1話 もしも一人っ子の俺に妹がいたら

全てが嫌になり、この家にいるのも意味があるものなのかと疑問にすら思えてきた。ただ、寝るところがここしかないので仕方なくここにいるようなものだ。

今日もいつもと同じように学校では無視され、家に帰ってきてからも無視された。いつもの事なのでもう慣れてしまった。

そんな極々普段通りに過ごしていた時に見た、不思議な、長い長い夢の話だ。


  ──そう、これは、俺が『実際に見た』夢の話である。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○



「──ゃん」

「んー...」

「──ちゃん!」

「んー...ん?」

「にいちゃん!」

「......へ?」

「にいちゃん!早くしないと!遅刻!」

「...おまえだれ?」

俺のことなのか、枕元でにいちゃんにいちゃんと読んでいる女子がいる。声の方を見ると、その女子は髪は肩にかかるくらいの長さで瞳は綺麗な茶色をしていた。口元を見ると八重歯を申し訳なさそうに覗かせている。

「ちょっと!いくらあたしのこと嫌いでも、それはないんじゃない?あたしもゴミいちゃんのこと嫌いだけどね!」

清々しく嫌いと言われてしまった。

いろんな人に面と向かって、もしくは影でヒソヒソと嫌いだと言われたことは何回もあるが、なぜか今回の嫌いは普段と違った感じだった。

「そんなことより!早く起きて!学校遅れちゃうでしょ!あたしの成績を落とそうとでもしてるの?それは陰湿すぎる!ゴミ!」

「おいおい、あまり知らない人のことをゴミ呼ばわりしない方がいいですよ。」

「はあー?あんたのことあたしが知らないって?そんなわけないでしょ?出来るのであれば知りたくなかったけどね!」

「は?それってどういうことだよ?」

「だーかーらー!さっきから言ってるでしょ?ゴミいちゃんって!」

「は、はあ...」

「あっきれた...。中澤家長男、中澤奏太はあたしのにいちゃん!そんなのも忘れるとか...。いくらアホでもそれはありえないと思ってたあたしが恥ずかしいわ...。」

「つまるところ、おまえは俺の...妹...ってことか?」

「悔しいけどね。」

「......はあー!?」

叫んだ。腹の底から声を出して叫んだ。 遂に...遂に俺に妹ができたー!嬉しい、嬉しいよ!念願の妹が、今、俺の目の前にいる!

俺は自然と涙が出ていた。ポロポロと、止まることなく流れていた。

「ちょ、なに泣いてんの!?キモッ!」

「ああ、すまねぇ...。」

一旦落ち着こうと一つ深呼吸してから問う。

「ところで、おまえの名前って、なに?」

「ちょっと!それはいくらなんでも残酷すぎるよ!?あたしのメンタルボコボコにするつもり!?」

「い、いや...そういう事じゃなくてだな...」

「はあ...。あたしの名前は中澤葵。思い出した?」

「葵...いい名前だ。」

「はあ?あんた、今までずっとあたしのこと呼んでた名前でしょうが!」

「すまんすまん、ちょっと寝ぼけてたわ。」

「まったく...ほら、早くして!学校遅れちゃうでしょ!」

「...俺はなにすればいいの?」

「自転車!あたしのこと後ろに乗せていつも登校してたでしょうが!」

「は、はあ。なら、急いで準備しないとな。」

「そうだよ!間に合わなかったら、あとで罰金だからね!」

「へいへい。」

なんとか頭の処理が追いついた。冷静になり今の状況を詳しく理解する。

今、俺には俺が長年求めていた妹がいる。

今、その妹に自転車で送っていけと言われている。

今、俺は最高に幸せだ。

ああ、神様。あなただけが俺の心の支えです!

