第12話 南太平洋の前哨戦
都内にある首相官邸
会議室に三宅明弘総理をはじめ閣僚達が顔をそろえていた。
「バルディ大使。米軍やアメリカ沿岸警備隊は太平洋全域をカバーしているのに南太平洋だけ穴が開いていたようですね」
外務大臣は指摘した。
「しかも中国のサイバー攻撃で犬吠埼沖を航行中のフリゲート艦の通信が乗っ取られてミサイルが発射されました。それも横浜に」
石崎防衛大臣が口をはさむ。
「我々はある人物を追っていた。それだけです」
バルディ大使は口を開いた。
「筑紫宮智仁さまですか?クララというロシア人が殺害されその子が持っていた時空の円環とカメレオンが所有していたパズルボックスが彼に渡った。米軍もアメリカ政府も狙っていたけどひと足遅かったようですね」
三宅総理は口を開いた。
バルディ大使の顔から笑みが消えた。
「スレイグ大統領になってからあまりいい事は聞かないですね。米軍を立て直すと言っていますがシステムまで落ちましたか?」
石崎大臣は指摘した。
「私達は中国軍を追っていた。そしたらそこにカメレオンがいただけ」
しゃあしゃあと答えるバルディ大使。
「マーク司令官。カメレオンやサブ・サンを入れた原因はあなた方アメリカ政府と米軍の極秘実験のせいであると聞きますよ」
楠木統合幕僚長が指摘する。
ムッとするマーク在日米軍司令官。
主席秘書官はTVモニターをつけた。
「・・・速報が入りました。日本時間一〇時頃。パラオにあるトピ島で島民がカメレオンに襲われ死亡する事件がありました。島民五〇人は全員死亡。カメレオンの偵察隊はTフォースにより壊滅しました」
男性アナウンサーが報告した。
「・・・国連総会の映像です。パラオ、ミクロネシア、ポリネシア政府代表とアメリカ政府代表がののしりあっています。見苦しい状況が続いています」
女性キャスターは困惑した顔で報告する。
無言になるマークとバルディ。
「南太平洋にカメレオンの情報収集艦と基地があると思っています。どこかに司令部もあるだろうね。自衛隊は国連軍と一緒にカメレオンの基地を排除する予定です」
石崎大臣ははっきり言う。
「自衛隊だけで作戦行動ですか。南太平洋は米軍の管理地域もある・・・」
「尖閣諸島の戦いでは自衛隊と特命チームは尖閣、先島諸島を占領した中国軍を追い出しました。米軍は参戦しなかったし傍観していました。日本という軍事拠点を失って困るのはアメリカだと思いますよ。アジアの拠点がなければ世界中に展開できませんからね」
ピシャリと言う三宅総理。
「スレイグ大統領は選挙中に在日米軍基地の費用を全額払わないと撤退させると言っていましたね。撤退させるならすればいいのでは?空いた基地は自衛隊が使いますし、防衛の穴は開きませんよ」
しゃらっと言う石崎大臣。
「皇居にスパイや盗聴器を仕掛けようとしましたね。宮内庁からクレームがきているし、イギリス王室やタイ王室からもクレームが来ていますね。そんなに覇王の石やクリスタルは魅力的ですか?」
外務大臣が指摘した。
「彼にとってみれば時空遺物は魅力的ですよね。あれはその国の宝で先人達が苦労して名画や名品、世界遺産に託した」
石崎大臣が指摘する。
「恫喝ですか?」
ムッとするバルディ大使。
「私達はしゃべっただけですが?世界の王室からクレームが入っているし彼のご機嫌とりは大変ですねと言っているだけです」
しゃあしゃあと言う三宅総理。
「我々はあきらめませんよ」
マークは目を吊り上げる。
「すごく不快だったと大統領に報告する」
バルディは顔を朱に染めてマークと一緒に退室した。
「どう思われますか?」
黙っていた官房長官が口を開く。
「アメリカ政府とアメリカの評判はよくないですね。メキシコとの国境に壁の建設を始め、カナダとメキシコは隣国同士なのに険悪な状態。彼の認識は三十年前の昔のまま。それを主張してそのうえ、マスコミを嫌う。国連分担金の停止をした。アメリカ抜きでも国連はやっていけるし、世界は回っている。でも中国はともかくカメレオンはそれを好機ととらえ米軍にサイバー攻撃をしかけ本格的に基地や空母を攻撃するといっていいかもしれませんね」
三宅総理は新聞記事を出した。
紙面には
”米軍のレーダー網に穴”
”フィリピン在留米軍にサイバー攻撃”
”カメレオンの情報収集艦が太平洋にも出現。米軍見逃す”
「スレイグ大統領は多国間ではなく二国間との交渉にこだわる。そして時空侵略者なんて簡単に追い出せると豪語しているが、私達はEUや東南アジア諸国との連携でカメレオンとサブ・サンを追い出そうと思っています。サブ・サンを追い出しても他の時空侵略者が侵入してくると思っています」
三宅総理は声を低める。
「それは我々もそう見ています。時空の亀裂をなんとかしないといけませんし、米軍の極秘実験のせいでもあります」
官房長官がうなづく。
「自衛隊はカメレオンと中国軍の監視を続けます」
石崎は言った。
コロールTフォース支部
「米軍は来ないの?」
柴田は新聞を見せた。
「米軍は自分の事で忙しいそうだ」
アレックスが答えた。
「自分の国で起きていないからな」
