第7話食えよメロス
メロスは激怒した。
二時間食べ放題とは名ばかりで、配膳とオーダーで時間稼ぎをする小ズルい飲食店に。
メロスは激怒した。
焼肉屋専門店の食べ放題!という割に、出てきたのがペラペラかつゴムの様にしなる肉で「アレ?これって靴の中に入れて中敷き代わりにしたらいい塩梅なんじゃないかしら」と思ってしまうほどの肉だったことに。
メロスは激怒した。
タイヤ屋だか何だかで選ばれた店に食べに行ったら、素ラーメンで700円もしたことに。
メンマとまでは言わないがせめてもやしくらいのせてくれてもいいのに、と。
メロスは激怒した。
新鮮野菜ブッフェとうたっている癖に、店員が野菜に霧吹きで水をかけていたことに。
そしてその野菜が実際食べてみると水気のある紙を食べているみたいで、各種用意された特選ドレッシングとやらもかけてみたが、どっこいクソまずいことに。
メロスは激怒した。
客を舐めてる飲食店が多すぎることに。
「それは仕方のないことなんだ‥‥」
「お前は!?」
メロスが振り向くと、そこには懐かしい友の姿があった。しかしかつての友、セリヌンティウスは心身ともに擦り切れてしまっていた。
「セリヌンティウス!」
「仕方ないんだよメロス。消費者は溢れ出る情報に困惑し続けている。インターネットはもちろん、テレビや雑誌の情報は信用できないものが多い。某食べログなんて、この作者にしてみたら営業時間を確認するだけかもしくは『不味かった』というレビューを読むだけのサイトに成り下がっているそうだ」
「なんてことだ!だがしかし、お客だってバカじゃない。実際に行ってみて美味しくないとか値段に見合ってないと解ればもう二度と店には行かないし雑誌もサイトも信用を失うぞ!」
「そうだな。しかしな。残念なことに世の中には『雰囲気という名の化学調味料』が存在する」
「雰囲気という名の化学調味料!!?」
「サンキューリアクション。例えば、観光地に行くと大して美味くないものも美味いと感じ易いだろ?高いものもさほど高いと思わなくなる。雰囲気によって価値観や感覚が麻痺してしまうのさ」
「まるで魔法だな‥‥」
「イグザクトリー。魔法さ。『雑誌やテレビ、インターネットで話題沸騰の店』という言葉はそれだけで無条件に美味しく感じ易くなる化学調味料なんだ」
「それでは正当な評価でなくなってしまう」
「それを含めての評価という考え方もある。だからこそ、宣伝や話題づくりに金を注ぎ込み肝心の商品の材料費をケチってしまう本末転倒な店もあるな」
「そう。資本力があって宣伝や演出の上手い店ばかりが流行り、本当に美味しくて地味なお店はどんどん衰退していくのさ。あくどい店も増える一方だ」
「なんて店だ!生かしては置けぬぞ!」
メロスは居ても立っても居られずに、都で有名なオシャレラーメン屋に飛び込んだ。
「御免!」
「っしゃませ。ご予約ですか?」
「ラーメン屋に予約がいるのか?」
「当店完全予約せいせいすっ」
「席は空いてるじゃないか。良いだろ?」
「っちらリザーブっのきゃぁくさまで」
「いやすぐ食べ終わるから頼むよ!」
「マネジャー!マネージャー!ヘルプですぅ!カテゴリーCですぅ!」
「なんだよその暗号」
「さいさいせぇ!なにか問題でしょかぁい?」
「キミは上司かな?この店で‥‥」
「テンチョー!テンチョー!カテゴリーCデスゥ!!カテゴリークレイマーデスゥ!」
「隠せよせめて」
「ウス!ディオニスです。いちおう
「いや、しちゃったっていうか。飛び込みなんだけどラーメン食べれないのかなって」
「そうなんだよね。ウチは予約がデフォなんだ」
「アレ?なんかタメ語になってる?」
「ウチはさ。特別なラーメンをユーザーに提供することをポリシーにしてるわけ。その為に色々と必要なプロセスがあってさ。一人の特別なユーザーに対して時間かけて特別なラーメンを作るんだよね。だからリザーブしてもらうのはある意味不可欠なルールなんだ」
「ああ。アンタが分かり易いことを分かりにくく言う馬鹿だってことが分かった」
「なんかアタマくんな。俺らが夢もって生きてることがそんなに悔しいかよ!」
「え?」
「テンチョー!もういいですよ!そんな奴追い返しましょう!」
「そうですよ!クレイマー帰れ!クレイマー!」
「おいおい。酷い店だな」
「ちょ、まてよ!」
「テンチョー?」
「良いぜ。アンタ、ラーメン食ってくれ」
「ええ?」
「テンチョー!!」
「ディオニス!だってそれじゃ、俺らのポリシーが‥‥」
「構わないんだカズキ。どんな相手でも客は客だ。それにさ」
「?」
「食わせてやりたくなったんだわ。夢を忘れたアンタに。俺らの
「ディオニス!」
「テンチョー!」
「っしゃ!『ゴーイング麺リー号』出航だぜ!」
今さら帰りたいとも言えないメロスだった。
「まずは麺!」
「いくぜっ!」
「で、でたー!テンチョーのNYで一年、六本木ので二年それぞれ人気のラーメン屋で修行した伝説の湯切りワザ!
「NY必要あるか?」
「そしてスープ!KAZUKI!!」
「任せろ!」
「キ、キター!マネージャーのオリジナル必殺技!!20時間かき混ぜっぱなしのスープと厳選無添加調味料の合わせ!
「やってる内容は普通だけどな」
「さあ出来たぜ!俺らのありったけ夢をかきあつめて作った
「アレ?具がネギしかのってないんだけど‥‥」
「最高のブランド小麦粉と水にこだわって作った麺」
「最高の鶏ガラと豚骨にこだわって作ったスープ」
「最高の調味料」
「「「その全てがここにある!」」」
「はあ‥‥」
「ゆえに余計なものは要らない」
「さあ!喰らえ!」
「俺らの
メロス、一口すする。
「ブッ!?まっず!」
「俺ら目指してんの、美味しいっていうゴールだけじゃないからね」
「特別を届けることが優先ていうか」
「味はまあ‥後から付いてくれば?的な?」
「いやダメだろ。飲食店なんだから」
「ちっす。ありがとうございます。お会計でぇっす」
「え!?たっか!2400えん!?馬鹿じゃん!?ラーメンだよ!?」
「飲み水も特別でっす!」
「うるせえ!馬鹿!たけえよ!」
「は?払わないの?やっぱクレイマーじゃん。カズキ。警察」
「あいあい↘︎さーっ↗︎!」
「あっ待って!いや払うよ!警察はダメ!明日妹の結婚式なんだ!」
「コングラッジレーション!TAX、サービスしまーす!」
「クソ‥‥なんて店だ」
メロスは店を後にした。
非力なメロスにできることと言えば某食べログと某ぐるナビ、それから某ラーメンデータベースにありったけの悪口を書くこと。そしてセリヌンティウスには「美味しかった。オススメだよ^ - ^」とURLをラインで送りつけるくらいだった。
やはり美味しい店や両親的な店は、自分で探すほかない。ネットや雑誌は宛にならない。他人も信用してはいけないと。
※このエッセイはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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