Episode.2 再出発
非現実的な出来事に頭の中で処理がしきれず、遂にはオーバーヒートしてしまった。思考停止。
「とりあえず、今の状況を一から確認してみよう。まずここはどこか?アンサーイズワカラナイ。今は何時か?アンサーイズワカラナイ。でも、朝っていうのはわかるな。あの気持ちの良い睡眠を妨げて目を覚まさせる憎たらしい朝日って感じのする日差しだ...。」
えーと次は......と考えていると、外から何やら声が聞こえる。それも一人ではなく、複数人だ。何事かと思い、カーテンを勢いよく開け、窓も開けるとそこにはアンビリーバボーな光景が広がっていた。
自分のいるであろう建物からとてつもなく大きな建物に一直線に伸びる道がある。そこにはいくつかの塊があり、そこにいる『生物』の容姿が、身体中毛むくじゃらのやつもいれば、耳の長いやつもいる。中には見た目は人間とさほど変わらないやつもいる。
「......は?」
つい口にしてしまった。本当に信じられない状況に置かれた人間というものは思考が停止する。本日二度目の思考停止。
必死に我に返ろうとしていると、コンコンと扉を叩かれた。
「誰か来たのか?」
心の中で呟いてから
「はーい」
と空っぽな返事をした。しかし、応答はない。
「いたずらかよ...。今はそういうのやめてくれ...。」
少しだけ目を潤ませながら言って扉を開ける。いつもの俺の部屋なら左に親の寝室、右には階段があるはずだ。しかしそこにあったのは木製の床で左右に伸びている。つまり、いつもの俺の家では無い。
分かり切ったことを再確認した。次に、ノックをしたやつを見つけてどういたぶってやるかワクワクしながら回りを見ると、足元に一枚の紙があった。
「なんだこれ?」
その紙を拾い上げ、文面に目をやる。さっき、外を見た時に聞こえた話し声はなんとなくだが日本語のようだった。そしてこの紙に書かれている文章も日本語で構成されている。おい、危うくここがまだ日本だと錯覚しちゃうだろ。
拾い上げた紙にはこう書かれていた。
『ネオ学園特待生 霧島隼人殿』
おいおい、特待生への通知はこんな感じに来るのか?いや、ここは本来の世界じゃないと思うからここだけなのかもな。本来の世界ではない。つまりここはいつもの世界と異なった世界、異世界ということだ。さっきの思考停止の直前に唯一判断できた内容だ。だって、獣みたいなやつとか耳長いやつとかいればそう思っちゃうでしょ。どう見ても地毛だったし。耳は...うん。つけ耳じゃないことを祈ってます。
手紙には続きがあり、そちらにも目をやると諸連絡のような内容だった。クローゼットの中には制服がありますだとか、学習道具は全て学校にありますだとか。待て、学習だと?異世界に来てまで学習しなきゃいけないのかよ...絶☆望
書かれていた通り、クローゼットには制服と思わしき物が入っていた。てか、これウォークインクローゼットじゃん。
俺は制服に着替え、クローゼットの奥にあった部屋に向かった。探索がてらに。そこには洗面所があった。俺は手短に顔を洗い、歯を磨いた。遅刻するといけないからね。ちなみに朝ごはんは食べない派の人です。
鏡で身だしなみを最終チェックし、部屋を出た。いやー手ぶらで学校に行けるっていいね!ゲスな考えをしている俺でした。
さて、部屋を出たはいいがどっちに行けばいいかわからない。左に行けば行き止まりっぽいし、右に行っても行き止まりっぽい。ぽいぽい。
右に進めの法則に則り、俺は右に行くことにした。すると、運が良かったのか上と下に行ける階段があった。とりあえず下に降りて降りきったところで左に行き、廊下の途中にあった玄関を出る。すでに人は誰一人としていない。嫌な予感がする。
遅刻すると思い、走って一本道を疾走しようとした。する直前、俺は一度俺が寝ていた部屋を見る。俺のいた部屋の周りには同じような窓がいくつもあり、窓を開けている部屋もあればカーテンだけを開けている部屋もある。
「もしかしたらこれ、寮なのかもな。」
そう判断して学校への道を急ぐ。先ほどの紙にも『窓の外に見える大きな建物はあなたの行くネオ学園です』と親切に書かれていた。
桜並木が俺を歓迎しているようだった。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
校門に辿り着くと、既に人気は無くなっていた。嫌な予感。
少し怯えながら昇降口と思わしき場所に行き、下駄箱で上履きに履き替える。校舎内は恐ろしいほど静かだった。
「絶対これ遅刻したパターンだろ...」
と寝すぎたことを後悔した。気持ちよかったのだから仕方ない。うん。
どっちに行っていいかわからず、廊下をうろちょろしていた。なんでこの紙に校門から昇降口までの行き方は書いてあるのに、校舎内の案内図は書いてないんだよ。ドケチ!