トニー・ツクダがしれっと言う。
「スレイグに言わせると一ミリも土地を取られてないからだそうだ」
あきれる高浜。
「確かにアメリカは変わったわね」
リドリーが口をはさむ。
柳楽や時雨もうなづく。
「確かスレイグは国連の分担金停止にメキシコ国境に壁やTPP離脱といった目玉政策に大統領令にサインしている。俗に言うとアメリカは閉じこもったという事になるな」
朝倉はタブレットPCのニュースを見せる。そこにはニューヨークタイムズやロイター、日本の新聞記事が載せてある。
「国連は弱体化するけどアメリカなしでもやっていけるし貿易もアメリカなしでもやっていける。ジョコンダがハワイにいてニコラス達がグアムの基地にいるというのは情報が来ないからいるのよ」
リドリーが指摘する。
「スレイグのやっている事は孤立する事を意味する。逆に情報が入ってこないから苦労しているようにみえる」
フランが推測する。
「だから傍受しているのだろう。傍受しなくても素直に来ればいいと思うが」
五十里が腕を組む。
「スレイグは面倒な事には首を突っ込みたくない。それがみえみえだよな」
三神が口をはさむ。
だから二国間交渉にこだわるのだろうけど逆に諸外国から反発を買っている。でも日本は日本でうまく立ち回りアメリカなしでもやっていける。
「三宅総理はEU諸国に外遊に行っている。ただ遊びに行くのではなくて中国の牽制とカメレオン討伐に関しての重要な会議で行く」
沢本は新聞記事を見せる。
「アメリカ国内ではカメレオンの巣穴は造られてないし襲撃もないからね。私達としてはアメリカには情報はやるつもりはないわ」
アニータが声を低める。
「もちろんそれは我々も同じだ」
李鵜がうなづく。
「スレイグは台湾代表を大統領就任式に招待したし、一つの中国にこだわらないし、駐留米軍を造ると言っているがあまり信用していない。彼は時空侵略者のことを何もわかってないしハンター削減の書類にサインした」
烏来が指摘する。
「沿岸警備隊本部も警戒しているしベクシル北米司令官やフランシス北米局長も警告したが受け入れられなかった」
アレックスはうーんとうなる。
「じゃあ時空侵略者が入られ放題だね」
黙っていた翔太が口を開く。
彼の言ベクシルは高祖父時代から一緒に行動をしていた吸血鬼である。一二〇〇年続くアナカリス家の令嬢でありながらTフォース北米支部の司令官である。また吸血鬼、狼男やトラ男やクマ男に変身できる者達のリーダーである。
フランシスは高祖父時代から一緒に行動している魔術師で帆船カティサークと融合している。二人共小学生の時に会った事がある。
「スレイグはミュータントやマシンミュータントを隔離政策もサインしている。だからミュータントがカナダや諸外国に移住していくのが多くなっているのをニュースでみた。ミュータント協会やマシンミュータント協会から苦情が来ている。監視船のミュータントまで辞めていったらしい。監視にも穴が開いて魔術師やハンターを削減したから魔物が出現しやすくなるな。八王子魔物事件と同じ事がアメリカ国内のあっちこっちで起こることを意味する」
沢本が推測する。
「だからベクシル司令官とフランシス局長は削減対象になったハンターとその家族に対して移住先の斡旋をしているし、削減対象にならなかったハンターの家族に移住するように警告している」
アレックスが答えた。
「それって知らん顔ってことですね」
智仁がわりこんだ。
「そういう事になるわ。護衛艦「かが」にリンガムとアーランを置いてきたのは万が一に備えてよ。パラオ、ミクロネシア、ポリネシアの島々の島民に魔物警報が継続されている。国連本部でも討伐隊が結成される」
黙っていた佐久間が答えた。
その頃。国連ビル
会議室に入ってくる五人の男女。
「葛城長官。カメレオンの情報収集艦が現われ、トピ島が襲撃されたということはすでに基地や司令部があると思っています」
ポルトガル人の国連事務総長は口を開いた。
「デグラ事務総長もそう思われますか?」
博はたずねた。
「レナ議員、タリク議員、トリップ議員が来た理由は知っています。スレイグは国連分担金を停止させた。アメリカがいなくてもここはやっていける。EUでもスレイグのような国家元首は出現しているが利害一致してカメレオン討伐に賛同している。アメリカがいなくても世界は回っている」
冷静に説明するデグラ。
「スレイグは国内の魔術師、ハンター削減にサインして魔術師、ハンター出張所と支部を減らしていくそうだがそれでは監視に穴が開くだろう。事務総長はこの事件を知っていますか?」
タリク議員は日本の新聞記事を見せた。
「八王子魔物事件ですね。消防士やレスキュー隊員、救急隊員と負傷者と野次馬まで多数の犠牲が出た。アメリカ国内でも同じ事が起きると思っている。各国の大使館の家族は母国に帰国しています」
デグラは答えた。
「スレイグはゾマーキン大統領がめちゃくちゃ好きだとラブコールしていますがロシア政府としてはスレイグと距離を置いています」
レナは新聞記事を見せた。
紙面には
”ロシアとアメリカ急速に接近”
”蜜月のはじまりか?”
