第8話口に合わないもの

口に合わないものがある。


どうしたって受け入れられない。咀嚼し飲み込むことのできないもの。舌に触れた瞬間、もしくは匂いを嗅いだだけで顔をしかめてしまうほどのもの。誰にでも、そういったももはあるだろう。


私の場合大きく二つ。細いのは多くあるが大人になってだいぶなくなってきたので割愛する。


セロリと青魚である。


これだけはどうやっても絶対にダメだ。どんなに誤魔化してもどんなに隠しても全然ダメ。セロリなんぞ一度間違って口に入れようものなら、しばらくその悪臭に苦しむ。青魚も同様で、一度口に入れたことはあるが結果飲み込むことができず吐き出したことがある。以来口にしていない。


どうしてこうなったかは定かではない。魚は全体的に好きではないが吐くまでではないし、匂いが独特な野菜は好きなものも多い。流行りの香菜パクチーなんぞは最初はダメだったが最近ではないと物足りないと感じてしまう。しかしセロリは食べれない。何度やってもダメ。


このようにどれだけ努力をしようとも受け入れられないものがある。食べ物に例えると分かりやすいが、これは色々なものにも当てはまる。人間関係や創作物の類い。映画や音楽なんかに関して言えば、私は作品への愛情を感じない作品がどうしても口に合わない。




私は音楽に関しては趣味がはっきりしていて、嫌いな音楽は音楽としてみなしていない。こんな風に書くと誤解され易いが、私はどんなジャンルの音楽でも大抵好きなのでそもそも音楽として成り立っていないものだけが口に合わないのだ。何をもって音楽とするかは、詳しく書き出すと長くなるので割愛するが、私が音楽に求めるのは三つ。


ひとつ、歌詞に伝えたいものがあるか。


ひとつ、耳に残るメロディラインがあるか。


ひとつ、エンターテイメント性はあるか。


以上の意思を曲を通して作り手からひとつでも感じられればそれは音楽であると思えるし、逆にこれらがひとつも無ければ「なんでコレ発売したの?」となってしまう。プロモーションや金儲けがだけが目的で、オマケに惰性で作られたものは聴いても心が躍らない。ゆえにそれらは音楽とは言い難い。


映画も同じである。作っている側の溢れ出る手抜き感。同時に作品への愛情が全く感じられない時、私はそれを映画とはみなさない。昨今流行りのアニメ・漫画原作の実写映画は特にこの傾向が強い。別に実写化映画を毛嫌いしてるわけではなく、実写化映画には作品への愛情を感じないものが多いなと思ってしまうのだ。これは私の中で揺るぎない事実だ。もちろん例外もあるが、とにかく多い。


こんなことがあった。とある事情で某少女漫画を原作にした実写化映画の監督と話す機会があった。私は読んだことはなかったが、それがかなり有名な作品であることは知っていた。監督から「◯◯という作品なんですが」と映画の資料を渡された。「ああ、有名ですよね。知ってます」と言うと監督は「へえご存知ですか。有名みたいですよね。私は知らないんですけどね」と言ったのである。私は驚いて聞き返した。「え?知らないのに撮るんですか?原作読まないんですか?」というと彼は何でもないように「ええ。まあ」と言った。これは事実である。私は物凄く些細な部分とは言え自分が初めて携わったこの映画をついぞ見る気にはならなかった。些細な部分に携わった私と総指揮をとる監督が作品に対して同じレベルの気持ちなのである。そんな映画を誰が見たいと思うのか。


実写化映画を批判するとよく外野から「原作者は儲かってウハウハなんだからいいだろ。新規の客層も開拓できるし。信者みたいなファンがギャーギャー言ってるだけ」と言う人がいる。私はこれに対しては些か否定的である。。儲かる、確かにそうだ。金は時に愛よりも重い。しかし原作者の人はネットや巷で「あの映画クソツマンネーw」と嗤われるのをきいて心中穏やかでいられるのだろうか。クソツマンネー映画の原作として名を広めることが、本当に良いプロモーションと言えるのか。


かつて著名な作家であるミヒャエル・エンデは自身の作品「はてしない物語」原作とする映画「ネバーエンディングストーリー」の内容に抗議し裁判をした。結果はエンデの負けだったが最終的に彼はオープニングの場面から自分の名前を排除させることで決着した。これは自分の作った作品ではない、という精一杯の彼の抵抗だろう。皮肉なことに映画は世界的大ヒットとなった。私は裁判に負けてまでも自分の作品を守りたかった彼の汚れなき作品愛を尊敬している。


以上のように私の嫌いなものについて一方的に書いてみたがこれが世間一般にみて正しい意見かは分からない。他人に押し付ける気もさらさらない。私は間違ってるとは思わないけど。少なくとも、自分の口に合わないものに対してはこれからもはっきり言及していこうと思う。まず手始めに今日この場で。


セロリと青魚、それから作品への愛を感じれない創作物はこの世から消えてもらっても私はいっこうに構わない。

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