困った時は右に進めの法則で校舎内を歩いていると、ひらがなで『しょくいんしつ』と書かれたプラカードが見えてきた。人は暗闇の中に、僅かな光があればそれに縋ってしまう。俺は迷わずしょくいんしつの扉を叩いた。しかし、返事は無かった。
「すいませーん、誰かいませんかー?」
扉の前で大声を出しても返事一つ返ってこない。
「...返事が無いので勝手に入りますよー」
そう言い俺は恐る恐る扉を開けた。死体とか、ないよね?刑事ドラマ的展開を期待しつつ中を覗いたが、誰もいなかった。ちっ、俺の才能が開花する時かと思ったのに...そんなものはありませんでした。
あまりにも異様な光景だったのでしょくいんしつ内に侵入しようと一歩踏み出した、時だった。
「...!?いってえぇぇぇ!」
何かが足元にあり、それに滑って転んでしまった。マンガに書かれたように派手に転んだので痛みで死ぬ前に、恥ずかしさで死にそうだった。うわーん。
痛みを完全に忘れて思いっきり立ち上がり、足元を見ると紙があった。
「誰だよこんなところに紙置いておいたの...は!」
イライラしながらそれを拾い上げた。そこにはこう書かれていた。
『しょくいんしつにかってにはいるとはかんしんできませんねー。あなたにばつをあたえます!おくじょうにあるそうこまできなさい!』
「...なんで全部ひらがなだよ。」
呆れながら言ったが、結構読みにくい。小学生のいたずらか?いや、しょくいんしつに勝手に入るとは感心できないとか書かれていたから先生か?いずれにせよ、質が悪すぎる。というよりめんどくさい。
「仕方ない、とりあえず屋上まで行ってみるかぁ。」
重い足取りで、階段を上っていく。
ちなみに、階段はしょくいんしつを出てすぐ右にありました☆
○○○○○○○○○○○○○○○○○
階段の途中途中には不気味に光る石のようなものがあった。それを頼りにしながら上っていく。 まだ朝だと思うのに、ここの階段だけ異様に暗く感じる。そして二階、三階と上っていくうちに、違和感を感じた。
──静かすぎる。
校門に辿り着いた時同様、人気がさっぱりない。朝起きて外みた時にはあれほどいたのに。正直怖い。
無意識のうちに震えていた肩を押さえながらさらに階段を上っていくと、やっと屋上の入り口が見えた。俺は全力で上った。一歩一歩、早く、確実に。
扉の前に着くと、呼吸を落ち着かせるために深呼吸を一つした。
「すぅ......はぁ......」
あまり美味しい空気じゃなかった。よし、外に出てからもう一度新鮮な空気のある環境で深呼吸しよう。
そう決意して扉をがらっと開けた。あれ?鍵は?
屋上はかなり広く、俺のいた鶴岡第一高校全ての生徒がここに来ても収まりきりそうなほどだった。そして、その一角に申し訳なさそうに佇んでいる倉庫らしきものがあった。あそこにこの紙を書いた犯人がいるのだ。俺の右手が疼くぜ!
空は青く澄み渡っていた。
倉庫に辿り着くと、なにやら中から話し声が聞こえる。時折、馬鹿でかい笑い声も聞こえたりする。この中だけ時間が動いているようだった。声は男のものだったり、女のものだったりする。おい、合コンでも誘われたのかよ俺は?もう女なんて信じねーぞ。
女を信じない。それは高校生になってから決意したものだ。あれほど信じられないものは他にないと言っていい。語ってしまうと長くなってしまうので、その話は置いておこう。一層の事、どこかへ投げ捨ててしまおう、うん、そうしよう。どこにやねん!
