Episode.4 この部に『活動』という存在があったら
明くる日、俺は昨日よりも早く登校した。遅刻はいけないからね!
しかし、昨日とは異なる点がある。『とくしゅぶ』の連中と登校していることだ。
思い返せば昨日の夜、俺らは深夜まではしゃぎまくって、結局俺の部屋に泊まっていくことになったのだ。
「床に寝ることになるけど、いいのか?」
「別に構わないよー。」
「ウミがいいなら私たちもいいよね?」
「うん、大丈夫だよ。」
「私は天井を借りれれば問題ないわ。」
「あんまり床に触れたくないけど...まあ仕方ないわね。いいわ。」
「私は自分の部屋で寝るわ。隣の部屋だから大して変わらないでしょ?」
「おう!そうだな!それじゃあ今日はみんなで寝るぞー!」
アリオスはいつものように馬鹿でかい声で言い放つ。
「ところで、俺はベッドで寝てもいいのか?」
「正直ありえないけど、まあ、仕方ないわね。」
「なんかさっき同じフレーズを聞いた気がするんだが...」
「なーんのことかしら?」
シャイターンてめぇ......覚えてろよ!
「ほんじゃ、隼斗。風呂、行くぞ!」
「......はい?」
あまりにも唐突に理解不能なことを言われた。
「だから!風呂入りに行くぞって!男同士、親睦を深めるにはやっぱり背中流しだろ!」
「......わっけわかんねぇ」
そう言いながらも俺は風呂に入る準備をしてアリオスについていく。どうやら大浴場に行くらしい。
確か、大浴場は一階の端っこにあった気がする。
「それじゃあ俺らは風呂入ってくるからおめーらも入っとけよ!」
「わかったー」
皆が揃って言ったのを確認すると俺らは部屋を後にする。
てか、もう夜も遅いのにまだ大浴場開いてるんですかね?
○○○○○○○○○○○○○○○○○
驚いたことに、大浴場はまだ開いていた。
「なになに、風呂に入る際はしっかりと体を流してから入ってください...当たり前じゃね?」
「そういうことができない輩がいるから書いてあるのさ。まったく、常識知らずめ。」
「おまえ、以外とブラックなところあるのな。」
「あー。いつもの俺はあんな感じだけど、考え深いやつなんだぜ?」
「おー怖い怖い。」
既に俺たちは真っ裸になって風呂に入るところだ。
扉を開けると、そこにはとても大きい浴槽があり、周りにはシャワーらしきものがちらほら見える。
俺たちは真っ先にシャワーのところへ無言で向かった。
一通り洗い終えると、アリオスはまだ体を洗っている最中だった。
「おまえ、毛むくじゃらで大変だろ?」
「ん?あーそうだな。小さい頃は面倒だと思ってたが、今はもう慣れちまった。なんなら先入っててもいいぞ?」
「自分の言ったこと忘れるなよ...ほら、背中流してやるから。」
「お!頼むわ!」
「ういうい。」
ゴシゴシゴシゴシと洗っていると、ふと疑問に思った。俺、髪洗ってるのか?
アリオスの体は、獣族であるが故に毛むくじゃらである。それを洗っている感触は髪を洗っているのに近い。
「お客さーん、痒いところはないですかー?」
「あー、最高だ!」
俺のばあちゃんは床屋をやっていて、小さい頃からその光景を目にしていた。このセリフ、言ってみたかったんだよなー......
