第十七話
|≪やあ、タカシくん。まだ生きているかな≫
不意に声が耳に飛び込んできた。ずっと沈黙していたおじさんからの通信だ。
「アンタなにやってたんですか! まあいいや、とにかくピンチなんですよ。コイツらに勝つ方法を教えてください」
普段なら憎々しく感じる通信も今はありがたい。
|≪状況はスーツのセンサーを通じてモニターしている。それよりも君、すぐに降参しなさい≫
なにを言っているのか、信じられない。
|≪彼らの攻撃力は赤仮面スーツの基礎耐久性能を超える。君をミンチにするまでさほど時間はかからないだろう。命乞いでもなんでもして生き延びるんだ≫
口調こそ冷めてはいても、まるで俺のことを心配しているように聞こえた。散々俺を玩具にしてきた非人道で当然の宇宙人が、だ。
「待ってくださいよ! だってこのスーツ、赤仮面スーツは凄いんでしょう?」
だからこそわざわざ取り返しに正義の味方がやってきた。やたら特別視されてもいる。勝ち目がないとは言い切れないはずだ。
なのに、返答は変わらなかった。
|≪〝
通信は今夜もやっぱり邪魔だった。おじさんはこっちの都合はお構いなしだ。
「そうですか、わかりました。もういいです」
手足を縛る茨のツタを引きちぎるべく、渾身の力で引く。しかしまるでビクともしなかった。
「我が一撃を耐える茨だ。貴様程度がどうにかしようなど、片腹痛い」
花仮面が処刑人のように目の前に立つ。こっちの足はツタで吊られて浮いているおかげで顔の高さが揃って睨み合う形だ。といってもマスクで表情はわからない。
「通信は聞かせてもらった。黒幕の命令に背いてまで戦いを望むとは、貴様は悪の道においても悪らしいな。何故そうまでする? 貴様の勝利は誰も信じぬ、誰も望まぬ」
降伏勧告らしい。聞くに堪えない不愉快な話だ。俺の活躍を待っている人物ならいつだって心当たりがある。それを意識すればいつだって力が湧いてくる。
「知らないのか? ヒーローはな、諦めないんだよ」
余裕をもって返すと、花仮面はあからさまに激昂した。
「貴様がヒーローを語るな!」
仮面越しだというのに凄まじい迫力だ。〝ヒーロー〟が怒りのツボらしい。
(へえ、だったら……)
ここぞと狙って畳みかける。
「最初からずっと思ってたけどさ、お前って態度も口調もヒーローって言うより悪役っぽいよな? その辺ちゃんと『ヒーロー養成学校』とかで教わってこいよ。俺は普段からうるさく言われるぞ」
挑発の効果は果たして、と改めて確認するまでもない。直上へ呼ばした腕がギチギチと嫌な音を立てパワーが溜まっていくのがわかった。
あれをマトモに喰らったら――と心構えをした瞬間、首に食い込んだ。痛みは心臓を凍らせる。
(何発耐えられるのか、おじさんに聞いとけばよかった!)
ツタが張り詰め繋がった木が激しくしなる。痛みが去るまで待たず、食いしばっていた顎を開き大声を張る。
「正義なんて言葉で飾って『自分は正しい』と夢を見る、それがお前のヒーローか? 教えてやる、ヒーローってのは夢を見せる側なんだよ!」
ありもしない希望をあるように見せかけてモミジを騙すことしかしなかった。しかし今は違う。これを乗り越えれば必ず状況は変わる。ここで命を懸けないなんて嘘だ。
「貴様は我々を侮辱した! 全天正義連合の名の下、相応しい罰をくれてやる!」
これ以上はない怒りで猛って花仮面が大きく跳躍した。頂点で静止した瞬間、恐ろしいスピードで降ってくる。跳び蹴りだ。腕が開いて足が浮いた状態では防御はおろか踏ん張ることさえできない。
「夢など見せぬ、死ぬがいい!」
インパクトの瞬間、体がミシミシと悲鳴を上げ爪の先まで苦痛が支配した。不覚にも足元に
頭上からは落胆の声がした。
「あーあ、なにも殺すことなかったのに」
「ああまで言われて手加減などできるか」
「にしたってアタシのツタまで切っちゃう勢いで――って……嘘でしょ」
聞こえる声は途中で驚きに変わった。俺が動いたことがよほど予想外だったらしい。
「ツタよりも俺のほうが頑丈だったってことだな。ひとつ、確かめられたよ」
自由になった手で土をかき、膝を押して体を起こす。
「お前らは死刑執行のつもりなんだろうが、俺にとっては違うんだよ。俺にとっては――答え合わせの時間だ」
すっと息を吸い心の中で感謝の祈りをモミジに捧げる。今立ち上がることができたのは、モミジにアドバイスをもらったからだ。
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