やじろべえ

五臓六腑ひふみ

1 書簡

 病んでから、季節のにおいに敏感になった気がして、その点では良かったな、などと不謹慎ながら感じています。

 晩秋になりました。

 「27クラブ」という言葉があります。表現をする人たちは、二十七歳で自ら死を選ぶケースが多い、と。ジミヘンとかカートとか。私は最近二十八歳になりました。なぜか生きています。不思議でたまりません。大人になれば生きるのが楽になるのかな等と漠然と期待していましたが、そうでもないようです。生きるのは難儀しますね。年上の人間を見ると、単純に、生きるということを継続していてすごいなあと感じる次第です。

 若さを失うにつれ不安を抱く一方、やっと舐められる事なく正当に扱われつつある自信も得られるようになり、差し引きトータルで辛うじて何とかバランス保てている、という感じです。

 あえて感謝の気持ちは書かずにここまで記してみました。小学生の夏休み、地元のこども科学館で開催された工作教室に参加した時のことを思い出します。テーマは「やじろべえ」でした。針金と粘土と画用紙を使い、V字型に折り曲げた針金の一点でバランスを取れる作品にする、という趣旨でしたが、私のものは自分なりにいくら頑張ってもバランスが取れず、専用の台から落ちてしまうのでした。他の子どもたちが完成品を手に去って行くのを見て焦りが募りました。そんな時、職員さんがやってきて重りの粘土をつけてくれて、結果的に私のやじろべえは部屋に飾れるようになりました。

 いま、私にとっての生きることがあの時の「台」だとして、あなたは職員さん的な存在なのかな、と感じています。どんなに揺れ動いても、転げ落ちずに済んでいます。少なくとも、「私が生きているのは私のおかげではない」という感覚を、いま確かに抱いています。

 肉筆で礼を言うと何だか、言葉に思いが支配されてしまいそうなので、やめておきます。頑張りすぎてしまうあなたのことが心配です。考えすぎてしまうあなたのことが気がかりです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る