とあった。
「スレイグは政治や外交は素人ですね。ビジネスと同じような感覚でサインしているが会社を経営するのとはまったくちがう。ハンターやTフォース隊員を削減する事は監視に穴が開くという事だ」
トリップが指摘する。
「国連の方でも討伐隊と国連軍が出動する事になる。我々としてはアメリカ政府に何も言う事はないですね。分担金は停止させて抜けたから情報が入って来ない。だからジョコンダ議員や米軍のあの四人をハワイやグアムの米軍基地によこした」
デグラが声を低める。
「ロシア政府としても中国がおとなしくいると思っていません。カメレオンと一緒に米軍に攻撃をしかけ、米国国内に大規模なテロ攻撃かまたは魔物事件が起きるとみています」
アメリカの地図を出すレナ。
「イスラム過激派はおとなしいですがカメレオンか時空侵入者がすでに国内に侵入していると見ています。アーラン達が怪しい暗号と電波を傍受している」
博は資料を見せた。
「すでに戦いは始まっているようだね」
デグラは資料を見せた。
「彼らとの戦いは始まっている」
博とデグラは握手した。
翌日。コロール支部
会議室に入ってくる翔太と智仁。
部屋にいた消防士達や三神達が振り向いた。
「どうした?」
アレックスが聞いた。
「僕達をトンガに連れて行って下さい」
智仁が口を開いた。
「トンガ?」
聞き返す三神。
「あのトンガ?」
地図を出す朝倉。
「他にどんなトンガがあるんだよ」
あきれる貝原。
「日本の皇室とトンガ王室は親交があったわね。昭和天皇の葬儀に前王のツポウ四世が出席している」
佐久間がモニターをつけた。
「僕は陛下から聞いた事がある。覇王の石は二重、三重の封印がかけられて天上人が持ち去った。だから表に出てくる事はない。でも他の時空遺物は世界遺産や遺物、名画、名品といった形で隠した」
重い口を開く智仁。
「じゃあ僕達が集めていたパズルピースは何の時空遺物?」
あっと思い出す翔太。
「先人達が万が一のためにしかけた囮。中国もサブ・サンもそれに踊らされて何も見つからなかった。でも尖閣諸島の戦いで犠牲は大きかったのは知っている。式部沙羅という人は精霊キジムナーに半分命をもらった。サブ・サンが中国の政府高官と一緒にやってきてキジムナーを殺した。その後彼女は命を彼らに返して氷河期の危機は消え去った。あなた方には感謝している」
頭を下げる智仁。
黙ったままの翔太。
「あの時は俺達も必死だった。それに中国軍とカメレオンは追い出した。俺達はカメレオンと中国軍が何をやっているのか追っている。おかげで情報収集艦の存在を知ったし、米軍が追っている事もわかった」
沢本は智仁の肩をたたいた。
「僕も公務でイギリスやタイに行った事があるんだ。エリザベス女王やロンゴ国王にも会った事がある。そこで聞いたのは世界にある王室には時空遺物が王冠や王錫といった装飾品になっている。スレイグは大統領になる前はホテルや不動産を経営しながらそういった時空遺物を追う違法な遺物ハンターをやっていた。だから気をつけろというのを聞いた」
智仁はタブレットPCで大英博物館やルーブル美術館のサイトを見せた。
「博物館の特にミスカトニック大学と大英博物館、ルーブル、スミソニアン、正倉院の特別保管室というのがあってそこは二重の封印がしてある。中には次元ブリッジの向こうとつながっている扉があるっていうのをお父さんから聞いた」
翔太は画面を指さした。
「僕はスレイグやジョコンダに皇室や王室の玄関を踏んでほしくない。だからトンガ王室にスレイグと米軍に気をつけろと警告したいんだ」
智仁は何か決心したように言う。
「それはいい心がけだけどグアムの米軍基地に動きがあるよ」
無線機のダイヤルをいじりながらわりこむ稲垣。
「カメレオンの情報収集艦を見つけたって。それを別の部隊が追跡していてあの四人はマーシャル諸島から南下している。理由はカメレオンの漁船軍団」
貝原は耳を傾けながら答える。
「それを追い払うならそれでいい。俺達はぺリリュー島とソロモン諸島に調査に向かう」
アレックスは南太平洋の地図を出す。
「海保とオルビスはトンガへ。沿岸警備隊チームはぺリリューとソロモン諸島。火災調査団日本チームはフィジーへ行ってくれる」
佐久間は地図を指さした。
「なんで?」
三神と朝倉が聞いた。
「万が一のためよ。火災調査団南太平洋チームはここで警備よ。そうすればカメレオンの偵察部隊が襲ってきても戦える」
佐久間は声を低めた。
「わかった」
高浜はうなづく。
「護衛艦「かが」には海保SSTの芥川のチームもいる。何かあれば他の特命チームとかけつける」