自分でボケてツッコむという、とてつもなく悲しいことをしながら中を覗いてみる。中は先ほどの階段よりも暗く、ほんの僅かな光があればそれが浮いて見えるほどだ。そしてその光が倉庫の入り口の正面にある。さらにその奥、反対側の倉庫の壁にはゆらゆらと揺れる影がいくつもある。その影を辿って、本体を見ようとしたが、暗闇の中に一つだけある光のせいで逆光になり、見たくても見れなかった。あー焦れったい。
「お、ようやく来たかぁ」
誰かが言った。男の声で少し語尾が荒かったが、優しさのある声だった。
「これで全員揃いましたね。」
誰かが言った。女の声で温かみのある声だった。
「おー!あれが新入生の霧島隼人君かー!はよ入ってきなー!」
誰かが言った。女の声でチャラチャラしている感じの声だった。残念なことに、関西弁やった。あっ...。
「はぁ、あなたも犠牲者なのね...」
誰かが言った。女の声でとても冷たく、どこかで聞いたことのあるような声、そして俺に同情しているような声だった。
......
一瞬、沈黙が訪れた。
「さ、入った入った!バレるといろいろとめんどくせぇんだわ」
一番最初に話しかけられた男の声の主に催促され、俺は倉庫の中へと入る。扉を閉めると中は連中に囲まれている光以外、暗闇に包まれた。
その暗さに慣れてきた直後だった。暗闇が一転、とてつもなく強い明かりに襲われた。あれだ、よくテレビのドッキリで一回暗転させている間に仕掛け人がターゲットの目の前に行き、暗闇に慣れた頃合を狙って明かりを付けるっていうやつだな。さっぱりわからん。
瞳孔が暗闇に対応しようと開きすぎていたため、光に満ちた時に多量の光を網膜内に取り込んでしまう。そのため、目の前が真っ白になった。手持ちにモンスターがいない訳じゃないからな。
三十秒ほどすると、ようやく明るさに慣れてきて、信じられない光景がじわじわと明らかになってきた。
──八重歯があり、狼のようなコスプレをしているような男と女。女の方はまだ小学生くらいの身長だった。
耳が長く、目は緑色をしている女三人。
八重歯の可愛い女一人。
そして八重歯にプラスして先端が少し尖っていて、モフモフした尻尾のついている女一人。尻尾モフッてやろうか。
そして一際目立つ女。いかにも人間っぽそうな、どこかで見た事のあるような女だった。
あまりにもありえない光景に口をぽかんと開けていると、狼のコスプレをしている男が
「そんじゃ、歓迎パーティーを始めっか!」
と言うや否や、俺と人間のような女以外が揃って
「おー!」
と威勢のいい返事をした。
「何ここ、早く抜け出したい...」
涙ながら言いました。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
「まずは自己紹介からやってこかー!俺はアリオス、獣族だ。よろしくな!」
アリオスなる人物、否、獣が自己紹介を終えると、再びおーという盛り上げが入った。
「ほな、次はあたいな!あたいはローレルっちゅーねん!アリオス兄ちゃんの妹やー!」
可愛い。ロリ属性は無いが、異常に可愛い。お兄ちゃんは僕でちゅよー。キモ。
「次は私ですね。私はレナと言います。種族はエルフです。よろしくお願いします。」
おっ、この人は常識がなってるなー。うん、いい人だ。
「レナ固すぎるー!もっと柔らかくいこうよー!あ!私はリリ!レナと同じエルフでーす!」
こいつ...チャラい。
「リリ。初対面の人がいるのだからレナをちゃんと見習わないと。あ、私はウミです。二人と同じくエルフです。よろしくね。」
星が出てもおかしくないウィンクをされて俺は視線をどこにしていいのか分からず、あたふたしていた。
「うちら、ちっちゃい頃から仲良しだったんだよー!だからこうして同じ学園に通ってるの!」
でたー、仲良し三人組奴ー。炎上するからやめましょうね。
「私は気高きヴァンパイア族の一人、サリア様であるぞー。そこの愚物共よ、私の前に跪けー。」
語尾に覇気がなくてマイナス百点!よって指示には従いません!