「よっしゃ!次は隼斗、俺が背中流してやる!」
「おうー、頼むわー。」
素っ気なく返して床に座る。ヒヤッとして少し身震いした。
しかし、こうやって背中を流してもらうのなんて今まであっただろうか?いや無い。
なぜかわからないが、また身震いした。
「よし、こんなところか?」
「おう、ありがとな。」
背中で感じたアリオスの手は俺の手より少しだけ大きい感じだった。俺の手がイマドキの男子高校生の平均サイズだとするとアリオスの手は大きい方だろう。ほら、俺、他の男子の手のサイズとか知らないから?手合わせたことないし。
一通り体を洗い終え、背中流しもできたことなので俺たちは浴槽に浸かることにする。
「おー、これはなかなか。」
「だろう?この風呂、実は温泉なんだ。」
「おまえ、俺の故郷の言葉わかんのか?」
「は?温泉は全世界共通だろ?」
「温泉どんだけ有名なんだよ......」
「知らないやつがいるなら是非とも一発殴ってやりたいぐらいだわ!」
ニコニコしながら物騒なことを言っているアリオスでした。
「ところで、全世界って言ってたけど、この世界ってどんくらいのサイズなんだ?」
「ん?あーわりぃな、規模でかくしちまった。全世界って言ってもこの学園だけだ。この世界にはこの学園しかない。」
「なっ、それじゃあ遊びたい時とかはどうするんだよ?」
「それは、学園の敷地内に遊戯エリアがあるからそこに行けばいいんだよ。」
「ちなみに聞くけど、そこにはどんな物があるんだ?」
「んー、例えば、紙に攻撃力と体力が書かれていて、それらにはコストっていうのがあるゲームだな。話すと長くなるけど、聞くか?」
「いや、それ、知ってるから大丈夫だわ。」
シャドウなんてらだったか。
「おまえの故郷にもあったのか!?なかなか文明が進んでるんだな...」
「おいおい、亜人族なめんなよ?思いついたらとにかく実物にしないと気が済まない種族だからな。」
こうは言ってみたものの、根拠は俺自身にしかない。暇つぶしでいろいろと考えて思いついたらとにかく実物にしたがる癖が小さい頃からあった。
本を大人買いして置き場所が欲しいなと思ったら設計図無しで本棚を作ったり、ゲーム入れるケースが欲しくなったらそれっぽい収納するものを作ったりと、創造性には富んでいた。
「そりゃあいい種族だ!亜人族なんて隼斗と夜空が初めてだからなぁ。」
「なんで俺たちなんだよ...てか、俺ら含め、この学園にいるやつらはどこで生まれたんだ?」
「んー、実は俺もわからねぇんだ。この学園に来る一年前くらいのことなら覚えてるんだが。なんとなくこの学園に来なくちゃいけない気がしてな。そしてある日、気づいたらネオ学園にいた。」
「ほほう...」
俺とはまったく違うタイプだ。記憶が一年前までしかない。俺は物心がついた頃の記憶もぼんやりとだがある。
はたして、暁夜空はどうなのだろうか?
他のなによりも一番気になった。
「よっしゃ、そろそろ上がろうか!」
「...んだな。」
黙考をアリオスの一言で断ち切られた。
考えるだけ無駄だ。
こんなことは本人以外知らない。
知るはずがない。
自分の事なんて、自分しか知らないのだから。
もしも、彼が、彼女がこう思っているに違いないと勝手に決めつけたら、それはただの押し付けだ。
そんなことしてはいけないし、なにより、自分に自信が持てなくなる。
異世界召喚されてまた一からやり直せるという絶好の機会を手に入れたというのに、それを台無しにはしたくない。
自分に自信を持ちたい。それが俺が今まで欲したものだ。
それは今回の異世界召喚か生まれ変わらないと手に入れることはできない。
ならば答えは簡単だ。
──夜空本人に聞けばいいだけの問題だね!
○○○○○○○○○○○○○○○
「あら、随分遅かったのね。てっきり溺れて死んだのかと思ったわ。」
「おいおいー、それだと俺も死んだことになるよなー?」
夜空のボケにアリオスもふざけながらつっこむ。俺の出る幕なしですか...
「ちょっと会話弾んじまってな。わりぃな。」
複雑な気持ちだが、一応、精一杯謝罪する。
「そんなことよりー、わたしたちそろそろ眠いんだけどー。」
言うと、発言者本人に続きレナ、ウミも遠慮気味にあくびをする。やだ、可愛いー!
いかんいかん、またいやらしい目になっているかもしれん。顔をぺちぺちと叩くとアリオスに意見具申する。
「そろそろ寝た方がいいんじゃねーか?」
「そうだなー。とっくにサリアとシャイはもう寝てるしな。」
アリオスにつられて俺も二人の方を見る。
サリアは逆さまになって天井にぶら下がりながら寝ている。どういう仕組みだよ。
一方のシャイことシャイターンはサリアの下で横になってスヤスヤと寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ている。
相変わらず、この二人は本当に仲がいい。
そして、この二人のような関係が本当に羨ましい。
そう思いながら、ちらと夜空の方を見る。俺と同じことを思っているのか、少し微笑んでいるように思えた。
「それじゃあ、私は自室に戻るわ。隼斗が暴走したら私の部屋に避難してちょうだい。」
「なんで俺が暴走するんだよ。」
「だって、そういうお年頃でしょ?」
「なっ...」
事実、俺は思春期真っ只中(まっただなか)だ。理性を保てなくなったらどうなるかわからない。
「そん時は俺がなんとかするから任せとけー!」
「さっすがアリオス!頼もしぃねー!」
ちょっと、リリさん。それ以上アリオスを持ち上げるともし、俺が暴走したら殺されかもしれないからね?それ以上はやめようね?
