決着


 オクトパスがボタンを押した瞬間、ミロクの体が崩れ、激しく痙攣した。


「ひぐっ、っは、ぅ……」

「ミロク!」


 のた打ち回るミロクに、ココロは駆け寄りミロクを抱きかかえる。

 電撃がココロの体を通り抜けた。


「ッつ」

 その様子を見て、オクトパスは冷徹に分析していた。


「ふむ、やはり電気刺激の痛覚遮断は無理のようだな」

 その電撃を発するのは、ミロクに付けられた首輪だった。


「貴様ァ!」

 ココロの憎悪、散弾銃がオクトパスに向けられる。


「おっと、良いのかね、私に攻撃すれば彼女の首輪の機能をオンにしたままこの装置を壊すよ?」

「……くッ」

 未だに苦しむミロクを目の端で見て、行き場の失った憎悪を歯で噛み潰しながら、散弾銃を下げる。


「はははは、そうだな……手始めに、本当に完全不死かどうか、君たちが証明してくれないか? そうだな。君のその散弾銃で彼女の頭を跡形も無く壊してくれ」


「何だとッ」


 ココロがその命令に声を荒げた時、オクトパスはリモコンのボタンに力を込めた。


「ぁあっ、うくっ……」

 ビクン、とミロクの体が波打つ。


「躊躇えば、堪えきれない痛みが彼女を苦しめるぞ?」

 ココロに、道は無かった。


「ミロク……」

 ココロが散弾銃をミロクに向ける。その崩れそうなココロの眼を見て、ミロクは笑う。


「ココ……ロ、わたくしは、大丈夫ですか……ら」

 電撃を加え続けられて、声帯が麻痺を仕掛けているのだろう。声を出すのも苦痛なはずだ。しかし、ミロクは大きな声で言い切った。


「そんなタコ野郎、やっちゃってくださいな!」

 刹那、ココロが散弾銃をオクトパスの額へ向ける。


 そして、五回もの銃音が響いた。


「……まさか、私に銃を向けるとは。よほど酷い目に遭いたいようだな!」


 再生するオクトパス。脳、頭蓋骨、顔の筋肉が修復し、それ以外は修復されなかった。


「……? 見えない、前が見えない、皮膚もない? どうして、どうして? 不死化は成功し」


 ココロはチェンバーを換え、再び爆発散弾を五回撃った。


「ソンナァ、ワタシハフシナハズダ、カミニナレルハズダ、セカイヲスクエルハズダ」


 今度は、頭蓋骨の頭頂部が再生できていなかった。言葉も壊れかけたレコーダーのように、オクトパスの妄念だけが再生されていた。


「ココロ――楽にしてあげて」

「分かった」


 三本目のチェンバー。そして、六回撃った。


――――オクトパスが再生することは、無かった。


「相性は良かったのでしょうね、でも、それ止まりだったのですよ、貴方は」



 ココロとミロクはドクターの研究室に入った。

 主を失ったこの部屋から、ミロクの首輪の鍵を探すのは難しかったが、何とか見つけることができた。

 だが、その鍵の箱には、まるでココロがこれを取りに来るのを知っていたかのように、ワープロ文書が二枚置いてあった。


 一つ目は脱出経路などが書かれた紙。


 二つ目は、ココロとミロクに宛てた手紙。


 二つ目には、こう書かれてあった。



『二人とも、どうかこの世界を赦してくれ』と。

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