佐久間は地図のグアム沖を指さした。
その頃。ホワイトハウス
大統領執務室に入る二人の閣僚。
白地の壁にカーテンと絨毯は金色である。
新聞から顔を上げる金髪の男性。
「ブレガー国防長官。ベンデル国務長官。沿岸警備隊チームの動きはどうだ?」
「スレイグ大統領。沿岸警備隊チームに動きがあります」
ブレガーと呼ばれた国防長官は口を開く。
「プリンス智仁はこの少年とオルビスと海保のミュータントと一緒にトンガに向かいました」
ベンデルと呼ばれたヒゲの男は地図を出す。
「得ダネじゃないか」
目を輝かせるスレイグ。
「わざとカメレオンの情報収集艦と漁船軍団の偽情報を流すようにグアム基地に指示を出されましたね」
ブレガーの眼光が鋭く光る。
「公私混同は困りますね。大統領令に時空遺物の調査にサインしましたね。イギリスにある魔術師協会本部とロシアにあるTフォース本部、カナダにあるハンター協会本部は協力拒否を通達してきました」
声を低めるベンデル。
笑みが消えるスレイグ。
「カメレオンの情報収集艦は南シナ海に入りました。空母「波王」の動きが気になります。カメレオンは時空遺物を本気で探しています」
「波王はどこにいる?」
スレイグは身を乗り出す。
「南太平洋です」
ブレガーは地図を出して指さした。
「トンガで逃がしてもポリネシアに向かうな。わざとそうさせるんだ」
スレイグはニヤリと笑った。
四時間後。
トンガタブ島にあるTフォース支部基地にジェット推進装置つきのオスプレイが着陸する。マークはTフォースである。機外に出るカーラ・マミヤ、トニー・ツクダと三神達。
目の前は南国の穏やかな海が広がっている。
「すごいキレイだね」
翔太は目を輝かせる。
「そうだね」
智仁とオルビスがうなづく。
「沖縄や石垣島の海とはちがうな」
感心する三神と朝倉。
官舎に入る三神達。
「ようこそトンガへ」
トンガ人男性はあいさつする。
「ライ・コーハン!!」
あっと声を上げる三神と翔太。
「え?」
変装を取るトンガ人男性。正体は北朝鮮のスパイであるライ・コーハンである。
「本当に芸達者」
沢本と佐久間は腕を組んだ。
「こいつがあのウワサのスパイで特命チームにも入っている」
怪しむトニーとカーラ。
「北のスパイがいるのは本当だったんだ」
智仁が驚く。
「ようこそと言いたいがアメリカ政府と米軍が血眼になって時空遺物を探している」
モニターをつけるライ。
「こちらフィジーTフォース支部の高浜だ」
画面の向こうに高浜のチームメンバーが映っている。
「こちらトンガTフォース支部の佐久間」
「フィジーに米軍兵士がうろついている。フィジーの沖合いにも米軍艦船が三隻いるそうだ」
高浜が地図を出した。
「トンガには来ていないと言う事は米軍はフィジーに向かったと勘違いしているのか?」
「そうではないようね。カメレオン情報は偽情報かもね。途中でオスプレイが二手に別れたから確かめに来たのかも」
「フィジーにいないとわかればここに来るわね。そっちの方で偽装工作してくれる?」
佐久間がひらめく。
「私達がもしかして智仁さまと翔太君のフリをしろと?」
柴田がわりこむ。
「そのまさかよ。時間稼ぎに手伝って」
佐久間は目を吊り上げる。
ムッとする柴田。
「よしやろう」
高浜はうなづく。
「冗談でしょ」
柴田と下司が声をそろえる。
「行くぞ」
高浜はスイッチを切った。
「トンガの王宮に行くわよ」
佐久間は言った。
トンガ王国の首都ヌクァロファはトンガタブ島にある。名前の由来は一六四〇年代にジョージ・ツボウ一世が都に定め場所でトンガ語で「愛の家」を意味する。トンガの人口の四分の一が暮らすトンガで一番大きい島である。
智仁達を乗せたマイクロバスは大通りを抜けて王宮に向かう。
「教会が多いですね」
翔太が気づいた。
意外に田舎でもなく都会にはちがいないが教会が点在している。
「サモアもここもほとんどがキリスト教徒が多いからね」
智仁が答える。
「中国人の店も多いな」
つぶやく三神。
「トンガ人と中国人はあまり仲がよくない。たびたび小競り合いが発生している」
智仁が指摘する。
「連中は強引だからな」
朝倉が納得する。
マイクロバスは大通りを抜けて駐車場に入った。
「筑紫宮智仁さま。あなた方の事は日本政府から聞いています」
駐車場にトンガ人の執事がいた。
駐車場の向こうに赤い屋根と白い壁、緑の庭を持ったかわいらしい大きな建物が王宮である。ここは一般公開はされておらず観光客たちは王宮前広場から見る事ができる。
応接室に入ると数人のトンガ人がいた。
