第16話 魔法は編み出すものである

「じゃあ、動けるようになるまで、どうするか考えよう」

「はい」


 俺は冒険者であるリアと共に、奏を救う為の作戦会議をする事になった。

 俺は壁に寄りかかり、目の前に座るリアに奏の特徴や攫った獣人達の外見などの情報を共有する。


「なんとなく、そいつらの行く場所は予想できる」

「本当ですか!?っ……」

「落ち着いて。本当にそこに行くかは分からない」


 興奮して身体を痛めた俺に対し、リアが宥めるようにフォローする。


「ここを少し行った先に、開発放棄されたスラムがある。治安が悪くて、普通の人はあまり立ち寄らない。だからこそ、そういう奴等はスラムに集まる事が多い」


 貴族街や一般区画があるのでスラム街もあるのではと思っていたが、案の定スラム街もあるようだ。

 そして、奏はそのスラム街に連れていかれた可能性が高いらしい。


「もしそいつらがスラムに連れ去ってたら、妹さんを探すのは難しいと思う。スラムは道が入り組んでて、物凄く死角が多い上、勝手に建物を建てたり、地下を作ったり好き放題されてる。だから、もしそういう所に連れていかれてたら、まず見つからないと思った方がいい」

「……その場合は諦めろと?」


 自分でも声が低くなるのを感じる。


 スラムに居る可能性が高いと分かっていて、諦めるなんて言う選択肢が出るなんてありえない。

 たとえ、どれだけの時間がかかろうとも、奏は救い出さなければならない。


「諦めろとは言わないけれど、見つけ出すのが難しくなる。何か探す方法があればいいんだけど、私には地道に探すしか出来ない」


 リアの言葉に、俺は唸りを上げる。


 地道に探すというのは、人に聞いたり歩き回るという事だろう。

 日本なら携帯のGPSで探し出せるが、こちらに越してきて電波が入らなかったので、携帯は屋敷に置いて来てしまっている。

 ネットも何もない今、迅速に奏を探す方法はないだろうか。


 思考がぐるぐると回る中、俺の中である発想が生まれた。


「魔法があるじゃないか!」


 魔法がイメージで作り出せるという事は、探索に特化した魔法も編み出せるはずだ。

 探索は攻撃でも回復でもない、ちょうど俺の適正とも一致するため、弱体化を受ける事もない。

 俺がしっかりとイメージさえ持つ事が出来れば、探索魔法は使えるはずだ。


「誰かを探し出す魔法なんて聞いた事無い。そんな事出来るの?」


 突然声を上げた俺に対し、リアがそう問いかけてくる。


「分かりません。ですが、妹の為です。たとえ聞いた事が無くともやるしかありません」


 探索魔法を完成させるだけで、奏の居場所が分かるのだ。

 これをやらないという選択肢はないだろう。


「今から魔法を組み上げるの?」

「はい。一から創り上げます」

「そんなすぐ魔法は使えるものじゃないと思うけど……。それに探索ってことは、補助適正が必要になると思う」


 リアの言うとおり、敏捷強化(クイック・アップ)を完成させるまでには半日近くかかった。

 しかし、それは試行錯誤し、安定させるための半日だ。

 そこまで完成度を求めなければそう時間はかからないはず。


「私は補助適正です。たとえ時間がなくても、やってみせます」

「……そう。私に出来る事はなさそうだから見守ってるね」

「ありがとうございます」


 俺は、探索魔法を組み上げるために集中する。


 イメージするのは、GPSを用いているカーナビだ。

 奏の現在地を探し出し、その周辺の地形を把握したマップとそこまでのルート探索。

 それに加えて、俺の見えている景色に、方向指示が出るようなものが望ましい。


 奏の位置が分かれば十分だと思うが、魔法がイメージによって左右されるなら、より細かく想像した方がいい。

 そうして、十分に固めたイメージを、魔素に馴染ませるように纏め上げる。


 敏捷強化の際、魔素は体内を巡らせたが、今回はイメージの乗せた魔素を拡散させる。

 今回は、強化を目的としていないため、魔素を体内に巡らせても意味がない。


 拡散させた魔素で情報を収集し、その情報を俺が受け取るのだ。


「っ……!!」


 しかし、その魔素を拡散させた途端、脳が破壊されるのではないかと錯覚するほどに揺さぶられ、俺は両手をついて嘔吐してしまった。

 見た事もない光景が同時多発的に脳内に流れ込み、脳が処理しきれず、そのストレスが消化器官にまで影響を与えてしまったようだった。


 いきなり大量の情報が流れ込んできたせいで、その情報の処理に脳が追われ、まともな思考すら困難になる。

 脳がやられているからか、自分の身体と脳の連携がうまくとれない。


 身体を動かしても感覚がなく、脳と身体が乖離しているような感覚と、突き刺さるような痛みだけが脳を支配する。


「大丈夫!?」


 リアが肩に手をかけ、心配してくれているようだが、俺には遠い出来事のように感じる。


 魔法を切ってしまえば楽になれるだろう。

 ここまでしなくても、奏を見つける方法なんて他にもあるはずだ。

 そもそもが、魔法の構成を間違えているから、ここまで辛い思いをしているのだ。

 もう一度魔法を構成し直して、別の方法で切り込めば楽になる。


 そんな考えがぐるぐると回るが、少しでも時間をかけると奏の身に何かあるかもしれない。

 一刻も早く救い出さなければいけない状況で、方法を選んでいる時間はないと、無理やり自分に言い聞かせる。


 俺の頭の中では、様々な風景が流れていた。

 大通りの人の流れ、閑散とした路地裏、スラムと思われる風景、そのどれもが、リアルタイムに脳内で垂れ流されている。


 明らかに必要のないものまであり、それらを排除して情報の取捨選択を行っていく。

 頭痛は変わらず続いているが、初めに比べればましになってきている。


 脳が負荷に耐えきれず、必要のないと思われる情報を無意識に遮断したのだろう。

 脳が勝手に行う処理作業に、俺も思考して加わり、情報を処理していく。


 そして、ついにその映像の一端に、奏を見つけ出す事が出来た。


「……見つけた」


 俺は、必要な情報以外の一切を切り捨てる。


 すると、先ほどまでの頭痛が嘘のように引いていき、思考がクリアになった。

 奏の現在地、それに至るまでの距離、そして、奏の居る所まで伸びる線を見て、俺は悦に浸る。


「待ってろ奏、今助けに行ってやる」


 俺は、口元を拭いながら不敵に微笑んでいた。

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