第6話 チャーシューの獣とかぐや姫
恐怖、焦燥、混乱、倒錯、忘我自失、そういった感情を吐き出したあとにやっと理性に小さな火が灯り、泣きぬれた顔を上げるとそこにあったのは巨大なおっぱいであった。
涙、鼻水、汗、顔から噴き出したあらゆる液体が、丁度スミさんの胸倉に掴みかかるようにして泣き喚いていたために、露わになった胸元を濡らして、月明りに照らされながらぬらぬらと光っている。
先ほどまで抱えるようにしながら頭を撫でていてくれた両手は片脇の、何とも言えない位置に投げ出されて、伏し目に視線を流している。
ほんのり朱に染まった肌、ぽろりと完全に「こんにちわ」している超質量を持ったおっぱい。
チャーシュー麺、チャーハンの上にチャーシュー、餃子の上にもチャーシュー、俺はスミさんに猛烈に欲情した。
(嘘だろ……)
下半身に血液が奔流していくのが分かる。
薄布しかない状態にあってはより鋭敏な感覚をしていくそれを制止することが叶わない。
肉の熱と柔らかさがカビの生えた若さを焚き付けていく。
(ヤバいヤバい、まてまておかしい、なんで腕なんか投げ出して何も言ってこないんだ。胸もはだけてるの直さないし)
スミさんの顔を見下ろす。
(誰だよ……)
自分に劣情を催わせている対象、スミさんの顔を改めて見て異変に気付く。
今一度、自分が欲情しているのは母親とさして齢の変わらないおばさんであるのだと、熟女の趣味はないのだということを確認して、冷静に立ち返ろうという意図があっての事であったが、これはどういうことだろうか。
いや、目鼻立ちはスミさんそのものだ。本人であることは認識できている。
人生において初めて女性の肌が、肌の密着面積の割合が、一定を越えてしまったために、子孫を残すための遺伝子が、フル稼働して、欲情して、引いてはその影響で視覚認識にも補正が掛かっている?
……?
若いのだ。
スミさんが若いのだ。
薄暗いせいではない、10、20くらいは若返っている、ように見える。
俺よりも若く見える。
(だって見えますこれ)
髪も良い匂いがする。ムンムンする。なんだこれ。なんだこれ。
天然パーマの様だった彼女の髪は、櫛を幾度も入れた絹のようなつややかさがあり、月夜の光に反射して一層際立っている。
なんというか、エロいのだ。スミさんが。
歯止めの存在が消えた勢いで襲い掛かっても良いのではないかという肯定意見が脳内の至る所で提議され、そもそも俺が良くてもスミさんが良くない派とお父さんとお母さんに怒られる派も入り乱れて脳内国会は騒然、大乱闘になった。
「ん……」
俺が重かったのか、見られていることを感じて恥じらいに身を捩ったのか、艶っぽい吐息をスミさんは漏らした。
脳内国会は爆発した。
チャーシュー麺上にチャーシュー麺、チャーハンの上にチャーシューの上にチャーシューがあって、餃子の上にもチャーシュー麺とから揚げ!
(ああぁああああぁぁぁああああぁぁぁぁおいしそうだああぁああ!!!)
掴みかからんとする勢いで鉤型に開いた両の指先が今乳房に触れんとした瞬間のことである。
全身須らく欲情に任せんと猛りに猛っていたために副翼も猛り、俺は天に吸い込まれていった。
うんと寒いところまで昇りつめて、我に返り、下界を見下ろす、もう何も見えずスミさんの姿は認められない。
しかし、少し離れたところではうじゃうじゃと動き回る一団が見えた。
あの化物どもだろう。
いやもういい。
今は少し頭とお○んちんを冷やそう。
満月の弧に身体を重ねて目を閉じた。
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