「ツボウ五世。お目にかかれて光栄です」
智仁は英語であいさつした。
「トンガへようこそと言いたいがスレイグが王室の宝を取ろうとしているのは知っている。あの男は強欲だ」
ツボウ五世は不快な顔をする。
「紺碧の首飾りですね」
智仁は声を低める。
「あの男は若い頃に父の元に来て取引を持ちかけてきた。もちろん追い出した。今度は大統領になって領事館員を使って勧誘してきた。それも追い出した」
当然のように言うツボウ五世。
「そしたら今度は米軍を使って探している。それもジョコンダと一緒に」
佐久間はタブレットPCを見せた。
「あれはトンガの宝で先祖代々から受け継いでいる。日本の皇室にもスパイを潜入させようとして失敗して追い出された。執念深い」
ツボウ五世は新聞を見せた。
ロイター通信の新聞記事で紙面に
”皇居で盗聴器が見つかる”
”中国人スパイ捕まる”
「ジョコンダとスレイグはすごい気が合うようだ」
ライが指摘する。
「それ以上ね。意気投合した感じね。だからイギリス王室や各国の王室は警戒している」
佐久間がうなづく。
「戦闘機が多数接近!」
オルビスは報告した。
「え?」
「米軍の艦載機二十機接近。トンガ沖に空母「カールヴィンソン」がいます。イージス艦が五隻とあの四人と二人と戦闘機のミュータントが五〇機です」
分析するオルビス。
「ロナルド・レーガンは?」
沢本が聞いた。
「あれはサイパン沖」
佐久間が答えた。
飛翔音が周囲に響いた。
王宮から出てくるツポウ五世と翔太達。
港の沖合いに米空母と数隻の艦船が見えた。
多数の野次馬が港や海岸にいる。
「こちらTフォーストンガ支部の貝原だ。米軍がやってきた」
無線から貝原の声が聞こえた。
「オスプレイに待機」
沢本が無線で指示する。
「智仁さま。これを」
ツボウ五世は鍵と地図を渡した。
「これは大事な物じゃあ・・・」
「カメレオンの巣が南太平洋のどこかにある。マクギーというハンターはそこからやってきた。ジュエリーアイランドはポリネシア領内にある」
ツボウ五世は地図と鍵を渡した。
「我々は大丈夫だ」
ツボウ五世が促す。
王宮に入ってくるトンガ人のハンター達。
「佐久間さん。ジュエリーアイランドへ行ってください」
智仁は地図を渡した。
「わかった。みんな貝原を基地で拾ったら行くわよ」
佐久間は手招きした。
マイクロバスに乗り込む佐久間達。
米軍のオスプレイやヘリコプターが舞っている。
王宮広場にいる観光客達が指をさしていた。
スピードを上げて大通りを通り過ぎるマイクロバス。
「おかしいな。俺達が乗っているのに兵士が襲ってこない?」
三神が気づいた。
「それはね。偽装の魔術をかけたからよ」
大浦が笑みを浮かべる。
「だから私達はトンガ人に見えていてこのバスは市内バスに見えているの」
三島がチッチッと指をふる。
「なるほど」
翔太と智仁が納得する。
マイクロバスは基地に入った。
佐久間達はTフォースのオスプレイに乗り込む。
「今度はどこに?」
貝原が聞いた。
「フランス領ポリネシア」
佐久間は操縦桿を操作する。
オスプレイは光学迷彩で周囲と同化すると上昇して舞い上がりトンガを離れた。
「巻き込んでごめん」
翔太はうつむく。
「巻き込まれることは想定内だよ。国宝や時空遺物を渡してはいけない。護らないといけない。それが役目なんだ」
智仁は何か決心したように言う。
「なんでツポウ五世は鍵と地図を渡したんだろう?紺碧の首飾りがあるのか?」
三神が疑問をぶつけた。
「紺碧の首飾りはオーストラリアの博物館に保管されている。普通に他の展示物と一緒に名前を変えて展示されている」
笑みを浮かべる智仁。
「それはよかった」
朝倉が口をはさむ。
「じゃあ鍵と地図は?」
「マクギーが地図と鍵を持ってやってきたらしい。カメレオンの基地がどっかにある」
智仁が言った。
同時刻。ソロモン諸島。
沖合いの海域に一〇隻あまりの沿岸警備隊の船舶が集まっていた。
「カメレオンの漁船軍団の姿はナシか」
アレックスがつぶやく。
「情報収集艦もいないな」
トムがわりこむ。
「米軍は本当に追っていたのか?」
ミンシンがわりこむ。
「米軍のかく乱作戦に引っかかったかもな」
グエンがつぶやく。
「やられたね」
アニータとルースが言う。
「こちらぺリリュー島の李鵜チーム」
無線に李鵜チームの音声が入ってくる。フランやリドリー、リヨン、キム、ペクのデータリンクで入ってくる。
「ここにもいない」
烏来が無線で報告する。
「空振りか」
つぶやくアレックス。
「こちらサモアにあるTフォース支部。火災調査団日本チームだ」
