Episode.3 この学園に『特殊部』という存在があったら
何かがおかしい。
いつもの俺ならこういう面倒事には関わりたくない人だ。高校入学以来、人と関わることを極力避けてきたから、まー久しぶりで懐かしい気分だ。そして、今この状況で、俺は楽しいと思っている。
異常だ。
○○○○○○○○○○○○○○○○
「お、そうだそうだ、隼人。夜空。一つ言い忘れてたわー。」
アリオスは頭をがしがししながらそう前振りを言うと、
「俺たち特待生は授業は一時間だけ出ればいい。それ以外は自由になってるんだ。だから、ここにいる奴らは同じ時間の授業に出てそれ以外の時間をこの部室で過ごしている。」
「は?部室?ここが?お世辞でも部室だなんて言えねーよ。」
「確かにそうね。私はてっきり、物置に隠れながら過ごしているのだと思ってたわ。」
「なっ......」
「おいおいー!それは言い過ぎだろー!俺ら、悲しくなるぞ!」
俺が言葉を発しようとしたが、アリオスの悲しげな叫びに俺は思わず口を閉じてしまった。
俺の言いたかったこと。「夜空さんと同じ考えを持ってるとか、運命感じますわー!」。何言おうとしてんの、俺。
「とりあえず、ここは部室だ。」
「ちなみに聞くけど、この部の名前はなんだ?」
「あーそういえば名前決めてなかったなー。ローレル、なんかいい名前思いつかねーか?」
「んーそうだねー、特殊部、とかは?」
「おい、どこの国の特殊部隊だよ。」
「え?とくしゅぶたい?んー、よく分かんないけど強そう!」
「よっしゃ!ローレルが考えたことだ!特殊部で決まりだな!」
「ちょ、ちょっと!勝手に決めないでよ!」
割って入ってきたのはエルフ族三人組のリーダーっぽいリリだった。あのチャラいの。
「まーまー、リリ。私もなんとなく響きは好きですから特殊部には賛成ですよ。」
レナさん、礼儀正しくて惚れますわぁ。浮気性か俺は。
「そうだよー。レナの言うとおり、私も特殊部には賛成するよー。」
待て、礼儀正しいウミさんはどこに行った?ちょっとおっとりしてる感じじゃん。やだーかわいいー。浮気性の俺でした。
「よし、それじゃあ特殊部で決まりだな!」
「待ちなさい!」
二つの声が重なって聞こえた。声の主の方を見ると、二人とも見つめ合っている。正しくは睨み合ってるな。
「うっ...」
同じことを言っている。仲がよろしいようでなによりです。
「わ、私の意見を聞かないで勝手に決めるなんてありえないから!」
「そんなヴァンパイアの言うことに耳を傾けてはいけません!私の意見の方が大事です!」
「なにをー?」
再び火花が飛び散る。熱いからやめて頂きたい。
「よっしゃ、何回目かわからんが特殊部で決まり!ちょっと俺は先生に言ってくるからここで待っててなー。」
「ちょっと!私たちの意見も聞きなさーい!」
また同じことを言っていた。そしてお互い睨み合う。
こういう関係羨ましいなー
○○○○○○○○○○○○○○○○
アリオスが先生のところに行き、俺たちはこの部室(かんごく)に残された。てか待て、今気づいたが、男俺しかいなくね!?ハーレム来たー!