「あーらあーら、たかだかヴァンパイア族なだけで気高き存在だなんて、夢を見るなら寝てからにしたらどうです?」
「なーんですってぇー?あんたこそ、たかだか悪魔族でしょうがぁ?他人の幸せしか奪えないやつがヴァンパイア族よりも上に位置するだなんて、夢を見るなら死んでからになさい?」
「他人のもの奪うのであればヴァンパイア族も同じでしょー?他人の血を吸ってそれをもとに生きていく。私たち悪魔族とそんなに変わらないんじゃないんですかー?」
「なにをー?」
ビリビリと言いそうなほどの高電圧の電気が接触しているかのように、火花が散っているようだった。こういう時に間に挟まりに行くと焼け焦げてしまう。実体験済み。
「ま、まー、そこまでにしておきなって!初対面の人たちに失礼でしょー?」
「少しだあってろ!」
「あんたも人のこと言えねーだろ!」
悪魔とヴァンパイアが同じタイミングでリリに言った。リリは泣き崩れていた。ここに戦力外通告をしまーす。
「今は自己紹介の時間だからその辺にしておいてくれないかー?」
アリオスが言うと沈黙が訪れた。
「ありがとな。ほれ、シャイ、自己紹介自己紹介。」
「...はぁ、私はシャイターン。悪魔族よ。よろしく...ね?」
なんだ、最低限の常識はなっているではないか。そして最後疑問形になってて可愛いなー。あはははー。なんで笑ってんだよキモ死ね。
「よっしゃ、俺らの自己紹介は終わりだな!それじゃあ、亜人族のお二人さん、よろしく!」
「亜人族?」
俺は思わず口にしてしまった。
「あんたらは亜人族。ひとっつも能力を持っていない種族や。」
残念...期待しちゃったじゃねーか!亜人ってなんか特別な能力持ってるイメージなのにっ!でも響きは好きだから許す。
「じゃあ、まずはおまえから頼むわ。」
そう言いアリオスが指さしたのは俺ではなく、俺と同じ人間っぽそうな女だった。
「...わかったわ、私は暁 夜空。亜人族...というのかしら?それの一人よ。よろしく。」
暁夜空。どこかで聞いたことのある声、そして見覚えのある顔だ。まー世界は広いし、似ているやつが一人や二人いてもおかしくないだろ。そう結論づけて暁夜空を全く知らない他人ということにした。
「最後は俺か。えーと、俺は霧島 隼人。亜人族の一人だ。よろしくな。」
どこからか強い感情のこもった視線を感じたが、気のせいだと思ってスルーした。
「それじゃ、宴のはじまりだー!」
アリオスの掛け声とともに、一同騒ぎ出す。
宴を楽しんでいると、突然声をかけられた。
「そうそう、隼人にかけてた呪いを解いてあげるね。もう必要なくなったから。」
リリがそう言って唇を動かしているが、声は聞こえない。俺のこともう呼び捨てかよ...
唇の動きが止まると、
「はい、これでオッケー。先生も他の生徒も見えるようになるよ!」
「おまえの仕業だったのかよ...」
「細かく言うと、アリオスに指示されてだけどねー。」
「まーなんだ、とにかくありがとな。」
「いいえー」
おい、なんで俺照れてんの?そんなことより呪いって何!?俺死んじゃうの?死んじゃったかもしれないの!?怖いから釘刺しておこ。
「おいー、リリ。さらっと流しちゃったけど呪いってなにかなー?」
「ん?あー、私たちエルフ族は呪術を使える種族なんだよー!種類も豊富で幻惑させたり、苦しめたりなどなど...さっきのは幻惑系の呪術だよー!」
「一つ質問。その呪術とかいうもので他人を殺したりって出来るんですか?」
「感が鋭いねー!まー出来ないことはないかなー。あれ?もしかして誰かを恨んでる?キャー!この人誰かを殺すつもりよー!」
「おい、誤解を生むような発言は極力避けなさいっ!」
といい、耳を引っ張った。
「ああっ......。バ、バカ!エルフ族は耳が弱いんだから!軽々と性感帯触るんじゃねーよ!」
「えっ、耳が性感帯って......ギャー!」
体の中から得体の知れぬ、何かが突き刺さって来る。ような錯覚がした。リリが何かを唱えていたからそう言える。耳が性感帯とはなかなか面白いなー。
そんなことを思いながら俺はその痛みに耐えきれなくなり、意識が段々と遠退いていき、遂には朽ちた。
あの時とは違った感じがした。
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