第2話 タイトル回収なのです
戦時中、大西洋上に
その大陸の詳しい情報には規制がかかり、一般的に知られている事は少ない。
一つ、魔法と言うおとぎ話のようなものが存在しているという事。
一つ、魔物と言う存在が認知されているという事。
一つ、人間と同じ知的生命体が存在しているという事。
世間で公表されているアトランティス大陸というものは、これだけの情報しかない。
噂話は色々とあるが、その噂話を裏付けるものはほとんど存在しない。
いまだ謎に包まれているアトランティス大陸。
「ここがアクロポリス……綺麗ですね」
共に馬車に乗る奏が、目の前にそびえ立つ城壁を見上げそう呟く。
引っ越しを告げられて飛行機に乗り、船に乗り、護衛つきの馬車に乗って約4日。
俺と奏は有無を言わされず連れて行かれ、父との長い旅路を経て、アトランティス大陸へと足を踏み入れていた。
城壁を囲うように流れる運河にかけられた橋は、アトランティスの首都であるというアクロポリスへと繋がっている。
橋の先には城門があり、その門を守るかのように甲冑を着た兵士が数人立っていた。
それはさながら物語に出てくるような、中世ヨーロッパを彷彿とさせるような光景だ。
流れる運河は美しく、そびえ立つ城壁は端然とその存在を主張している。
「初めて来ると驚くよね。でもこれからもっと驚く事になるよ」
隣に座る父がそんな言葉を口にする。
戦争によって多くの遺産が失われた現代では、こんな光景はもう見ることが出来ないだろう。
これだけの外観ならば、内部の方にも期待していいだろう。
「なんと言うか、無機質さがあまり感じられないな。文明度はそこまで高くないのか?」
「アトランティス大陸には科学って概念がないから、日本ほどの技術進歩はないね。その代わりに魔法というものが存在してるから、それを基礎に文明が成り立っているって感じかな」
「魔法……素敵な響きです。私でも使えるのでしょうか?」
「んー、それに関しては着いてから自分で調べてみるといいよ」
馬車が城門に辿り着くと父はそう話を打ち切り、馬車を降りて兵士と会話を始める。
しかし、二人の交わす言葉は英語でも日本語でもないようで、その内容は分からない。
このアクロポリスにたどり着くまでの間、父はこの大陸の情報を俺達に詳しく教えてくれなかった。
これから住むというのに、情報が全くないというのは不安で仕方ない。
俺と奏は、アトランティスで使われている言葉すら分からないような状況なのだ。
なので、馬車の護衛に付いている人達とのコミュニケーションは一切とれていない。
話を聞こうとしてもはぐらかされ、のらりくらりとかわされ続けると、どうも何か意図があるように思えてならない。
「これからどうなるんでしょうか」
少し不安そうに奏が言う。
奏の不安は分かるが、ここまで来てしまったからには、もう引き返す事は出来ないだろう。
父に何を言っても無駄だと分かっている俺は、諦めて開き直っている。
「なるようにしかならないだろ。文字も言葉も分からないんだ。まずは言葉を覚える事から始まるんだろうな」
「前途多難ですね。言葉を覚えるまでが大変そうです」
「住めば都とも言うし、それまで我慢するしかないだろう」
もうここまで来てしまった以上、どうする事も出来ないのだ。
悲しい事に。
「私としては、早く魔法を使えるようになりたいですね」
「奏は何でそんなに魔法を使いたがるんだ?」
魔法に対して軽くトラウマが入っているから、あまり聞きたくない単語なのだが。
「だって!魔法を使えるようになれば家事が捗るじゃないですか!火と水を使えれば料理もできますし、風を起こせれば洗濯物だって早く乾かす事が出来ます!」
「なんてロマンの欠片も無い魔法の使い方を想像してるんだ……」
我が妹ながら、現実的なものの考え方をする。
もう少しぐらい、魔法というものに夢を見てもいいんじゃないだろうか。
「ふたりともお待たせ。これから街に入るよ!」
兵士との話が終わったのか、少しテンションの上がっている父が馬車に乗り込んでくる。
何の話をしていたのか気になったが、馬車が動き出しアクロポリスへと入ると、俺は言葉を失った。
道はレンガ敷きにより舗装され、各所に細い水路のようなものが張り巡らされている。
白を基調とされた建物は、見るものを魅了するかのように鮮やかに彩られており、その街並みは、中世ヨーロッパに迷い込んだかのような感覚だ。
しかし、なによりも目に入るのは、そこを行き交う人々だ。
鎧を着るもの、剣を下げるものはもちろんの事、獣のような耳を持つもの、エルフのように長い耳を持つもの、果ては明らかに人ではない、全身を鱗で覆われているものなど、想像を超えた者たちが、さも当然のように闊歩している。
この光景に驚いているのは奏も同じで、この光景を前に呆けてしまっている。
まるでファンタジーのような世界だ。
「ようこそアトランティスへ!君達は世界で初めての移住者だよ!」
その反応を待っていたのか、父は嬉しそうにそう叫んでいた。
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