「隼人、だったかしら?口元が気持ち悪いわよ。あと目つきも。」
「なっ、なんのことかなー?てか、呼び捨てとか、おまえ何歳なんですか?」
「いろいろと混ざってるし...まーいいわ。私は15歳よ。今年で16歳。」
「なん、だと!?俺と同じじゃねーか!」
「そ、それならいくら残酷な事言っても大丈夫ね。」
「いやいやいや、俺も一応、人間よ?傷つくことだってあるんだよ?」
「一応と自分で言ってしまってるあたり、自分が本当に人間か自信がないのね。──けど。」
「あ?」
「いや、何でもないわ。気にしないで。」
気にしないで。そう言ってる割には悲しい表情をしている。だけど、本人が聞いて欲しくないのなら聞かないに越したことはない。ぼっちになって何も学んでなかったなんてことは無い。むしろ数え切れないほどのことを学んできた。あの短い期間で。ほら、俺ってIQ高いから?関係ないですねはい。
そんなことを考えていたら横目でエルフ三人組の視線がこちらに向いていることに気がついた。俺はそちらを向くと
「どうかしたか?」
一瞬、三人組は面食らったような表情をしたが、すぐに平静を装うと
「別になんでもないですよ。ただ、仲がよろしいなと思いまして。」
「は?あれで仲がいいって言えるの?」
「てかさー、あんたなんで私たちにため口なわけ?私たちの歳知らないで。」
「私たちは15歳ですよ。」
「ちょ、ウミ!なんで言っちゃうの!」
「だってー、隼人さんがとんでもない顔してるんだもんー。」
え?俺そんなに酷い顔してた?
「隼人、あなた誰か殺す予定とかあるのかしら?」
「そこまででしたか、すみませんでした。」
俺は素直に謝り、再びエルフ三人組に問う。
「じゃあ、次の質問。なぜレナとウミは礼儀正しいように装っているんですか。」
酷い質問をしてしまった。なぜだろう?理由は自分でもわからなかった。
「え......。はぁ、仕方ない、ね。」
「そう......だね。」
思い出した、俺は相手の話していることが空っぽなのかどうかを大体理解できるようになってしまっていたのだ。
ぼっちになって以来、会話しているグループの連中の目や仕草を見て観察してきた。そして、力を身につけてしまった...やだ、かっこいい!
しかし、その力のせいでこの場の空気は最悪だ。
「...私はレナ。知らない人が来ると、礼儀正しい人物だと自分を偽る酷い性格の持ち主。でも、自分で言うのも変だけど、大人しい性格だよ。」
「...私はウミ。レナと同じで、礼儀正しい人物を演じる酷い性格の持ち主。で、でも!実は私、マイペースな性格なんだよー。」
「ありがとう。俺を、みんなを信じさせてくれて。」
言葉の真意を掴み取れなかったのか、他の全員は首を傾げている。夜空以外の全員は。むしろ、夜空は少しだけだが微笑んでいるようだった。
「ちょっと、私を置いて何を盛り上がって...」
「ヴァンパイア族のサリア。サリアは全ての上に君臨する存在だと自分で思っている。我ながら残念な性格だと思うよ。」
「なっ、なにを...!」
「そーれーにー、悪魔族のシャイターンはヴァンパイア族は悪魔族にとって下等動物だと思っている。二人はヴァンパイア族と悪魔族、どっちが上の存在か証明するために毎日口喧嘩を繰り返している。それも言っていることは毎回ほぼ同じ。これほど仲のいい存在は他にはいないと思ってるよ?」
そう言うと、サリアとシャイターンは頬を赤らめながらぷいっとお互い反対の方向を向いた。
「俺にも、こんな関係になれる誰かがいたらいいのにな...」
独り言でそう言った。