「それじゃあみんな、おやすみー!また明日な!」
「おやすみー」
あちこちからおやすみコールが聞こえると電気が消される。
俺もとりあえずおやすみとだけ言い、横になる。
さっきまでの明るさがなくなると、一気に室内は肌寒くなる。
季節は多分春だも思うのに、やけに寒い。
俺は少し震えながら目を瞑る。
そして、しばらくしないうちに意識は沈没した。
○○○○○○○○○○○○○○○○○
とまぁ、こんな感じで昨日の夜を過ごした。
それにしても、ゆっくり寝たのになんだか寝足りない。
現実世界の俺はアニメやらゲームやらで朝方まで起きているのがいつものことだった。
だから昨日のように日付が変わって一時間くらいで寝たのは何年ぶりだろうか。
○○○○○○○○○○○○○○
ワイワイとしながらやっとのことで学校に着き、迷いなく俺らは特殊部の部室に向かう。
部室に着き、各々の定位置につくと各々好きなことを始めた。
そんな平和な時間を切り裂いたのはアリオスの声だった。
「おまえらー!今日は活動をするぞー!」
「えー、めんどくさいー。」
「別にやらなくてもいいんじゃない?」
「私はどっちでもいいけど...」
リリ、レナ、ウミ三人組が同意見と言わんばかりの勢いで言う。
「そうですわ。我が特殊部に活動なんていらないですわ!」
「べーつに、活動したところでなーんにも変わらないでしょー?」
「ふっふっふー。今日の活動は今までのとは違うんだよ。今日は皆で遊ぶぞー!」
今まで何してきたかが俺にとって一番重要なんだが...
まあいい、とりあえず遊びとやらに付き合ってやるか。
「それじゃあ、遊戯エリアに行くぞー!」
「お、それじゃあおまえが昨日言ってたカードゲームやろーぜ。」
「カード?よくわからんが、あれのことな!名前は確か...シャドウだったっけか?」
「ちょっとー、なんで忘れてんねん。」
え、誰今の声?聞き覚えはあるけど、どこで聞いたっけ?
「ちょっと!隼斗!あたいのこと忘れたとか言わせへんでー!?」
あー、関西弁のローレルか。アリオスの妹の。いやしかし、これが本物の関西弁なのかわからないからとりあえず関西弁っぽい弁ってことにしとくか。
「ほんなら隼斗。あたいといっちょ、やるかー?」
「おまえ、できるのかよ?」
「あたいのことなめたらあかんでー?これでもまだ負け知らずなんやでー?」
「おお、それは恐ろしいですわー。」
棒読みで返すとローレルは膨れている。
遊戯エリアなる場所へ着くと、なんともゲーセンっぽい感じだった。ここ、現実世界じゃないよね?文明発展しすぎ。
とりあえず、俺はローレルについていく。
しばらくするとローレルの動きが止まる。
「ひっひっひー、あたいに勝負を挑むとは命知らずやんなー。あたいの本気、見せたるわー!」
「...可愛げがないぞ。」
「まーまーそんなこと言わないで、ローレルの相手になってくれや。」
なぜか、傍観者としてアリオスがいる。妹がよっぽど心配なんだろう。
「あ、それと隼斗。おまえの考えてることとはちょっと違うぞー?俺はどんな手で隼斗をボコボコにするか見たいだけだ。」
こいつ...来たねぇ!
「いいぜ!望むところだ!」
威勢よく始まった試合だが、俺の惨敗だった。
こいつ...できるっ...!
その後、アリオスともやったが、結果は火を見るより明らかだった。
もう、俺カードゲーム卒業します(泣)
○○○○○○○○○○○○○○○○○
俺の取り柄を全て持っていかれ、俺はやる気が無くなった。
手近にあったメダルゲームらしきもので遊んでいると
「あら、異世界でもぼっちだなんて、可愛そうな人ね。亜人族の落ちこぼれさん?」
「ん?今なんて...」
「私にもやらせてちょうだい。」
「お、おう。」
なにかが引っかかったが、夜空の言葉が流した。
夜空はカチャカチャチャリチャリしていると、面白かったのか夢中になっていた。
「おお、ガチ勢怖い怖い。」
小声で言いながらアリオスを探す。
「お、あんなところに。」
小走りでアリオスのもとへ駆けつける。
「アリオス、ちょっと聞きたいんだけど、俺らの本来の活動って何するんだ?」
「あー。実はのことを言うと、俺ら特殊部の活動は遊ぶことなんだ。」
「それって活動としてどうなんだよ...」
「この部の活動目標はそれぞれの種族の親睦を深めることなんだ。」
「ほほー。それならば納得。」
確かに、親睦を深めるために遊ぶ。単純なことだが一番効果的だ。
さらに言えば、種族代表で一人二人ずつの少人数が集まれば、ぼっちはできにくくなる。それでも、ぼっちというものはできるのだが...
けど、俺はこの部に馴染めているし、楽しいとも感じている。
この部は俺にとって心の支えだ。
この部が無くなったら俺が俺ではなくなる。
この部だからこそ、本当の自分をあらわにしたいと思える。
この部じゃなきゃダメだ。
この部の『活動』は、『遊ぶこと』です。
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