第9話 暴走機関車渉
「魔素の流れをこれだけ早く把握できたお二人ならば、魔法を行使する事は容易に出来ると思います。魔法を行使するためには、その魔法を強くイメージすることが重要となります。イメージを強く持つ事が出来れば、自然と魔素の流れも理解できるでしょう。魔法の行使に詠唱は必要ありませんが、詠唱する事で魔法がより安定します。なので、魔法を使用する際は技名だけでいいので、詠唱をすることをお勧めします」
「なるほど、ここでも兄さんの黒歴史が役に立ちそうですね」
「奏、そろそろ俺も抑えが利かなくなってくるぞ?」
ミアの説明に対する奏の言葉に、それ以上はやめろと牽制をかけておく。
ミアは相変わらず分かっていないようだが、もちろん俺は何も言わない。
説明を聞く限り、イメージをする事が出来れば魔法使えるというように聞こえるが、そうなると適正というものに疑問が残る。
適正はあくまで適正であって、使おうと思えば使えるものなのだろうか?
「ミア。
ミアに問いかけると、補足するように説明してくれる。
「魔法適正はいわばボーナスとオーナスのようなものです。適性のある魔法を使用すればその魔法が強化され、適正の無い魔法を使用すればその魔法は弱体化します。適正の無い魔法を使用する場合はオーナスが著しく、適正魔法以外は実用レベルに到達しないというのが一般的です」
「適正がないと弱体化してしまうのですね」
適正がないと使い物にならないレベルで弱体化を食らうというのは、かなりのデメリットだ。
俺の補助適正という観点から言うと、少なくとも攻撃系と回復系の魔法は使い物にならないという事になってしまう。
魔法が最も輝くと思っている攻撃魔法が全くの使い物にならないというのは悲しいものがある。
「これに関しては、実際に試してみて体感するのが一番と思います。分からない事があればお答えしますので、まずはご自由に魔法をお使いになってみてください」
ミアより自由行動を言い渡された。
魔法がイメージに左右されるという事は、自らの想像力がものをいうという事だ。
説明しすぎてイメージを変に固めるより、自由に魔法を使って欲しいのだろう。
ようは、習うより慣れろ、という事だ。
「補助魔法か。そういえばミアは
「その通りです。私も渉様同様、補助適性の持ち主です」
俺の目星は当たっていたようで、ミアも俺と同じ補助適性らしい。
「どんな魔法が使えるか教えてもらえるか?」
「申し訳ありません。人により使用できる魔法は違うので、私がとやかく言ってしまうとそのイメージで固定され、本来使えたかもしれない魔法が使えなくなってしまう可能性があります。ある程度数をこなせばそんなこともないのですが、初めは何の偏見もないよう、自分の思うようにやることをお勧めします」
「なるほど……わかった、やってみよう」
ミアにそう言われ、俺は魔法に関して思うようにイメージをする。
補助魔法と言えば能力強化、弱体効果、耐性強化などが思い浮かぶ。
攻撃魔法だったら炎でも想像してバーンと吐き出せば、魔法が使えた!となるのだろうが、いかんせん今浮かんだ補助魔法はそういった華が全くない。
まあ、補助魔法というのは目立たない縁の下の力持ちであり、より強い相手と戦うには必要となって来る重要魔法だ。
この大陸ではその認識が低いようだが、ゲームで鍛えられた俺の考えは変わらない。
レベルを上げに上げまくり、物理で殴って勝てるのは当然の事だ。
低レベルでも補助魔法を駆使し、より強い相手に勝利をした方がかっこいいだろう。
というわけで俺はとりあえず、自らで魔法を使えたと確認の取れる能力強化の魔法についてイメージをする事にした。
能力強化の内容は、身体能力の向上を想像する。
イメージを強く持つと良いという事は、魔素の流れとミアの言葉ではっきりしているため、身体能力の向上の中でもすぐに分かる敏捷性の向上を図る。
魔素に敏捷を乗せるように、その魔素を身体全体に行き渡らせるようなイメージで集中する。
すると、澄み渡るような魔素の流れの一部が、熱を帯びたように身体を駆け回り、身体に染み込んで消えていくような感覚を覚えた。
それと同時に、ふわっと体が軽くなったような気がする。
「詠唱しなくても魔法は使えるんだっけか」
ミアの言っていた事を思い出しつつ、これで魔法が使えているんだろうなと実感する。
「どれぐらい素早さが上がってるんだろうな」
軽く体をほぐし、走るために脚を動かした。
しかし、一歩を踏み出したと思ったら、俺は数メートル以上離れていたはずの木の目の前におり、それに反応する事も出来ずに、その木へと思いっきり激突してしまった。
「っアァァ!頭が割れるぅぅぅぅ!」
「渉様!大丈夫ですか!?」
「何してるんですか兄さん!」
激痛に悶える俺の下に、二人が駆け寄って来る。
幸いにして骨が折れてはいなさそうだが、デコ辺りが熱く、視界が真っ赤に染まっている。
「兄さん!頭から血が!」
「落ち着いてください奏様!幸いにして傷は浅いようです。急いで止血します」
ミアが懐からタオルを取り出すと、顔中の血を拭い、傷口を強く抑えて止血を始める。
「
奏はテンパっているようで、使えるか分からない回復魔法を延々と唱え続けている。
しかし、少しすると目の前に光が集まり、デコのジンジンとした痛みがゆっくりと不自然に引いていった。
「……あれ?」
痛みを感じていた辺りを軽く叩いてみるが、見事なまでに痛みを感じない。
「奏様、回復魔法が使えていますよ!」
「回復回復ヒー……え?」
延々と回復魔法を唱え続けていた奏が、ミアの言葉で正気に戻った。
「大丈夫ですか兄さん!?」
「ああ、どうやら奏の回復魔法のおかげで治ったみたいだ。ありがとな」
「そうですか、よかったです……」
食い気味に迫って来る妹に、礼を言いながら頭を撫でる。
それにしても、怪我をしたというのに、こんなに早く傷が治るとは、回復魔法というものはやはり凄いものだ。
「渉様。奏様の回復魔法で傷も治ったようですし、とりあえずお顔を洗いに行きましょう」
しかし、傷は治っても、汚れまではどうしようもないようだった。
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