 逆に言えば、力をうまく逃がす事が出来れば、どのような体勢でも良いという事だ。


「照準を合わせるのは、銃の上についている照星と照門を参考にする。ただ、ライフルならともかく、自動拳銃オートマチックで常にこれを確認して撃つという事は難しいだろう。つまり、的に当てるには数をこなして慣れるしかない。では、試しに撃ってみるか」


 そう言って神奈は弾倉を取り出し、俺と奏にそれぞれ一つずつ渡してくる。


 弾倉の弾を見てみると、どうやら実弾ではなく、殺傷能力の低いプラスチック弾のようだ。

 素人の射撃訓練で実弾なんて危ないだろうし、使うわけがないか。

 この弾倉をリロードすれば、すぐにでも銃を撃つ準備が終わるのだろう。


 だが、一つ聞いておきたい事があった。


「神奈、安全装置セーフティーについてはどうなっているんだ。見た所、握り安全装置グリップ・セーフティーはないみたいだが、安全装置は一つしかないのか?」


 握り安全装置とは、銃把部分に取りつけられたスイッチのようなものだ。

 そのスイッチを押しこみながらでないと引き金を引く事が出来ないという、銃の暴発を防ぐための装置として取りつけられる。


 この銃の銃把部分には握り安全装置はないように見えるが、どうなんだろうか。


「そう言えば重要な事を説明していなかったな。よくぞ気付いてくれた」


 神奈はそう言い、引き金の付け根あたりを指差す。


「渉の言うとおり、この銃には一つしか安全装置がついていない。それがこのレバーだ。このレバーを押し上げると銃は撃てず、下げると銃が撃てるようになる。銃を使わない時は、必ずレバーを上げておき、撃つ時にだけレバーを下げておくように」

「上げると撃てなくなるんですね」


 奏は安全装置を見て、上に上がっているのを確認してから弾倉をリロードする。

 安全装置を確認した俺も、奏同様、弾倉をリロードして撃てる準備をする。


「弾を込めたら人に銃口を向けないように。では射撃訓練に移るぞ」


 撃つまでにさまざまな工程があるんだなと学びつつ、俺達は実射訓練へと移行した。

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