高浜の無線がわりこんだ。
「こちらアレックス」
「この無線をつないでくれないか。米軍の妨害電波がひどい」
高浜がため息をつく。
「了解」
「トンガ王国に米軍がやってきた。動画も配信してくれる?」
柴田の声。
「トンガ王国にいた智仁さま達は脱出してポリネシアに向かった」
高浜がわりこむ。
「了解。パラオ基地につなぐ」
アレックスは言った。
その頃。トンガ王宮
王宮に入ってくる米軍将校。
「ツポウ五世。お目にかかれて光栄です。空母「カールヴィンソン」艦長のクラークです。お騒がせしてすみません」
中年の将校は名乗った。
ツポウ五世の周囲にいる一〇人のハンターが前に出た。
「俺達は警備に来たんだ」
強い口調のクリス。
「どきなさいよ」
アイリスは声を低める。
ツポウ五世は合図した。
一〇人のハンターは両脇に下がると剣をおさめた。
「そこの四人とそこの二人の悪いウワサは聞いて知っている。何しに来たのかも知っているし警備に来たわけじゃない」
ツポウ五世は声を低める。
クラーク艦長の顔から笑みが消える。
「智仁さまを探しに来て宝もあると思っている。でもここにはないよ。探せば?この島には観光客もいるし人の口には扉は立てられない」
「かん口令くらいはできるさ。空港に観光客は来る」
「脅すのは簡単」
レジーとレイスがはやしたてる。
「スレイグのご機嫌取りは大変ですね」
しゃらっと言うツポウ五世。
「なにか勘違いなさっていませんか?我々アメリカ沿岸警備隊は周辺の警備で立ち寄りました」
ニコラスは答える。
「ほう。警備。アメリカ沿岸警備隊と米軍のレーダー網は穴だらけなんですね」
新聞記事を見せるツポウ五世。
それはロイター通信の新聞でパラオのトピ島にカメレオンの襲撃があった記事である。
ムッとするカプリカ。
「別に警備はいりませんし、探すだけ探したら帰ってかまいませんよ」
しゃあしゃあと言うツポウ五世。
「不愉快だ」
クラーク艦長はしれっと言うと米軍兵士と一緒に出て行った。
同時刻。ジュエリーアイランド
青い海に一つだけ指輪型の無人島があった。リングの部分が砂浜で宝石がはまる部分にヤシの木が乱立している。砂浜に着陸するオスプレイ。
「緯度経度もここね」
佐久間は地図を見ながら言う。
「本当に何もないな」
三神と朝倉は周囲を見回す。
「ここに次元ブリッジがある」
それを言ったのは翔太である。
「それはあの指輪の宝石部分にある」
智仁はうなづく。
「時空フィールドの内部にある」
オルビスは乱立するヤシの木を指さす。
「俺達はここで見張っている」
沢本は合図した。
佐久間、オルビス、智仁、翔太はヤシの木林に入った。
時空武器を出す翔太。
智仁はツポウ五世からもらった鍵を出した。
時空フィールド内に入りそこに鉄塔が建っている。足元に石碑のようなものがあり智仁は鍵穴にさしこんだ。せつな、石碑に幾何学模様に赤く輝き、鉄塔が赤く光った。
ガラスが割れる音がして時空フィールドが壊れる音が響いた。
獣が吼えるような音が響き沖合いに赤い光りとともに海警船や中国軍の艦船が出現。船体に光る模様がありそれが赤く輝く。
「こちら沢本。空母「波王」が現われた。全部カメレオンだ」
沢本の無線が入った。
「オルビス。この鉄塔を壊して」
翔太はだしぬけに叫ぶ。
オルビスは片腕をバズーカー砲に変えて鉄塔に向けて光線を発射。地響きとともに鉄塔を支える脚が揺らいだ。
佐久間は石碑に爆弾をはりつける。
林から飛び出す偵察兵を撃つ佐久間。
鉄塔は軋み音をたてながら海側に倒れた。
四人は駆け出した。
自分達が乗ってきたオスプレイが接近する。
後部ハッチが開くと三神、朝倉、貝原が顔を出した。
智仁、翔太はその手をつかんで機内に入り、オルビスと佐久間は飛びうつる。
島から離れるオスプレイ。
閃光とともに火柱が何度も上がる。
赤い光線がオスプレイのそばをかすった。
「この島はよっぽど大事なんだな」
揺れる機内で声を上げる三神。
「なんで波王が来るんだ」
朝倉が叫ぶ。
「重要拠点だからだよ。たぶん魔術師を騙して次元ブリッジで隠した。地球の科学で時空とここをつなぐのはできなかったみたい」
オルビスは推測する。
オスプレイはスピードを上げて離れた。
「カメレオンは追跡してこないわ」
佐久間はレーダーを見ながら報告する。
その時である。爆発音が聞こえた。
「第二エンジンが故障」
操縦席で機器をチェックするライ。
「あの島に不時着するわよ」
佐久間は操縦桿を操作しながら叫ぶ。
黒煙をエンジンから出しながらオスプレイは海面をバウンドしながら砂浜に不時着した。
