第11話 貴族ってやーね

 外出するという事で、俺と奏は動きやすいラフな格好に着替える事にした。


 俺はジーパンにジャケット、奏はロングスカートにカーディガンという、なにも考えていない簡単な服装だ。

 その際、その格好でいいのかとミアに問われたが、これぐらいの方が動きやすいから問題ないと返しておいた。


 その後、ミアが昨日のように馬車を引いて来たので、歩いて行くからとその馬車を厩舎に戻させ、準備も整った所で俺達は徒歩で屋敷を後にした。


 どうやって案内しようとしていたのか聞いたら、馬車を走らせて、馬車の中から案内をしようとしていたようだ。

 ミアいわく、貴族は基本どこに行くにしても馬車を使うものらしい。

 サファリパークの周遊バスが思い浮かんだが、今日の目的は探索であって、街の中でそれをやられてもなんの面白みもない。


 歩いて回って、その空気に触れることで、より街の事を知ることもできるだろう。


「とりあえず大通りに出たのはいいが、なんか見られてないか?」


 レンガ敷きの道を踏みしめつつ、周りを見渡しつつ疑問に思う。


 大通りだけあって人通りは多いのだが、初めてこの街に来た時のような活気は無く、一目で貴族と分かる装飾華美な面々が、何故か俺達に訝しげな視線を送ってきていた。

 確かにお上りさん感は出ていると思うのだが、彼らの視線はそれとはまた違う、嫌みのような不快に思う視線だ。


「そうですね、なんだか分からないですが、あまり良い雰囲気ではないようです」


 奏も同じように感じていたのか、周りの視線に不快感を示していた。

 何か思い当たる節があったのか、顔をしかめる俺達に対しミアが口を開いた。


「見られているのは、お二人が貴族に見えるような服装で無いからと思います。周りには恐らく、一般庶民が貴族街に紛れ込んだのだと見えているのでしょう。お二人は貴族なのですから何も気にする事は御座いません」


 その言葉に、俺はなるほどと納得する。


 貴族の服は物凄い派手なものであり、誰がどう見ても貴族と分かってしまう。

 貴族街は当然ながら貴族の住む街であるからして、俺達のような格好をしていると、なにか異物が紛れ込んだかのような感覚を受けるのだろう。


「そういう事ですか。それにしては随分と嫌われているようですが」

「貴族と一般庶民は交わる事がありません。貴族は一般庶民を道具として扱い、一般庶民はその扱いに対し不満を持っています。なので、住み分けされている生活圏に浸食されるのを嫌うのは当然と言えるでしょう」

「面倒事の多そうな話だ」


 やはり貴族とは関わらないに限るだろう。

 俺は今のやり取りで、一般庶民と言われている層がどのように俺達を見てくるのか気になった。


「そうだ、飯は第二区画で取る事にしよう」


 どうせこちらは礼儀作法があるのだろうし、どのような生活をしているのかを触れるには、貴族なんかより一般人の住む区画の方がいいだろう。


「第二区画って、確か一般人が住む区画でしたよね?」

「その認識で間違っておりませんが、私は反対いたします」


 俺の提案にミアが反対してきた。

 ミアなら分かりました、と言ってくれると思っていただけに、俺は驚きを隠せない。


「なんで駄目なんだ?」

「一般区画ですと私ではお二人の身の安全を保障しきれない可能性があります。お二人の安全が保証できない以上、私は反対させていただきます」


 一体ミアには一般人がどのように映っているのだろうか。

 いくら一般人と言っても、いきなり襲いかかって来るような頭のいかれた奴はいないだろう。

 俺達は飯を食べに行くだけなのだし、そこまで神経質になる必要もないと思うのだが。


「自分の身は自分で守れるさ。それに、そこで生活している人がいるってことは生活出来る程度に治安もいいんだろう」

「私も第二区画でお昼ご飯を食べてみたいです。出来れば大衆食堂のようなところがいいですね」


 どうやら、奏も第二区画行きに賛成のようだ。

 二人から言われるとミアも強くは言えないようで、しぶしぶながらといった感じで許可を出してくれる。


「……分かりました。ですが、こういうと不遜に聞こえるかもしれませんが、私の目から離れないようお願いします。これさえ守っていただければ私から申し上げる事はございません」


 条件付きだが、条件と呼べるような代物ではなかった。


 ミアから離れると言う事は、全く知らない街で迷子になるようなものだ。

 それも冒険みたいで面白いかもしれないが、金も持たずにそんなことしたら路頭に迷ってしまいそうだ。


「それなら問題ない。離れる気も無いからな。じゃあ第二区画に行くとしよう」


 こうして、俺達は第二区画へと向かっていった。

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