第拾二話
夕刻。
賑やかに帰ってきた夏樹と紅尾を待って、志木は皆を集めた。
「さて、そろったね」
座敷に集まった一同を見渡して、彼は笑んだ。西日に照らされるその整った横顔には濃い影が刻まれる。
「集まってもらったのは、他でもない。僕たちに依頼だ。……秋彦、説明頼むよ」
「はい」
秋彦は頷くと、その場で立ち上がって皆を振り向いた。そして、花散里から依頼されたことをはじめとして一通りのことを説明する。
その間響くのは、どこか遠くから聞こえる子供たちの声と夕刻を告げる鐘の音だけだった。
全てを聞き終えた面々にはしばしの間沈黙が落ちたが、それを破ったのは夏樹だった。
「ひゃー、どえらいとこから依頼が入って来ちまったもんだな!」
彼が手を額に当てつつ声を上げると、隣で紅尾がぱたりと尾を動かして紫煙を吐き出す。
「ハハァ、さしずめ春の盗人ってところかねェ……粋なヤツもいたもんだ」
「相手を持ち上げてどうするんだ、紅尾」
紅尾の軽い言葉に恵がはぁ、と軽く頭を抱える。それに笑ってから、志木は再び口を開いた。そして、その長い指先で、ととん、と軽やかに床を叩く。黄昏色に染まる今時分、その瞳はいっとう深く見えた。
「……相手が動く時間がばらばらだから、夕刻に動くのと朝方に動くのとで役割を分けたい。夏樹たちは朝を。秋彦たちは夕刻を頼みたい」
「承りました」
「了解!」
夏樹と秋彦は、座長の言葉に対して同時に力強く頷いた。彼らの式もまた、それぞれに視線を合わせる。志木はその反応を見て、自らの式に視線を向けた。
「僕も動こう。恵、それでいいね?」
「あぁ、構わん」
各々の動きが定まった後、春臣はおそるおそる手を挙げた。その場の視線を一気に集めたが、腹の底に力を込めて志木を見つめる。
「……あの、志木さん。僕はどうしたらいいですか?」
不安そうな顔をする少年に、座長は笑って答えた。
「もちろん君にも手伝ってもらうよ、春臣。君には、夏樹を手伝って欲しい」
「夏樹さんを……?」
春臣が夏樹を見ると、いきなり名が上がった彼自身も驚いたような顔をしていた。志木は二人を見て続ける。
「そう。夕刻は逢魔が時だし、人かあやかしかを問わず妙な輩に絡まれる可能性も高い。君にはまだ危険すぎる。……いいね?」
「……はい」
引き締まった表情を浮かべた春臣に頼もしそうな笑みを浮かべ、それからもう一度少数ながら新進気鋭と噂される〈六角座〉の皆々を見渡した。
「───それでは、各々この手筈で」
その面々を束ねる若き長は、薄暮の中で鮮やかに笑った。
「花散里の君から、僕たち〈六角座〉への直々の依頼だ。期待には応えたい。……各自、頑張ってくれたまえよ?」
一同はめいめいに返事をし、散会した。
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