第6話 麺類大好き三文さん
麺類が好きだ。米の飯もさる事ながら、我が人生において麺は偉大なる存在である。
外で、家庭で、今や私たちには欠かせない食品のひとつだ。「麺」の一文字を見た瞬間、人はきっと思い思いの麺類を頭に浮かべ、そして胃の躍動を感じるのだろう。麺こそ至高の主食である。
私は自分でもそうだと思うくらいの偏食だ。とにかく偏った好みをしてる。
何も食べ物に限った話では無いのだが、ここでは取り分け食べ物の話を中心に書いていきたい。
しかし誰に頼まれたワケでもないエッセイを書き続けるというのはとても複雑な気分だ。どうして私はこんな物を書くのか。それでもやはり書かずにはいられない。書きたいからだ。いつかこれが何かの役に立つと信じている。
閑話休題
子供の頃に「食べ物は何が好き?」と聞かれて、私は即座にこう答えていた。
「麺類!」
なんとまあ。幅広いのか狭いのか解らない。ある意味可哀想な子供だ。
「ハンバーグ!」
「カレー!」
「お寿司!」
どれもこれも子供らしくて素敵な答えだ。しかし子供の私にその選択肢はなかった。
子供の頃の好物というのは普段何を食べさせてもらっているかで決まると私は考えている。私の母は仕事が忙しかったので食事はかなり自由だった。自炊か外食を選択させられた。当然、小学生に自由にさせたら偏る。だが子供の手だ。大したものは作れない。結果、麺類が私の好物になり同時に主食になった。
ハンバーグ、カレーライス、お寿司。
上記した食べ物はいわゆる子供らの代表的な好物とされている。ハンバーグは美味い。カレーライスも美味い。だがどれも子供の頃の私にとっては身近な料理ではなかった。それに比べて、麺の手軽さったらない。だから私は今だに麺類が好きだ。
昼も夜も。同じ麺類が続いても一向に構う事ない。大歓迎なのだ。
あらゆる麺類が私の好物にあたる。
ラーメン、うどん、そば、パスタ、素麺、ひやむぎ、きしめん、ほうとう、フォーにパッタイ何でもござれ。
熱々のスープに入った麺をハフハフ言いながら啜る。スープが絡むものと絡まないもの。どちらも魅力がある。ネギやもやし。焼豚やメンマといったラーメンズ。青ネギやあげ玉。カマボコやかき揚げと言ったそばズうどんズ。皆名脇役ではあるが、やはり主役は麺なのだ。
十分に茹でた麺を冷たい水でしめ、つけ汁に浸して食べるのも良い。つけ汁が熱いのも冷たいのもどちらも好きだ。出来れば醤油ベースの酸味と甘みがほど良く効いたタイプが好みだ。最近では水でしめず敢えて湯の中に入れた状態で食べるのも好きだ。釜揚げという奴だ。
焼くのも良い。焼そば焼うどん。ソースの香りが空腹時には悩ましい。私はスーパーで売っているマルちゃんの袋入り焼そばを具なしで食べるのが好きだ。野菜は好きだが、焼そばにおいての主役は麺。あっても良いが無ければなお良しなのだ。
カップ焼そばなる不思議な食べ物。焼いてもいないのに焼そばとはこれいかに。だが美味い。シンプルで美味い。それで十分なのだ。ちなみに一番好きなのはペヤングだ。一時期からしマヨネーズに絆されて一平ちゃんばかり食べていたが五年ほどで飽きてしまった。ペヤングは飽きない。
近年は汁なし麺に凝っていて、台湾まぜそばや油そば。中国の燃麺や伴麺、汁なし担々麺などお気に入りである。なんせ私は麺好きなのでスープを吸って麺が伸びてしまうのは好ましくない。麺よって柔めがいいもの固めがいいもの様々だが、やはり作り手が適切と判断したゆで具合が一番いい。そんな汁なしは麺が伸びることがないので思う存分麺を堪能できる。素晴らしい進化だ。
究極、私は麺に味が付いてればそれでいいのだ。野菜や肉はあくまで脇役なのだ。ほんの少しでいい。ネギや生姜、ニンニクなんかは薬味としては偉大だが時には麺だけで味わいたい時もある。さすがに味の無い麺を小麦粉から愛でるような通ではないが、なるべくシンプルに味わいたいという気持ちは強い。だもんで、かけ蕎麦、かけうどん、素ラーメン、具なし焼きそば。これが一番なのだ。
粗末な部屋に響き渡る麺を懸命にすする音。
ズルルルッ、ズルルルッ
ズルルルッ、ズルルルッ
貧乏な男は今日も一人、古びた漫画雑誌を手に手鍋に入った麺をすする。具なし。おかずなし。時々ライス。
ズルルルッ、ズルルルッ
男はさして美味そうというわけでもなく、ただ一生懸命に麺をすする。
部屋の中は寒い。暖房器具は古びた炬燵だけ。目の前にはパックの麦茶。
ズルルルッ、ズルルルッ
男は漫画雑誌に描かれた豪華な食事を睨みつけながら麺をすする。
ズルルルッ、ズルルルッ
「べらぼうめ。何が肉汁だ。素ラーメンが一番よ」
男の強がりに、素ラーメンはよく似合う。
了
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