第17話 奏発見

「見つけたって、もしかして探索魔法を使えたの?」


 俺の肩に手をかけているリアが、驚いたように聞いてくる。


「はい。妹の位置も特定しました。道のりも分かるので迷子になる事もありません」


 今の俺にはカーナビに映る線のように、奏までの道のりが視覚的に現れている。

 線が建物に伸びている事はなく、ちゃんとした道の上を線も通っているため、これに沿っていけば奏に辿り着く事が出来るだろう。


「あんな短時間で魔法を一つ編み出した……?いくらなんでも早すぎる。魔法が暴走したように見えたけど全然そんな感じじゃない。嘘をついてる感じでもない……」

「?」


 リアがボソボソと何か呟いているが、声がかすれるほどの小声で、何を言っているか聞き取れなかった。


 俺は軋む身体を無理やりに動かし、ゆっくりと立ち上がる。

 先ほどまでの頭痛に比べれば、こんなもの比べ物にならないほどに軽かった。

 鈍い痛みは残っているが、動けるぐらいには回復したのかもしれない。


「動けるようになった?」

「大丈夫みたいです。動けます」


 手足を動かしストレッチをしてみるが問題無く動かせる。


「じゃあ行こう。出来るだけ早い方がいい」

「あ、少し待ってください……。敏捷強化クイック・アップ


 早い方がいいと言われ、俺は思い出したかのように強化魔法を自分とリアにかける。

 完成させた時はこんなに早く出番が来るとは思わなかったが、初めにこの魔法を習得して正解だったかもしれない。


「なにしたの?」


 魔法をかけたらリアが何故か嫌そうな顔をして問いかけてきたので、俺は良く分からずに説明する。


「敏捷性を上げる魔法をかけました。これでより早く妹のところへ辿り着けます」

「……解除して」

「え?」


 敏捷強化をかけたのに、解除を要求され変な声が出てしまった。

 嫌そうな顔をしたのは気のせいでは無かったようで、何故強化魔法を嫌がるのか分からなかった。


「悪いんだけど、補助適正の人が使う魔法で過去に何度も痛い目を見てきた。補助適正の人の魔法はあまり信用できない」


 リアの付け加えた説明に、俺は納得がいってしまう。


 ミアやヘクター大司教の言っていた、補助適正は苦労するというのはこの事なのだろう。

 確かに、敏捷強化の時も探索魔法……仮に特定探索サーチと名付けようこの時も、魔法の調整が非常に難しかった。


 補助魔法は程度によって暴走してしまう事を、俺は身をもって体感している。

 その調整しきれていない魔法を受け、補助適正者の悪評が出回り、その事が巡って補助適正の不遇さに繋がっているのだろう。


 その点、俺は俊敏強化の調整は済ませてあるので痛い目を見る事はないはずだ。


「調整は済ませてあるので問題ありません。痛い目を見る事はないです」

「本当に?」

「はい。この魔法はちゃんと完成させたものなので大丈夫です。もし本当に嫌でしたら途中で解除するので、一度試してみてください」

「……分かった」


 しぶしぶながらリアの同意も得られたところで、俺は奏を取り戻しに走り出す。


 奏が攫われて一時間近くが経過してしまっているので、早く行かなければならない。

 奏との距離は約十キロ弱程離れており、俺が随分と見当違いの方向を探していたのが分かる。

 奏の位置は今でも移動しているが、こちらの方が移動速度が段違いに早く、かなりのスピードで奏に近づいていっている。


「……凄い。身体が軽い」


 俺について来ているリアが、そんなことを口にした。


 俺達は今、路地裏を相当なスピードで走っているが、物や人にぶつかったりは、一切していない。

 動体視力と反射神経の向上を敏捷強化に組み込んだ事で、安定したスピードと物事に対する対応が出来るようになったのだ。


 障害物の多い路地裏をこのスピードで移動できるというのは、間違いなく敏捷強化のおかげだろう。


「喜んでもらえて嬉しいです」

「こんなに安定した補助魔法を受けるのは初めて。正直なところ、補助適正の人が使う魔法を馬鹿にしてた。さっきはあんな態度とってごめんなさい」

「いえ、補助適正も役に立つって事を知って貰えたようでなによりです。私もこれで自信を持つ事ができました」


 他の人が使う補助魔法というものがどの程度の物か分からないが、補助魔法も使えるという事がこれで証明出来た。

 冒険者のお墨付きなのだから自信を持っていいだろう。


 十分程走ったところで、スラムと思われる地域に入る。

 今にも倒壊しそうな建物が密集し、日の光が入らないせいで周りは薄暗い。


 清涼感にあふれた大通りとは違って、比べ物にならないほど薄汚れており、所々に汚物やゴミといった物が散乱している。

 鼻に突く異臭に顔を歪ませながら、このようなところに奏が連れ去られていると考えると、俺は少し焦りを感じ始める。


「スラムの事は分かっていたつもりですが、こうして踏み入れてみると酷いですね」

「確かに、表と比べると酷いかもしれない。でも、これも全部貴族が悪い」

「というと?」

「街の区画整備は貴族の仕事。だけど、この辺りの整備が放棄されたせいで、この区画が荒れて悪事を働くにはうってつけの場所になった。貴族が区画整備をちゃんとしてたら、スラムなんて出来なかった」

「なるほど……。治安が悪いのにも理由があったんですね」


 区画整備を放棄すれば、アウトローな奴等の溜まり場になる事は考えれば分かる事だ。

 貴族というからには学はあるのだろうが、その貴族は、一体何を考えて区画放棄などしたのだろう。


「そろそろ着きます。どうやって接触しますか?」


 奏が近づいてきている事を確認し、俺はリアへと問いかける。


 俺一人だったら、あいつらを相手などする事は出来ず、敏捷強化したこの身体で相手を翻弄し、奏を掠め取るぐらいしかできないだろう。

 ミアはあいつらを圧倒していたが、俺があいつらを圧倒できるとは思えなかったからだ。


 しかし、冒険者であり、勢いよくぶつかっても動じる事がなかったリアなら、あいつらを相手に渡り合えるような気がする。

 二人ならば、奏を助け出す方法が格段に増えるだろう。

 しかし、リアは少し違った提案をしてきた。


「普通に接触する。このスピードがあれば、私一人で余裕に助け出せる」

「相手は四人もいますよ?」

「四人ぐらいだったら問題ない。任せる」


 何とも頼もしい発言だが、初対面の人にそこまで任せてしまってもいいのだろうか。

 とはいっても、もうすぐそこまで来てしまっているため、任せるしかない。


「先の曲がり角の先に奴らがいます。背中が見えると思うので、妹の救出をお願いします。私は何かあった時のフォローに回ります」

「分かった」


 細かい打ち合わせは特になく、リアを全面的に信頼する形で接敵する事になる。


 そして、曲がり角を曲がった先で、俺達は奏を攫った四人組を捉えた。

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