第15話 出会いはいつも、唐突に
「連れ去られた……?」
目の前の光景に、俺の頭の中は真っ白になってしまう。
先ほどまで居たはずの場所に奏はおらず、獣人達も姿を消している。
奏が拉致されたと完全に認識すると、今度は頭の中が混乱の渦に巻き込まれた。
何故奏を連れ去った?
何故俺達を放置した?
何故何もせずに姿を消した?
いきなり事が起こり過ぎて訳が分からない。
しかし、一つだけ言える事がある。
「奏!奏を取り返さないと!」
このまま放置してしまったら、奏がどうなってしまうか分からない。
早く奏を見つけ出して助け出さないといけない。
「お待ちください!渉様!!」
俺は、奏を探すため、ミアの制止を無視して路地裏へと駆け出す。
先ほどまで浸っていた風景や周りの事など気にする余裕は全くない。
すれ違いざまに怒鳴られようと、走り辛い道に転びそうになろうとも、俺は足を止める事はなかった。
ただただ奏の事が気がかりで、奏に関する痕跡がないか、走りながら目を皿にして探し回る。
しかし、他人を気にせず狭い路地裏を走り回って事故らない訳がなく、曲がり角から現れた人物とぶつかってしまう。
「っ!」
全力で走っていたため、ぶつかった拍子に勢いが逸れ、俺は壁に体を強く打ち付け地面に転がった。
受け身を取る事は出来たものの、石造りの壁からの衝撃は相当なもので、俺は立ち上がる事が出来なくなっていた。
「大丈夫?」
女性の声が聞こえ、そちらを見上げると、どこかで見たようなローブを見に纏った怪しげな女性が俺を覗き込んでいた。
大人っぽいのだがどこか幼さを感じる顔立ちに、俺は一瞬目を奪われる。
「すいません、大丈夫です。そちらこそ大丈夫ですか?」
「私は平気」
相当な勢いでぶつかったはずだが、それをものともしていないかのような軽い返事だった。
ぶつかっておいてなんだが、一体どんな体のつくりをしているのだろうか。
「何をそんなに急いでたの?」
謎の女性にそう言われ、奏の捜索をしていたことを思い出す。
「っ妹が!」
俺は身体に鞭を打ち、無理やり身体を動かそうとしたが、謎の女性がそれを制止する。
「無理に動かない。動けるようになるまで休む」
「でも!」
「そんな状態で動こうとするなんて、君は正気を失ってる。何をしようと分からないけど、そんな状況で動いてもいい事はない。一度深呼吸して落ち着こう」
謎の女性にそう諭され、自分が冷静さを失っていた事に気付かされる。
出会ってすぐの女性にそんな風に言われるほど、俺は正気を失っていたようだ。
その女性の言うとおり、俺は一度深呼吸をする。
少し落ち着いてくると、全力疾走していても気にならなかった身体の疲労が、ここぞとばかりにどっと押し寄せてくる。
それと同時に頭が回るようになり、俺がどれほど取り乱していたかを実感する。
ミアの制止を振り切ってきてしまったため、ミアとも離れ離れになってしまったし、ミアには悪い事をしてしまった。
周りの事が見えていなさすぎだったな。
「ありがとうございます。おかげで落ち着きました。私は西条渉と申します」
「私はリア。よかったら、何があったか話してみる。何か手伝えることがあるかもしれない」
「ですが……」
俺がしようとしている事は、誘拐犯から奏を助け出す事だ。
怪しげとはいえ、一般人を巻き込むような事は出来ない。
「こうしてまた会ったのも何かの縁。それに、私としても何があったのか気になる」
「……あ、あの飲食店で」
どこかで見たローブだと思ったら、飲食店でテーブルいっぱいに料理を並べていたあの人だったようだ。
まさかあのローブの人物が女性だとは思わなかった。
というか、あれだけ印象的だった人物について忘れるだなんて、俺はどれだけ冷静さを失っていたのだろうか。
「君……渉と一緒にいた二人はどうしたの?」
リアが二人の所在について問いかけてきたので、話すだけならと俺はこれまでの経緯を説明する。
獣人に絡まれた事、獣人達に奏を人質に取られた事、獣人達がそのまま妹を連れ去ってしまった事、俺はその事に気が動転し、ミアと離れ離れになってしまった事、そうしてリアとぶつかってしまった事。
リアは俺の話を無言で聞いていたが、その表情が曇っていくのが見て取れた。
そこまで親しいわけでもないのに、こんな話をされても迷惑なだけだったのかもしれない。
リアも、ここまで重い話だとは思っていなかったのだろう。
このまま理由を付けていなくなると思いきや、リアは予想に反する事を口にした。
「私も手伝う。そういう事なら私の得意分野」
奏を探すのを手伝うという事は荒事になる可能性が高いので、手伝ってくれるのは非常に助かる。
そういった荒事を見越しての発言なのだろうが、一つ気になる事があった。
「得意分野ってどういう事ですか?」
この街にはギルドというものがあり、リアは荒事が得意であるという。
なので、俺はリアの回答に、少し期待してしまっていた。
「私、冒険者だから」
その日、俺は初めて冒険者に出会った。
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