気のせいだと思うが、それを言った途端、日差しが強くなったように感じた。多分、家の中にいたからだろう。他の家の屋根に反射して眩しく感じたのだと思う。

俺の部屋から出て、階段を急いで降りていると

「転げ落ちないようにねー」

と、棒読みで注意された。

「いらん心配しなくていいぞー」

自然と返していた。何事も無かったかのように、さっきまで話していたことなんて吹き飛んだかのように俺らは会話をした。普段の俺なら気づくのだが、この時の俺はなにも気づかなかったし、感じなかった。

もう、そこは普段の世界では無いのだから。



○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

  俺は朝飯抜きでもいける人だ。とりあえず冷蔵庫に入っていた野菜ジュースをコップに入れ、一気に飲み干してから洗面所に行き、顔を洗い、歯を磨き、髪型を整えてからまた自分の部屋に戻り、制服に着替えて、教科書類の入ったリュックを背負って、自転車の鍵を手にすると、階段下にある玄関から静かに出ていく。親の気を損ねないようにするためだ。

  玄関を出ると、あ...あお...あおい?が自転車の前でスマホを弄りながら待っていた。

「やっと来たー!ふざけんな!遅れたらどうするんだよ!」

さっきまでのちょっとだけ優しい口調はどこにいったんですかね...

「わりいわりい。あ、一つ言い忘れてた。俺、二人乗り苦手な人だから。そこのところよろしく。」

「はー!?事故ったりしたらどーすんの!?そんであたしが怪我でもしたらあんたただじゃ済まされねーぞ?」

「おー、うちの妹は怖いもんだー」

棒読みで言うと、葵は『は?』とでも言うような視線で

「はい?あたしは別になーんにもしないよー。パパママがどうするかは知らないけどー。まーあたしがするとしたら...そうだなー、一週間なんでも言う事を聞いてもらうかな。」

「おい、それは俺が一番嫌いなやつだ。誰かの尻に敷かれるなんてごめんだからな。」

「え。にいちゃんあんた、尻フェチ?やっぱりママに送ってもらうわ。じゃねー!」

「そういう意味じゃねーよ!」

そう言い、俺はなぜか葵の腕を掴んで行かせようとしなかった。単純に、妹と登校するというのをしてみたかったからだ。

「ちょ、なにすんのよ!離して!」

「じゃあ大人しく俺の後ろに座るんだな。」

とんとん、と俺の座っているサドルの後ろを手で叩く。

「...ったく、変な性癖とか持ってたら殺すからな?」

「へいへい、俺は女とか女とか女には興味がないから安心してくださーい。」

「うわ、それがまずキモいわ。」

ドン引きされた。いや、実際、一番信用ならないのは陰口言ったりしている男子達はまだましな方。一方、女子なんかは俺が話しかけると作り笑顔で返事してくるんだよ?それ、俺、嫌い。故に女子は信じられない。

「それじゃあ、事故らないように努めるから、しっかり掴まってろよ?」

「やだよ、キモい。まず命令形なのがキモい。」

「じゃあ事故っても知らねーぞ?」

「だから、そうしたらパパママが黙ってないよ?」

なんでこう、両親を武器に変えちゃうんだろう。俺の一番の敵を!

「うっ...わかったよ!...事故らないようにするためにしっかり掴まっててください...。」

そう俺が言うと、葵は不敵な笑みを浮かべて

「それでよろしい。」

そう言い、俺の腰に腕を巻き付けてくる。ちょっとドキドキしたが、こいつは妹だ。いや、でも妹と呼べるか?こんなのが?まー、一応、妹だからドキドキする必要も無いか。俺のアホ!

