第5話 教会って無駄に神秘的に感じるよね
「このアクロポリスでは、女神・アテナを崇拝する『アテナ教』が深く根付いています。このアクロポリスの北側にはパルテノン神殿と呼ばれるアテナ教の総本山があり、アテナ教が深く根付いた理由の一つとなっていますね」
教会に向かう馬車に揺れながら、俺と奏は馬車を引くミアの説明に耳を傾けていた。
奏も随分と落ち着いたようで、先ほどの暴走もなりをひそめている。
「アクロポリスの北側に神殿がある事もあり、このアクロポリスは女神アテナの加護を受け、守られていると信じている信徒も多くいるようです。これから向かう教会は、その女神・アテナを崇拝するアテナ教会の1つになります」
アテナ教という宗派は聞いた事無いため、恐らくアトランティスに根付いている宗派なのだろうと思う。
無節操な宗教観を持つ日本から来た身としては、そんな宗派もあるんだな、ということぐらいしか思いつかない。
それに、今は宗教よりも魔法というものが気になって仕方がない。
「着きました。足元に気をつけてお降り下さい」
魔法に想いを馳せていると、いつの間についたのか、馬車が教会の前で止まっていた。
高くに設置された鐘は高貴さを表すかのように輝き、純白の壁は崇拝する女神の清廉さを表しているかのように白く透き通っている。
一見すると世界の教会と変わりないように見えるが、十字が縦ではなく横に長い。
修道士の着ている修道服も、白と緑を基調とした変わった修道服を着ている。
「緑の修道服なんて珍しいですね。向こうで緑の修道服は見た事がありません」
「そうなのですか?こちらでは修道服はこの色合いが普通なのですが」
「向こうじゃ修道服は白と紺色のイメージが多いな。こっちはなんで緑なんだ?」
俺は馬車を降り、ミアに問いかける。
修道服は控えめな色合いだと思っていたが、緑だと目立ち過ぎないだろうか。
「修道服の緑はアテナ様を象徴するオリーブの色を模しています。アテナ教ではオリーブを平和の証として扱っており、自然と修道服にもその色が組み込まれたのでしょう」
「アテナ教のシンボルカラーという事なのですね」
緑は目立ち過ぎると思ったが、ミアの説明で納得がいった。
やはり何事にも理由はあるのだな、と思いながら俺は修道士たちを眺める。
ミアが「馬車を
そこは礼拝堂になっており、奥にはアテナ像と思われる甲冑を着た可愛らしい女の子の像が置かれている。
あとはステンドグラスに何かの鳥と思われるものがあしらわれているぐらいで、特に変わったものは無い。
それにしても、アテナ教の崇拝するアテナってあんなに可愛らしいのか……。
あんな女神様だったら崇拝してもいいかも知れない。
「おや、見ない顔ですね。旅のお方ですか?」
そんなことを考えていると、本を携えた老人に声をかけられた。
周りを見ても年の若い修道士しかいないため、恐らくこの教会の神父だろうと思う。
「いえ、最近田舎から越してきた、ただの放蕩貴族です。少々用がありましてこちらに寄らせていただきました」
「貴族の方でしたか。これは失礼しました。私はこの教会で神父をしております、テレル・モラレスと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。私は西条渉、こっちは妹の奏です」
「よろしくお願いします」
俺に続いて、奏もテレル神父に挨拶をする。
「越してきた、という事はこの街に住むのでしょうか?」
「そうですね。先の見通しは立ちませんが、しばらくはこの街にお世話になりそうです」
「この街は非常に暮らしやすい良い街です。きいと気に入っていただけるでしょう」
「もう既にこの街に魅入られていますよ。ところで、大司教様はおられますか?」
あまり雑談をして、俺達が外の世界から来たと知られてもまずい。
そもそもが魔法の習得のために来ているのだ。
早く本題に入りたい。
「大司教様はおりますが、現在職務中でして……御用があれば私が承ります」
運がいいことに、大司教はここにいるらしい。
魔通の儀は大司教以上でないと行えないらしいので、それを伝えれば取り次いでくれるだろう。
「魔通の儀、というのを行ってほしいのですが」
「魔通の儀ですか……それは私ではどうしようもありませんね。少々お待ち下さい」
予想通り取り次いでもらえるようで、テレル神父はそう言い残すと礼拝堂から姿を消した。
「とうとう魔法が使えるようになるのですね……」
奏がうっとりとした表情でそう呟く。
「どんな魔法が使えるようになるんだろうな。翻訳魔法なんてあるぐらいだから結構色々な事が出来そうだが」
「お二人とも、あまり期待はなさらない方がよろしいかと思います」
「っ!?ミアか!驚かさないでくれ」
突然現れたミアに俺は抗議の声を上げる。
「申し訳ありません。馬の方を厩舎に繋ぎ、今戻ってきました。礼拝堂には誰もいないようですが神父様はおられないのですか?」
「ああ、一応いるみたいだ。今呼びに行って貰ってる」
「そうでしたか。私の仕事なのですが、お手数おかけして申し訳ありません」
「気にしないでくれ。早く魔法が使ってみたくて仕方ないんだ」
それにしても魔通の儀とは一体どういうものなんだろうか。
心を躍らせながら、俺達は大司教が現れるのを待った。
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