第29話 神奈印の護身銃

「……」


 その箱の中に入っていた物を見て、俺は言葉を失った。


 箱の中に入っていたのは、白銀の装飾が施された二丁の自動拳銃オートマチックだった。

 ベレッタM92FSのように銃身バレル持ち手グリップの比が完璧で、持ち手部分には梟のようなロゴが施されている。


 銃が入っているのではないかとは思っていたが、銃がここまで美しいものだとは思っていなかった。

 ここに納められている銃には、芸術品のように、見る者を魅了する力がある。


 銃に全く詳しくない奏ですらこの銃に釘付けになり、後ろに立つミアからは息をのむ音すら聞こえてくる。


「ふふ、素晴らしいだろう。これが私の創り上げた最高傑作『カンナM9P』だ」


 俺達の反応に満足したのだろう、神奈は笑みを深くし、自慢げにこの銃について解説し始める。


「この自動拳銃は一から私が開発し、作成したものだ。部品は全てオーダーメイドの一品物だから、この銃は世界にこの二丁一対しか存在しない。装弾数は9ミリパラベラム弾で10+1。連発フルオート消音機サイレンサーを標準装備し、軽量化を実現しつつ、銃を撃った際の反動はほぼ無いに等しい」


 銃の反動は銃自体の性能に加え、銃の重さによって変化する。

 弾丸を打ち出す際のエネルギーを銃自体で受け止めなければいけないので、銃が軽ければ軽いほど、その反動は大きくなってしまうのだ。


 簡単に言ってしまえば、銃の中でおきている爆発を、硬く重い鉄の銃で受けた時と、柔らかく軽いアルミの銃で受けた時、どちらが痛いかという話だ。

 当然アルミ銃の方が痛いし、アルミでは耐久性にも問題があるだろう。


 軽量化と反動を抑える事は、相反する二つの事柄を同時に達成しなければいけないのだが、神奈はそれを成し遂げたという。

 神奈が自慢げに話すのも頷ける。


 ルルはカンナM9Pを一丁手に取り、弾倉マガジンを抜き取る。

 そして、扉に向かって引き金トリガーを引き、薬室にも弾が入ってないのを確認すると、その銃口を俺に対して向けてきた。


「しかし、反動が無いのは実銃において危険な事だと私は考える。消音機で銃声も聞こえず、撃った感触も無いとなると、威嚇射撃も出来ず、相手に馬鹿が無駄に突っ込んでくる可能性が否めない。そこで、私はある機能を取り入れた」


 そう言って神奈は銃の腹をこちらに見せ、銃口近くに取りつけられたスライドレバーを指さす。


「このスライドを調整する事で、反動の調整を行う事が出来る。反対側にも同じスライドがあるが、そちらは消音性を調整するためのものだ。これにより、撃ち手を選ばない、誰でも簡単に、自分好みに使用カズタムする事の出来る銃が完成した」


 神奈は弾倉を装填し、銃を箱に戻してこちらに押し出す。


「このカンナM9Pなら、銃を取り扱った事のないお前らでも、癖なく取り扱う事が出来るだろう。この街は日本と違い、治安が悪い上、外には魔物なんてのもいる。自分の身を守る為の力が必要になった時、この銃は必ず役に立つ。受け取り拒否は当然させない。今、ここで受け取って貰おうか」


 さぁ、と神奈は銃を手に取るよう迫ってくる。

 言われるがまま、あたかも吸い込まれるかのように、俺と奏はその銃を手に取った。


 銃を初めて持った感想は、軽い、という一言だった。

 軽量化を神奈は謳っていたが、この銃は恐らく500g前後しかない。


 下手なモデルガンよりも軽いこんなもので、本当に実弾が撃てるのだろうか。


「初めて銃を持った感想はどうだ?」


 神奈の問いかけに、俺と奏は思った通りの事を口にする。


「本当にこれは使えるのか?見た感じと持った感じでは、ただのモデルガンにしか思えない」

「軽すぎますね……これが命を奪うものだと考えると、少し軽すぎる気がします」

「ふふ、妹の方がしっかりとした倫理観を持っているじゃないか。いきなり実用性を問うとは、渉もやはり男だという事か?」


 挑発するような神奈の発言に、俺は乗らないように答える。


「それもあるが、武器の必要性をここにきて実感したからだ。厄介事って言うのは、今の神奈のように待ってはくれないってことを学んだからな」

「厄介事扱いされるのは癪だが、お前たちはここにきてまだそんなに日も経っていないだろう。何があった」


 そう言われ、俺は奏が攫われた件について、ざっくりと神奈に説明した。

 神奈はそれを静かに聞いていたが、何があったのか話し終わると、身を正して俺達に頭を下げた。


「すまない。本来なら私はお前たちより早くに着いて、お前らが来た時にこの銃を渡すはずだったんだ。だが、これの安全性試験が遅れたせいで私が来るのも遅れてしまった。私が早くに来ていれば、本来なら起こり得なかった事だろう。申し訳ない」

「あ、謝らないでください。それは、私達の危機意識が足りなかったからです。神奈さんは悪くありません」

「そうだ。俺達はここにきて少し浮かれ過ぎていた。この国の常識も知らずに歩きまわっていたんだ。遅かれ早かれ何かしらの事件に巻き込まれていたはずだ。神奈が気に病むような事は何もない」


 それに、あの状況では銃を持っていても何も変わらなかっただろう。

 奏を人質に取られてしまっていては、銃を安易に撃つことなどできるはずがない。


「期日に間に合わせられないのは私の責任なのだがな……そう言ってもらえると私も気が楽になる」


 ほっとしている神奈を見て、俺は一つ思いつく。


「だが、遅れた事に対しての埋め合わせはして貰わないといけないよな?」

「……何を考えている」


 少し神奈の表情が険しくなるが、さらに険しくなるような事を提案するつもりはない。

 これを持つのに必要な事であり、どのみち頼むことを、嫌らしく言おうとしているだけだ。


「この銃の扱い方を教えてくれ。取り扱い方から撃ち方まで、必要な事は全部だ」


 俺がそう言うと、少し呆気にとられた表情をした後、神奈は笑みを浮かべた。


「良いだろう。この銃に関して、一から十まで全て私が教えてやろう」

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