「ところで、学校ってどこ?」

「...はー。さすがにそろそろ本気で呆れるよ?」

「ところで、学校ってどこ?」

「同じこと言えって言ってるんじゃねーよ!」

お顔真っ赤いただきましたー!このお顔百円。やっす。

「あんたと同じだよ...。悔しいけど。」

『悔しい』と言ってる割にはそんなに悔しがっているような口調ではない。むしろ照れているようにも思えた。

「ほー、じゃあ東高校か?」

「...そう。」

「おっけー。二十分で着くようにするから、ちゃんと掴まっとけよー。」

ちなみにだが、俺らは葵が俺の両親を武器に変えた辺りで既に出発していた。つまり、今は自転車を漕ぎながら会話中だ。

「え?二十分?あたしが全力で漕いでも三十分はかかるんだよ?あんた、あたしより体力ないでしょ?え?どゆこと?」

おい、今の文章に何個はてなあるんだよ。

「悪いが、俺は二年も通ってるんだ。それに、毎日一人で帰ってるからあちこち冒険しながら帰ったりしてるんだよ。ちょっとした暇つぶし程度にな。」

「へー、ゴミいちゃんのくせにやるじゃん。」

「ありがとさーん。」

傍から見れば、何気ない普段通りの会話のように見えるが、俺にとっては全然何気なくない。回りくどいな。特別だ。

「ところで、葵って何年生なんだ?」

「ちょっと、あんた今日熱でもあるんじゃないの?起きた時から顔腐ってたし。」

「残念だったな、それはいつもの事だ。」

「自慢するところじゃないでしょ...。それで、熱はないの?」

そう言いながら葵は俺の腰から片腕を離すと今度は掌で俺の額に触れる。

「ヒャッ」

「ちょ!キモッ!マジありえない!」

「わりいわりい、不可抗力だ。」

まったくと言わんばかりのため息を首筋に感じた。そういうのも危ないのでやめてね。

「んー...熱は...ないっぽいね。それならいいやー。」

そう言い、再び腰に腕を巻き付けてくる。

「そんで、俺の質問の答えは?」

「...あたしは高一。あんたの一個下。」

言いそびれていたが、俺は高校二年生。さっきさりげなく高二っぽいことを言ったが、気づけたかな?

「ほう...。」

「それで、あたしの学年聞いて、なにかしたの?」

「いやー、別になんでもー。」

「じゃあ聞くなし!」

再びお顔真っ赤いただきましたー!ほい、百円。

 とまあ、こんな感じでどうでもいい会話をしながら俺らは学校まで向かった。

  ぶっちゃけ、くすぐったかったし、めんどくさかったけど、楽しかったから文句は無いな。

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

  学校に着き、駐輪場に自転車を停めると葵は颯爽と走り去っていく。ふと、かごを見ると、見たことのない手さげバックがあった。

「ちょ、葵!弁当!」

「なっ...!」

一瞬硬直してから、踵を俺の方へ向けて走ってくる。顔を隠していてよく表情は見れなかったが、多分、お顔真っ赤なのだろう。だって、普段通りなら隠す必要ないじゃん?本日三つ目のお顔真っ赤いただきましたー!百円。学校に着くまでの合計、三百円でーす。

「ほれ。」

「...ありがと。──なよ。」

感謝の言葉を残して再び校舎の方へ走り去っていく。最後なにか言っていたようだったが、赤い顔が可愛かったので聞き流してしまった。

 葵を見届けてから俺も校舎へと向かう。この時間の楽しみは、スマホをいじることだ。放課後までいじれないスマホを堪能しようとポケットからスマホを取り出し、電源をつけると、ぱっと今の時刻が表示される。『八時三十五分』

見た瞬間、キーンコーンカーンコーンという鐘がなった。始業の鐘だ。

「遅れんなよ」

 多分、葵が言い残した言葉はこれだろう。

「あの、バカ!重要なことは大きな声で言えっての!」

 

 ダッシュで教室まで駆けつけると、既に朝のSHR(ショートホームルーム)が始まっていた。

  俺が教室に駆け込むと、みんな、否、ゴミ共の視線が俺に向く。俺は息を切らせていたが、先生に

「うす。」

と言って自席に向かう。

ここからいつもの地獄の始まりだ。

 