やはり、異世界に来ても、あの忌まわしき世界と同じなのだ。少しは変わってるんじゃないかと期待した俺が恥ずかしい。グループはどの世界にも存在し、それにならえでグループがどんどんできる。それは、部室の片隅で寝ているローレルにも言えることだ。彼女には『兄』という存在がある。そしてその二人は離したくても離せない、強固な関係なのだ。
別にそこまでいかなくてもいい。ただ、『友達』と呼べる存在が欲しいのだ。
俺はぼっちになっても何一つ弱音を吐いたことがない。心の奥にしまいこめばいいだけの簡単な問題なのだから。
だが、その袋にも限界はある。
その限界は、まもなく訪れてしまうような気がした。
○○○○○○○○○○○○○○○○○
「待たせたなあ!」
「お前は軍人か。」
「あ?なんのことかわからんが、とりあえず先生にはオッケー貰っといたわ!」
そう言いながらアリオスは特殊部と書かれた紙を披露する。
みんな、感嘆していた。
...これが青春って言うものなのかもな。
「それで、これはどこに貼るのー?」
ウミが問う。
「おっ。あー、えーとな、これは出入口に貼り付けとけとのことだったからそこに貼り付けてくれや。シャイ、頼むわ。」
「はー、仕方ないねー。」
そう言うとシャイターンは外に出ていく。扉が閉まると、しばらくの間があった。そして
「なっ、眩しい!」
「おーおー、何回見ても悪魔族の使う魔法は派手だなー!」
「これ、魔法なのかよ!」
俺は光の明るさに我慢出来ず、腕で目元を覆った。
しばらくして、眩い光が収まると、シャイターンが戻ってくる。
「はい、貼り付けておいたから。これでいいんでしょ?」
「おう!ありがとな!」
「う、うん...。」
ははーん、さてはこいつ、アリオスのこと好きだなー?好きなやつに感謝とかされると確かに照れくさいよな。まったく、参っちゃうぜ!
「よし、話を変えるぞー。次の時間はみんな出席ということでいいよな?」
「異議なーし」
そういった感じに、俺と夜空以外は手をパーにして挙げていた。
「よっしゃ、決まりだな!二人は初めての授業だな!楽しんでこいよ!」
「お、おう。」
「わかったわ。」
初めての授業。なんだか小学生の時を思い出すなー。初めての登校。初めての黒板。初めての勉強。ほぼ全てが初めてといっていい状態だった。それが今、再び訪れている。複雑な気持ちだな。
複雑な気持ちに、頭を掻いていると、キーンコーンカーンコーンと鐘の音が聞こえた。異世界でもあの鳴り方は健在なのな。
俺は仕方なく、授業へと向かう。
はっ、俺の教室って、どこ?
顔に出ていたのだろうか。夜空は心底呆れた様子で
「呆れたわ。ついてきなさい。」
「......ごめんなさい。」
女子には弱い俺でした。
○○○○○○○○○○○○○○○○
教室と思わしき場所に夜空さんの誘導で、夜空さんのおかげで、辿り着けた。
「ありがとな。それじゃ、また後で。」
「何を言っているの?私の教室もここよ?」
そう言うと、俺の隣の席に座る。
「よりによって、なんで俺の隣の席なんだよ。」
「よく教室を見なさい。この教室は隼人と私の二人分の席しかないのよ。」
「なっ、本当だ。なんでなんだ?」
「アリオスに聞いた話だけど、この学園は種族ごとに教室が違うみたい。それと、この階は私たち亜人族の階よ。そして亜人族は私たち二人しかいない。」
「待て、ちょっと待て。しばらく待て。」
「訳がわからないわ...」
「亜人族が俺たち二人しかいないってどういうことだ?」
「隼人、あなた意地の悪い人ね。私も今日がこの学園の初登校日なのだけれど。さすがの私も、アリオスにそこまで踏み込んで聞いていないわ。初対面の人にしつこく聞いてもウザがられるだけですしね。」
「おー、おまえもよくわかってるじゃねーか。」
