第十四話
「学校でホラ、赤仮面に会ったでしょ?」
いきなり来た。今日何かについて話すなら、あれしかない。おじさんは存在を知っただけで逃げ出した、日常を壊すジョーカー。
「あのときね、『このひとに守ってもらいたい』って思ったんだ」
反射的にモミジの腕を解いて体の向きを入れ替える。
自分でどんな顔をしているかわからない。ただ俺の反応にモミジのほうがよほどショックを受けた様子で、激しい動きで顔を左右に振った。
「違うの! タカくんが言ったみたいに『乗り換えよう』とかそういうんじゃないの! だって地球人の保護が正義でも、宇宙人政府にとってタカくんはテロリストなんだよ? 危ないじゃん! だから誰かに代わってもらえたらって……そう思ったの」
「お前は俺が守るって約束したろ? 問題は全部、俺が丸く収めてやる」
話を全部聞いてからと決めてはいたのに言わずにはいられなかった。それだけは信じてもらわなくては、そこだけは果たさなければ俺はただの嘘つきになってしまう。
モミジは涙ぐんでいるのは、ひょっとしたら俺につられたからかもしれない。
「うん。待ってる……」
想いをしまうように、胸を押さえながらコクンと頷く。
「私ね、実は……赤仮面はタカくんがやってるんだと思ったんだよ」
ためらいがちに出た言葉で心臓が止まるかと思った。
赤仮面は俺。正体がバレることは爆死条項に抵触する。即ち爆死。
「マズイ! 俺から離れろ!」
モミジを突き飛ばし、ベッドに飛び込んで布団を被る。
「短い人生だった! 身長のことではなくだ!」
爆発までの一瞬を長く感じる、かと思えば、本当に長い。しばらく待っても奥歯は反応しなかった。変身を催促するときにはあんなに疼く奥歯がまったく大人しい。
ここで考える。
推測1 おじさんは逃げたので俺を爆死させる権限を一時手放している。
推測2 今はモミジを巻き込むので、爆発は離れるのを待ってから。
いずれにせよこの場は安全なようだ。それに布団程度でどうにかなるわけでもないと我に返って、布団から顔を出すとモミジに心配そうに見つめられていた。
「えっと……眠いの? だったら私、外に出ておくけど。それとも子守り唄とか歌う?」
「『子守り』はやめろ、サイズ的にリアルだから。ええと、そうじゃなくて……」
俺がモミジの布団に飛び込む合理的な説明が必要だ。それでいてモミジの妄想を刺激しないものでなくてはならない。
「――そうだ! ちょっと匂いを
モミジみたいにうまく辻褄が合う設定を思いつかないにしても、ろくでもないことを口走ってしまった。
当然モミジは当惑する。
「タカくんは自由だなあ……。でも私、寝るときはタカくんの布団だもん。あんまり匂いとか付いてないでしょ?」
そう言われてもまずモミジの匂いがよくわからない。眠るときに感じるのは風呂上がりでシャンプーの香りだ。強いて言うならモミジの部屋の匂いがする。
と、マジメに考えているうちにモミジが両手を開いた。
「だから
ここで断れば、さっきの宣言が本心ではなかった説明をしなければいけなくなる。
(だからこれは仕方なくなのだ。……仕方ないのだ)
己に言い訳しつつ、ゆっくりとモミジの腕の中へ滑り込む。今夜にはまた添い寝が待っているとしても、いつだって触れ合っていたいのは本心としてある。
胸に抱かれ、これでいよいよ子守りそのものの形になった。プライドを保つために話題を元に戻すことにした。
「それでその……どうして俺が赤仮面だと思ってたんだ? あくまでも過去形な。思ってたって話な」
男のプライドなど知らずに俺の背中を撫でて子守唄など口ずさんでいたモミジだが、質問を聞いて急にそわそわと落ち着きをなくし始めた。
「だって私にとって〝ヒーロー〟っていったらタカくんだから。エヘヘ」
いたずらっぽくはにかむ緩んだ表情に見惚れる。
肯定こそできないものの、その妄想だけは真実にしたい。あのニセ赤仮面が邪魔するなら、全力で退場させるまでだ。
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