 「さようならー」

  みんなが揃って言うと、各々散らばっていった。

「んー!」

  一人伸びながら言い、伸び終えるとそそくさと教室を出ていく。あんなところにいる意味無いからね。

  俺がちょうど昇降口付近まで来たところで誰かに肩を叩かれた。誰だよこんな俺に話しかけるやつなんて。呪ってやる!そう思いながら振り返ると、そこにいたのは

「ちょっと、目が死んでるんだけど。キモッ」

「おう、ありがとな。俺の目は朝から死んでるぞ。」

「ばっかじゃないの。」

「それより、俺なんかと学校で話しててもいいのかよ?」

俺は葵が俺と関わっていることでいじめられたりしていないか不安だった。兄が俺だから関わるなって無理な話か。ごめんな、俺がにいちゃんで。

「べっつにー。あたしがあんたと話しているのは業務連絡だと思って見られてるからね。」

「そ、そうか。」

 結構残酷だな、それ。

「そんなことより、早く帰るよ。自転車、よろしくねー。」

「ういうい。」


 自転車置き場に着くと、俺はサドルにまたがり、葵はその後ろにある荷台にまたがる。

「ほれ、行くぞ。」

「はいはい。」

そう言いながら腰に腕を巻き付けてくる。

「事故んなよ?」

「命をかけて誓う。」

そう言って俺は地面を蹴って漕ぎだす。

 再び、帰り道もどうでもいいことを話しながら下校した。

 帰りは急ぐ必要も無いのでゆっくりまったり漕いでいた。こうやって二人きりでいる時間もなんだか心地よかったし。

「ちょっと、ペース遅くない?あたし、これでも結構恥ずかしがってるんだからね?早くしてくんない?」

「ちっばれてたか。」

「なーんか言ったかなー?」

「な!おまえ、なんで聞こえてるんだよ!」

「そりゃあ、あんたの後ろにいれば聞きたくなくても聞こえるわ!」

そうだ。俺の後ろには綺麗なお耳が二つついた人がいるんだった...。清潔でちょっと小さい耳をつけた俺の妹が!

「ほれ、そろそろ着くぞ。」

「はーい。」

 俺は妹のこういうところが好きだ。普段はあまり仲が良くなくても、時折見せる兄を慕ってますよーと言わんばかりの言動。俺はこういうところが好きだ。やだ、俺ってシスコンじゃん!

 その日の下校はいつもと違ってイヤホンをつけながら下校しなかった。

 

  家に着くと、俺は手洗いうがいをとっとと済ませて自分の部屋にこもる。

  やっと自分一人の時間になれて深いため息が出る。

  しばらく音楽聴くなり、動画見るなり、ゲームするなりしていると、勢いよく扉が開かれる。

「ちょっとあんた!なに一人で遊んでんの?あたしの遊び相手になりなさいー!」

「...はい?」

「ふふーん、あたしがと・く・べ・つに、あんたとテレビゲームしてあげる!」

「なんで上から言うんだよ...」

 確かに、俺の家にはテレビゲームがある。が、家庭的にもぼっちな俺は一人ですることを強いられていた。だから対戦とかしたい時、COMとやらなきゃいけなかったなー。弱くて話にならなかったよ。

「それじゃあ、下に来てねー!」

こいつはツンデレなのかそうでないのか...よくわからんやつだ。でも可愛いからいいのっ!

 下に降りると、既にテレビとゲーム機本体の電源が入っていて、いつでもできますよ状態だった。

「そんで、何して遊ぶんだ?」

「んー、あたしは別になんでもいいやー」

「じゃあ銃ゲーだな。」

「うん!いいよ!ボコボコにしたげる!」

さらっと、怖いこと言ってるよ...。だが残念だったな、俺は最高難易度のCOMにハンドガン一丁で勝てちゃうほど上手いんだぞ!

「それじゃあ、スナイパーしばりね。」

「おういいぞ。ふっ、クイックシューターの俺をなめるなよ。」

「やだよ汚い。」

「だからそういう事じゃねーよ!」

「レディ、ゴー!」

俺が怒鳴っているとテレビから男の声が聞こえてきた。試合開始の合図だ。

「せいぜい今のおまえの頭を可愛がっているんだな。」

「あーら、あんたこそ今の脳みそ大切にしておきな?」

グロいよ!言ってることがグロいよ!

 ふらふらと適当にマップをうろちょろしては芋ポジについて見回してみたりしていると、

「みーっけ!」

見つかった。まずい、まずは頭を隠さないと。

 そう思い、俺は地面に伏せる。丁度壁の影になるから大丈夫だろう。

「ふっ」

え、と思い、声の主を見たが、恐ろしい笑みを浮かべていた。この人、本当に人殺しちゃいそうで怖いな。

 俺は再び画面に向き直る。すると

「甘いよ、甘いよにいちゃん!」

ん!にいちゃん!?と思っていたら、やられた。綺麗なヘッドショットだった。

「はあ!?」

「ふっふっふー、あたしをなめてもらっちゃ困るぜー?」

「おい、さっきおまえが言ってたこと俺も言っていいか?」

「へー?聞こえないなー?」

こいつ...

「これがあたしの得意技、壁抜き!」

「まんまなんだな。」

名前こそダサいが、効果は抜群だ。こいつ、スナイパーの長所をとことん活かしてやがる。射程の長さ、威力の高さ、壁の貫通力、弾速などなど。さらには俺のいる場所を正確に把握している。

 ちなみに、俺らは今プレイしているゲームはテレビとゲームパッドにそれぞれの視点が映るようになっている。よって不正は無い。多分。

「へいへーい、その程度かなー?」

「...ふっ、これくらい想定内さ。これから、これからだ!」

そう言い、俺は静かにスコープを覗く。ゆっくり、ゆっくりと照準を合わせていく。そして、息を殺してトリガーを引く。パァーンと馬鹿でかい音が響き渡る。...決まった!ヘッドショット!