「暁夜空よ。おまえなんて名前をつけられた記憶はないわ。そ、その......夜空、でいいわよ。」
「あ?なんだって?」
「だ、だから!呼び方、夜空でいいわよ...」
「お、おう。わかった。よ、夜空。」
名前で呼ぶと、夜空の耳はとてつもなく赤くなっていた。夜空はそれを隠すようにしながら反対の方向を向いてしまった。恐らく、頬も赤くなっているのだろう。
「そ、そんなことより、授業ってどんなのするんだろうな。」
俺は恥ずかしさを誤魔化すために話題を変えた。
「そ、そうね。そのことについてもアリオスから聞いていないからわからないわ。」
すると、再びキーンコーンカーンコーンという鐘が鳴った。扉がガラッと開き、一人の人物。否、動物が入ってくる。
「あら、この時間はいるのね。」
見るからにネズミだ。でも、そこらにいる小さいネズミというより、巨大なネズミだ。毛は丁寧に整えられている。フワフワしていてもふりたい。
語尾がのねだったので、恐らく女性だろう。
「私が亜人族担当のマウス先生です。」
「そのまんまじゃねーかよ...」
「あら、私と同じことを考えているなんて、隼人も少しは成長したわね。」
「いや、さっきも同じ考えだったと記憶しているのですがそれは?」
「あら?なんのことかしら?私は記憶していないわ。隼人はもしかして、人工知能かなにかなのかしら?他の見ず知らずの人物に変なことを吹き込まれてかわいそうね。」
「もし人工知能だとしたらこの世の破滅の仕方を考えるね。そして見ず知らずの人からこっそり学ぶね。そうすれば面倒ないざこざに巻き込まれずに済むからな。」
「ほらほら、痴話喧嘩はその変までにしておきなさいね。」
「なにが痴話ですか。」
「なにが痴話かしら。」
「まったく、君たちは仲がいいようでいいねー。」
「よくありません。」
「そんなことありませんわ。」
「さて、授業を始めていきましょ!」
遂に諦めたよこの人。否、動物。
授業の内容には興味を持っていたのでワクワクしていた。それが表情に出ていたのか、マウス先生は不敵な笑みを浮かべると
「亜人族のみんなにはこれから他種族の母国語を学んでもらいます!」
「...は?」
英語は得意な俺だったが、果たして英語のように上手くいくのか?
「ではまず、この文字を『全て』暗記してもらいます!」
それは地獄の始まりだった。
あー、早く授業終わらないかなー。
そして早く安らぎが欲しい!
○○○○○○○○○○○○○○○○
「よし、それじゃあ今日はここまで!解散!」
どうやら先生も俺ら特待生は一時間しか授業に出ないと分かっているらしい。だから俺らが授業に参加するまでこの教室に通わなくてはいけない。あー、かわいそう。
「隼人、早く部室へ行きましょ。」
「あーそうだなー。行こ行こー。」
そう言い、俺ら二人は教室を後にする。傍から見ると、俺らって付き合ってる風に見えるんじゃね?いやいや、こんなやつと付き合うなんてごめんだな。
「隼人、また変なことを考えていない?顔が気持ち悪いわよ。」
「おい、せめて目がとか顔のどこかのパーツにしてくれよ。俺の顔を全否定するなよ。泣くぞ。」
「そうね、じゃあ、目と鼻と口が気持ち悪いわ。」
「賞賛の言葉をありがとうな。」
「もしかして、あなたってドM?」
「そんな訳ないだろ。」
「じゃあ、なぜ今喜んだの?」
「さあな。俺も知らん。」
「不思議な人ね...」
夜空は呆れた顔をしていたが、俺は気にせずに部室への道を行く。
「ちょっと隼人、早すぎるわよ。私に合わせなさい。」
「へいへい。」
それにしても、なぜ俺は夜空に気軽に話せているのだろうか?そして夜空も俺に気軽に話しかけてくるのだろうか?
