第10話 魔法、完成しました

 顔を洗い、ついでに服も着替えて、再び庭先まで戻ってきた。


「いやー、まさか魔法があそこまで強化されるものだとは思ってもいなかったな」


 魔法は間違いなく使えていたが、まさかここまで敏捷性が上がっているとは思ってもいなかった。

 反応出来ないレベルで身体強化をすると、酷い事になるという事を、身をもって知る羽目になった。


「心配したんですよ。一体何をしたらあんな事になるんですか?」


 奏が少し怒りながら問いかけてくる。


「素早さを上げる魔法を使ってみたんだが反応速度が追いつかなかったんだ。素早さ単体で上げるだけじゃ、あれは使い物にならないな」

「素早さを上げる魔法ですか。加減を間違うだけであんな事になるなんて、魔法は難しいですね」

「そうは言っても奏の回復魔法は凄かったじゃないか。傷口を見てみたが傷一つ残って無かったぞ」

「褒めて貰えて嬉しいのですが、実際のところ魔法を使った時は無我夢中で使えた時の感覚を覚えていないのです。もう一度やれと言われて出来るかどうか……」

「一度使う事はできたってことは使えるだけのポテンシャルがあるってことだ。頑張れば自由に使いこなせるようになるさ」


 魔法を使う事に関してのハードルは、思っていた以上に低かった。


 何処までの事が出来るか分からないが、イメージが出来れば魔法が使えると言う事は非常に自由度が高い。

 先ほどの俺のように、加減を間違えてしまうと暴走してしまう、といった事は起りうるが、逆に考えれば制限がないという事になる。


 魔法の使い方を一度覚えてしまえば、自由自在に魔法を使いこなす事が出来るようになるはずだ。

 奏も魔法を使う事が出来たのだから、魔法を使う感覚を覚えさえすればどうにでもなるだろう。


「とりあえず大事無いようで安心いたしました。魔法の練習に事故はつきものですが、ご自愛ください」

「心配かけて悪かった。次からは気をつけるよ」


 ミアに言われそう返したのはいいものの、残念ながら本当に気をつけられるかは分からない。

 まだまだ魔法に関しては分からない事が多いため、ミアにも苦労をかけそうだ。


「先ほどの渉様は詠唱をしていなかったため、魔素が暴走してしまったのではないかと思います。次からはしっかりと詠唱してください」


 先ほどの魔法を見てのアドバイスがミアから飛んでくる。


「詠唱ってそんなに変わるものなのか?」

「全然違います。魔法は魔素を操ることで発現しますが、詠唱をする事により魔素の流れを固定化する事が出来ます。魔素の流れを固定化する事により安定した魔法の行使が可能となるので、不安定な無詠唱魔法と違い、より信頼できる魔法となるのです」

「そういう事か。なるべく詠唱した方がいいんだな」


 言葉に乗せる事により、魔素の流れを制限して出力を決めてしまうという事か。


 制限がないのなら作ってしまえばいい。

 そして、その制限は詠唱という形で創り出す事が出来るらしい。


 詠唱破棄で魔法を使えればかっこいいが、慣れるまではしっかりと詠唱した方が良さそうだ。


「奏様は詠唱をしていたので安定して魔法が使えたのでしょう。魔法が使えたという事は、感覚を覚えていなくてもイメージがしっかりと出来ていたという事になります。渉様のおっしゃっていたように、練習を重ねれば必ず魔法を使えるようになります。頑張りましょう」

「分かりました。早く魔法が使えるよう頑張ります」


 ミアのアドバイスに、奏がぐっと手を握ってやる気をあらわにする。

 奏の魔法に対する意識は高い為、使いこなせるまでそう時間はかからないはずだ。


 奏に置いていかれないよう、俺も頑張らないといけないな。






 その後も、俺と奏はミアに見守られながら魔法の練習に没頭した。


 俺は初めに失敗した素早さを上げる魔法、敏捷強化クイック・アップの安定化を図る事に専念した。

 その際、素早さを上げるだけでは自らの反応が追いついていかないという事に気付き、素早さと同時に動体視力と反射神経の向上を敏捷強化に組み込んでみた。


 すると、反応速度が格段に上昇したおかげか速すぎて反応が出来なくなるという事が無くなり、非常に使い勝手の良い魔法に仕上がった。

 これなら、十分実用性のある魔法として機能するだろう。


 悲しいかな、今のところ使い道は思い浮かばないが。

 そうして俺は敏捷強化の魔法を習得したが、奏の方も何とか回復魔法を習得したようだ。


 俺に使用した単独回復ヒールを習得したみたいで、なんと、その回復魔法は植物にも効果があるらしい。

 木を傷つけ実際にやってみて貰った所、その傷が見事に修復されていき、それには俺だけでなくミアも驚いていた。


 ミアいわく、生き物を治癒する回復魔法は多々あるものの、植物を回復する回復魔法は聞いた事が無いという。

 そこまで意識して魔法を使ったわけではないと言うが、魔法を使う人柄が見える、奏らしい優しい魔法だなと感じられた。


 こうして無事、二人共が魔法を使えるようになった。

 朝から魔法の練習をし続け、いつの間にか太陽が南中している事に気付く。


「もう昼前か」


 腕時計を見てみると、時刻は14時を少し過ぎたところだった。


 14時が昼と言われると日本人からしたら違和感があるかもしれないが、俺の腕時計には緯度経度による時間補正機能が付いているため、時間が間違っているという事は無い。

 単純に日本との時差があるという事と、この街で太陽が南中するのが14時辺りなので、大体その時間が昼となるのだ。


「もうそんな時間ですか。楽しい事をしていると時間の流れが早いですね」

「あっという間だったな」


 朝から魔法の練習を始め、四時間程が経過しているが、物凄く充実した四時間だった。

 魔法の練習だけで、普通に一日が潰せてしまいそうだ。


「お二人共、初日とは思えない上達をしています。この調子でいけば、そう時間もかからずに魔法を自由自在に使いこなせるようになるでしょう。とりあえず午前の魔法の練習はここまでとしましょう。今すぐ昼食の用意をさせていただきますので、屋敷の方でお待ち下さい。では、失礼します」

「ちょっと待ってくれミア」


 ミアが練習の終了を宣言し、昼食の用意をするために席を外そうとするのを引きとめる。


「何でしょうか?」

「昼食は外に食べに行きたいんだ。街に来たばかりで街の事も全く分からないし、飯のついでに街を案内してくれないか?」

「いいですね。この街にどんなものがあるのか気になります」


 この街に来て僅か二日、俺と奏はこの街の事を全く知らない。

 これから住む町の事を知っておいて損は無いし、歩いて見て回ることで何か発見がある事だろう。

 魔法もいいが、それだけに傾倒するのはもったいないというものだ。


「そうなると午後の練習ができなくなるかもしれませんが、よろしいのですか?」

「俺はいいが奏はどうだ?」

「私も構いません。魔法はいつでも練習できますからね」

「分かりました。ではすぐに外出の準備をしますので、少々お待ち下さい」


 こうして俺達はミアの案内の下、街を探索する事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る