機内から飛び出してくる佐久間達。
「米軍の妨害電波がすごいな。正確な位置がわからない」
三神がつぶやく。
さっきからレーダーにアクセスしているが正確な位置が二重になって示される。
「この島から一〇〇キロ北上するとフランス領ポリネシアだよ」
オルビスが答える。
「米軍が作戦行動中だからよ。かならず衛星やレーダーに誤差と正確に位置が表示されなくなるの」
佐久間が周囲を見回す。
「ここを離れよう」
沢本は海に入ると巡視船に変身する。
簡易桟橋から乗り込む智仁達。
「せっかくカメレオンが造った施設を見つけたのに司令部や基地がわからずじまいか」
黙っていたライがつぶやく。
「次元ブリッジで隠した何かを暴いた。当面隠すのは無理だろうけど」
オルビスが海図をながめた。
ー二時間後ー
「携帯電話がトンガを出てからずっと圏外になっている」
翔太はつぶやいた。
「ポケモンGOやゲームも無理だね」
携帯をしまう智仁。
「ポケモンGOをやっているの?」
目を輝かせる翔太。
「僕は都内で三〇匹捕まえた。皇居には現われないような設定になっている」
智仁は笑みを浮かべ携帯を出した。
「レアポケモンやピカチュウがいる」
「Tフォース支部の周囲はポケモンが現われないようになっていてほぼ都内」
携帯のデータベースを見せる二人。
「艦船が多数接近」
オルビスが船橋ウイングに顔を出す。
「米軍よ。ほぼミュータント」
佐久間はウイングから身を乗り出し飛び込みイージス艦に変身した。
三神達も海に飛び込む。
接近してくる大型艦二隻。
上空を戦闘機が一〇機通過した。
空母「サラトガ」と強襲艦「エセックス」沿岸戦闘艦「フリーダム」「リトルロック」が現われた。艦橋の窓に二つの光が輝く。この四隻以外にイージス艦や駆逐艦が数十隻もいる。艦橋の窓に黄金色の光が灯っていた。
「ここにいたんだ。やっと見つけた」
うれしそうに言うサラトガ。
「司令部から逃がすなって言われている」
アイリスが声を低める。
「あんたに指令を出しているポンコツ司令部は本当にレーダー網が穴だらけね。司令部に命令を出しているスレイグは欲の皮がつっぱりすぎだし」
本音をぶつける佐久間。
「黙れよ」
サラトガが声を荒げる。
「おまえのレーダーは節穴だらけって言っている」
朝倉はわざと言う。
「スレイグのご機嫌取りは大変だな」
三神が挑発する。
「トンガでもらった物をよこせよ」
サラトガは二対の錨を出した。
「別にあげるよ」
智仁が無線ごしに言う。
翔太は船橋ウイングから身を乗り出して地図と鍵を見せた。
「米軍は宝に目がくらんだとツイッターでつぶやいてやる」
意地悪く言うライ。
「そんなのはCIAが消してくれる」
レジーとレイスが声をそろえる。
「金魚のウンコ」
しれっと言う貝原。
「黙れよ。バラバラにしてやる」
レジーは声を低める。
「僕達を殺すとありかがわからなくなるよ」
智仁が無線ごしに言う。
「トンガでもらった物を投げるから受け取ってよ」
翔太は誘った。
「戦闘機が一機接近」
オルビスが報告する。
翔太は鍵と地図を投げるとオルビスに合図する。
三神達は「やしま」に接近した。
「時間操作発動」
時空武器を出してつぶやく翔太。
衝撃波とともに時間の波が米軍の艦隊を覆った。せつな、佐久間達は逃げ出した。
艦船の間隙を縫うように走り抜け海域を離れる佐久間達。
しばらくすると元の時間に戻った。
「ポリネシア領に入った」
オルビスが報告すると身を乗り出し片腕のバズーカーで撃った。ミサイルが手前で四発爆発した。
テレポートしてくるサラトガ。アイリスとレジー、レイス。
「放り投げた地図はパラオの海図で鍵はどこのだよ」
サラトガは声を上げた。
「横浜防災基地のロッカーの鍵」
朝倉が答える。
「ふざけるなよ。おまえらなどバラバラにできる」
「時間がもったいない」
レジーとレイスが声をそろえた。
「俺達と来てもらう」
「どこへ?」
「アメリカ」
「カメレオンはどうするの?」
翔太が聞いた。
「それは他の連中がやる」
あっさり言うレジー。
「ポンコツ空母!!日米同盟と言っているわりに参戦しないじゃないか。あんなジジイの命令を受けるのか」
智仁は声を荒げた。
「合衆国大統領で最高司令官だからに決まっているだろうが」
当然のように言うサラトガ。
「カメレオンが黙って米軍やアメリカを見ていると思っているの?」
翔太は語気を強める。
「スレイグは科学者の言う事なんて聞かないって聞いた。彼らがいなきゃ時空の亀裂を塞ぐのは不可能ね」