考えれば考えるほど答えは遠くなっていく。考えなければ辿り着く答えってのも世の中にはたくさんある。今俺が考えているのもそれの一つだ。
そう思い、俺は思考を停止した。考えるだけ無駄だ。
「そう言えば、この階は亜人族専用なんだろ?ちょっとどんなのあるか見ていかねーか?」
その問いに
「そうね...私も少し気になっていたから見ていきましょうか。アリオスにも後でそう言えば、問題ないと思うわ。」
という答えに辿り着き、俺らは亜人族の階を見て回ることにした。
そろそろお昼時なのか、腹が減ってきた。
部室に戻ったらアリオスに言ってみよう。
亜人族の階を見て回ったが、現実世界の学校の特別教室と特に変わったところは無かった。ただ一つ驚いたのは、それぞれの階に体育館がそれぞれあることだ。校内マップに体育館はそれぞれの階にありますとか書いてあったのだ。いやー親切でいいねー。
そろそろ空腹度が限界なので急いで部室に向かうことにした。
夜空と二人、並んで歩いて向かった。
○○○○○○○○○○○○○○○○○
部室に戻るとみんな揃って何かを食べていた。
「お、やっと戻ってきたか!遅いぞー!」
「いやー悪い。ちょっと探索してた。」
「補足すると、私の提案ではなく、隼人の提案で探索してたわ。」
「おい、さらっと俺に罪を着せるなよ。」
「事実でしょう?」
「うっ...」
実際、事実なので何も言い返せなかった。くー、悔しい!
「まー理由はわかったからそれだけでいいわ。ほれ、あんたらも早く食っちまえ。」
「さ、さんきゅ。」
「ありがとう。」
そう言い、俺らは弁当箱らしきものを受け取り中を見た。驚いたことに、現実世界とさほど変わらない中身だった。質素な弁当。いいねー。
俺は割り箸らしきものを割って手を合わせた。
「それじゃ、いただきまーす。」
「いただきます。」
口に入れた途端、感動した。見た目以上に美味かったからだ。
「なっ...!うめー!」
「確かに、これは美味しいわね。」
「だろー?この弁当はこの学園一の料理人が作ってるからなー!美味くないわけがない!」
なんだかアリオスが学園長みたいな言い方していたが、あえてスルーした。
それにしても、アリオス以外、黙々と食べていて不思議に思った。あの仲の良いエルフ三人組も黙って食べている。
「なー、なんでこんなに静かに食ってるんだ?」
俺はアリオスに聞いたつもりだったが、返事をしたのは違うやつだった。
「あら、この学園の規則も知らないのかしら?これだから亜人族共は。」
呆れながら言われてしまった。言ったのはシャイなシャイターンだった。お、今の上手くない?上手くないですね、はい。
「あら、そこのアホと一緒にしないでもらえるかしら。私はわかっているわよ。」
そこへさらに追い討ち。やめて!隼人くんのライフはもうゼロよ!
「規則?」
顔だけでそう言うとシャイターンはため息をついてから
「あなたの胸ポケットに入ってると思うわよ。」
「どれどれ...お、ホントだ。」
シャイターンの言ってたとおり、胸ポケットには手帳らしきものが入ってた。恐らく、生徒手帳かなにかだろう。
その手帳に『規則』と書かれた項目があり、それの一つに
『一、食事は静かにとること』
と書かれていた。うはーめんどくせー。
「ま、まー規則ならわかった。静かに食べるよ。」
なるほど、だからさっきからサリアが睨んでいたのか。俺が話していると恐ろしい目でサリアに見られていた。
食事を終えると、各々は横になって寝るような体勢になった。
「これから何するの?」
「これも規則の一つ。昼寝だ。まーこれは俺ら特待生だけなんだけどな。」
「変なところまで待遇されてるのな。てか、規則に昼寝とかおかしいだろ!」
「まーまーそう怒るなって。おまえも早く寝ろ!」
「ちぇっ、わかったよ。」
俺は適当に横になり、目を瞑った。
しかし何故、規則に昼寝があるのだろうか?不思議に思っていたが、考えるだけ無駄だ。思考停止。
果たして今日何回目の思考停止だろうか?考えるのは好きだが、これほど考えるのが面倒くさいと感じたのは初めてだ。
やはり、今日の俺は何かおかしい。
○○○○○○○○○○○○○○○○○
目が覚めると他のみんなはとっくに起きていた。
待て、誰か俺の寝顔写メってないよな?