「な!どこから...そこかぁー!」

「ふっふっふ、俺はクイックシューターなだけじゃなく、超長距離狙撃も得意なのだよ。」

「へー...なるほど...ね。」

 葵はそう言うとまた、にまぁと笑っているようだった。なんだか嫌な予感がしたので、場所を変えようと立ち上がって後ろを振り向くと

「さようならー!」

葵が叫んだ途端、ヘッドショットされた。

「おまえ、なんてステルス能力だ...!できる!」

 その後の流れは完全に葵にあった。どこにいても視界に入った途端、一寸の狂いもなくヘッドショットしてくる。こんなの勝てるわけねーだろ!

「あと一キルー♪」

 ふふんと鼻歌を歌いながら待ち構えているようだった。俺は無性に腹が立ったので、ダッシュで特攻することを決めた。今度は障害物がなにも無い場所じゃなくて建物の中を通って追い詰める。追い詰めようとした。

「パァーン」

 大きな音が響いた。と思ったらヘッドショットされた。曲がり角を曲がったところでやられた。キルカメラを見ると、伏せながら待っていたらしい。この、お芋め!

「やったぁー!あたしの勝ちー!」

「悔しいけど、今回はおまえの勝ちだな。」

「じゃあ明日あたしの要望するの奢ってねー。」

「な、そんなこと聞いてねーぞ?」

「だって言ってないもん。勝者は敗者の上に立つ。これ常識でしょ?」

「クソみてーな常識だな!」

半ばヤケクソで言った。かなり悔しい。俺は今まで銃ゲーで負けたことは数回しかない。ましてや、スナイパー勝負なら百戦百勝だ。

  それなのに、俺は...妹に負けただとっ!?

 だが負けは負けだ。そこまで俺の精神は腐ってない。ここは素直に要望を受け入れよう。

「まーわかった。次の休日にでも。」

「うん!楽しみにしてるね!」

こんにゃろ...可愛い笑顔見せやがって...あー!恨みたくても恨めねー!

 

 俺らはスナイパー勝負でほとんどの気力を使い果たしてしまった。

「あー、あたしちょっと寝てくるわー。久々に疲れた。」

「おー、俺も寝るわー。」

「なっ!あたしと添い寝しようとか言うんじゃないでしょうね!?」

「言わねーよ。ぶっちゃけ?したいけどね。」

「言ってんじゃん!キモイ!マジキモイ!」

あー、可愛いなー。これが妹というやつか...。悪くない!けど、可愛げのないところはちょっと腹立たしい!

 

 自分の部屋に戻り、少し休憩してから俺は課題に取り掛かった。俺、偉いから!...俺の行っていることを正当化しないと宿題やる意味がなくなってしまう。

 

 しばらくして、また扉が勢いよく開けられる。

「あんたー、ご飯ー。」

「おまえは俺の妻か!」

「死んでもなりたくないね。」

キラキラ笑顔で言われた。この娘、怖い!

「すぐ行くから、先行ってろ。」

「はいよー。」

 そう言い残して葵は部屋を出ていく。

 俺はいじっていたスマホに充電器をさしこんでから部屋を出ていく。

 

 食事の場では何年ぶりになるかわからない両親と一緒にご飯を食べた。しかし、会話はなく、つまらない食事だった。やっぱり次からは今まで通りに俺の部屋で食べよう。

 

 「ごちそーさーん」

俺は食器をシンクに運んですぐに自分の部屋に戻る。

 ベッドに横になるのと、深いため息が出た。

「はあー。しっかし、今日はどうしちゃったんだよ。いや、本当の俺には妹なんていないからどうせ夢なんだろうけど。」

 俺はわかっていた。これは夢だと。それならば一層の事、楽しんでしまえばいいのだ。夢の世界であればなにをしても現実の世界ではなにも変わりはしない。なら、なにをしようが俺の勝手だ。俺の夢なら俺がどうするかも俺で決める。

 そして、どうするかなんてもう決まっている。


 ──妹がいる今を楽しむ!

 

 

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