おれは一つ大きな伸びをしているとアリオスが話しかけてきた。
「やっと起きたか!それじゃあ、さっさと帰るぞ!」
「は?寝たあとすぐに帰宅とか、寝る意味あるの?」
「規則だから仕方ないだろう?」
よく見ると他のやつらは帰る準備をしていた。よく考えたら帰る準備とか何するの?見た感じ帰るような雰囲気が出ていました、というのが正しいか。
「んじゃ、私たちはもう帰るねー。バイバーイ!」
「おう!じゃあな!」
エルフ三人組のリーダーっぽいリリは別れを告げると二人を従って出ていった。
「私も帰るねー。また明日ー。」
サリアはそう告げるとぼっちで帰っていった。
「私も帰りますわ。また明日。」
シャイターンも次いで出ていった。さては、二人で帰るのかな?
「それじゃあ、私も帰るわ。ところで隼人。あなたって私と同じ寮でしょう?一緒に帰ってあげてもいいけれど...」
夜空さん、そこは照れながら言うと勘違いしちゃいますよ?
「あ、あーそうだな。てか、夜空って俺と同じ寮なのか?」
「そうよ。」
「なんでわかるんだよ。」
「だって、隣の部屋の扉を見たら隼人の名前があったのだもの。」
「へぇ...ん?隣?」
「そうよ?」
あのね...夜空さん、普通に言ってるけど男子ってそういうことがあると壁ぶち壊したりする生き物なんですよ?そこのところちゃんと把握しといてくださいね。隣が俺でよかったね!
「そ、それなら...一緒に帰るか...。」
「そ、そうね...。」
なにやらアリオスがニヤニヤしているように感じたが、気のせいだと思って無視した。
「そんじゃ、また明日な。」
「おう!じゃあな!ほら、ローレル。俺らも早く帰るぞ!」
アリオスに別れを告げると俺と夜空は部室を後にした。去り際にローレルの寝顔を見た。あー、可愛いなー。
ローレルは昼飯の時から寝てました。
○○○○○○○○○○○○○○○○○
女子と一緒に帰るなんていつぶりだろう。小学生の時、まだ女子のことをなんとも思ってない時に隣の家の女子と一緒に帰ったのが最後だと思う。俺、彼女とか作らない人だから。
しばらく二人の間には沈黙が流れていた。
桜並木の綺麗な一本道。そこを二人並んで歩いている。傍から見れば付き合っているように見えるだろう。今日で二回目だな、こういうの。俺は何かに気づき、
「夜空。」
夜空の名前を口にして
「なに?」
「あ、あの...お、俺と...つ、つきあっ」
「ごめんなさい、それは論外。」
ぐはっ!論外なんて言われるなんて思ってもいなかった。人生二回目の告白だったのに!
ちなみに、一回目は小学生五年生の時にしたのだが、俺がさっきと同じような言葉で告白したら
「ふーん。それで?」
それで?と来たものだ。俺は袖を濡らしながら走って家に帰って今度は枕を濡らしたものだ。
だが、今回はちゃんと返事を貰えた。残酷な返事だったが。それだけで俺は嬉しかった。俺の存在を認めてくれていると、そう感じたからだ。
夜空も拒否こそしたが、どこか嬉しそうだった。
嬉しそうな理由はわからない。それを知ろうとも思わない。今はこの距離が気持ちいい。一層の事、これからもずっと、この距離を保っているのがいいのかもしれない。ならば、この距離を保って過ごそう。
俺はそう決意した。
もう一度、夜空の顔を見て
「やっぱり、俺もおまえと付き合うなんて、論外だ。」
笑顔でそう言った。夜空も笑顔だった。
その後は再び沈黙が訪れ、何も話さないまま俺らは部屋に入った。強いていえば、別れ際に
「また明日な」
「ええ、また明日。」
と話したくらいだ。
こうして、俺の長い長い一日は幕を下ろした。
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