「ハンターや魔術師、Tフォースの隊員を削減したから入られ放題ね。ロボットにできるわけがない」
大浦と三島がわりこんだ。
「それは最高司令官である大統領の判断だ」
しゃあしゃあと言うサラトガ。
「後悔するなよ」
しれっと言う沢本。
「そこのポンコツ四隻!!」
鋭い声が響いた。
「誰だ!!」
サラトガとアイリスが声を荒げた。
九時の方角から一〇隻の艦船とフランス沿岸警備隊の船が接近してきた。
「なんでフランス艦隊とフランス沿岸警備隊がいるんだ」
声をそろえるレジーとレイス。
「なんで?ここはフランス領だからだ」
女性の声で強い口調で言うフランス軍の空母。艦名は「シャルル・ド・ゴール」である。
「黙りなさいよ。私達が見つけた」
アイリスが声を荒げる。
「遅れてごめん」
護衛艦「あまぎり」「むらさめ」「みょうこう」と巡視船「しきしま」が接近する。
「なんで自衛隊がフランス軍と?」
疑問をぶつけるサラトガとアイリス。
「日本とフランスは海洋安保でつながっているからな。フランスだけでなくてイギリスとオーストラリアともな」
自慢げに言う間村。
サラトガ、アイリス、レジー、レイスは周囲を見回すとどこかへテレポートしていく。
「どこへ?」
三神と朝倉が声をそろえる。
ペンタゴンからハワイ基地に暗号通信が入っている。その暗号はマーシャル沖のカールヴィンソンを経由している」
オルビスが報告した。
一時間後。
フランス領ポリネシアのタヒチ
タヒチの首都パペーテにあるTフォース支部に火災調査団日本チームと沿岸警備隊チームのメンバーが顔をそろえていた。そのそばにフランス軍女性将校とフランス沿岸警備隊の隊員がいる。
「私はマリアンヌ。階級は少佐。隣りは沿岸警備隊ベレッタ少尉」
女性将校は自己紹介した。
「助けてくれてありがとうございます」
智仁と翔太は頭を下げた。
「トンガに米軍がやってきた頃。フィジーにも米軍がやってきた。私達は智仁さまと翔太君のフリをして町中を走っていた。そしたら捕まって米軍に拘束された」
高浜は後ろ頭をかいた。
「でも足止めにはなって多少は時間は稼げたし、カメレオンの施設を見つけた」
佐久間が地図を見せた。
「それはツポウ五世の地図」
あっと声を上げる智仁。
「マクギーはフランス人ハンターと一緒に潜入捜査をしていた。南太平洋でカメレオンの漁船や運搬船の目撃例が多く上がっていた」
正面スクリーンに南太平洋の地図を出した。
「南シナ海だけじゃないのね」
アニータが口をはさむ。
「アメリカは自慢のレーダー網と衛星に自信を持っているけど魔術を使えばそれらの目をごまかせる。カメレオンは自衛隊との戦いや沿岸警備隊チームや海保にアジトや巣穴をバラされて今度は魔術師を拉致して次元ブリッジを作らせた。でもそれをあなた方は破壊してくれた」
マリアンヌは視線をそらす。
「あそこは重要な施設みたいですね。空母波王がやってきた」
オルビスが話を切り出す。
「フランス軍もこの周辺にカメレオンの司令部があると見ています。目印はタワー型の鉄塔と石碑がある。石碑は時空フィールド形成装置と見られます」
マリアンヌがおおまかな図面を出した。
「空母波王は金流芯達を使って科学者も拉致しています。量子コンピュータや増幅器を開発させて基地を隠した」
ベレッタが説明する。
「ジュエリーアイランドの近くに司令部はあると思います」
オルビスが指摘する。
「たぶん空母波王はこれを狙っていると思います」
智仁はパズルボックスを出した。
どよめく消防士達。
「このルービックキューブはあの施設で携帯のマナーモードみたいにずっと振動していた。通信装置の一部かゲートの一部なのかもしれない」
智仁が推測した。
「ここにはイギリス、フランスやオーストラリア、ニュージーランドから邪神ハンターを呼んで警備をしている。アメリカでスレイグの政策で失職したハンターや監視船のミュータント達も志願して来ている。警戒レベルも最高の3に上がった」
マリアンヌは腕を組んだ。
その頃。パペーテの公共ビーチには観光客達でにぎわっている。浜辺にイカが落ちていた。それを売り子のポリネシア人が木の枝でつっついていた。
「何をしている?」
中年のポリネシア人が近づいた。
「珍しいイカだよ。極彩色の」
少年のポリネシア人が指さす。
「これは魔物だ」
中年のポリネシア人の声が震えた。せつな、イカの目が赤く光り耳障りなキーキー音を発信した。
「うるせえぞ!!」
「誰だ!!」
観光客達がどよめいた。
同時刻。
机の上にあったパズルボックスが振動してブルブル震えながら転がる。
「どうした?」
アレックスが聞いた。
「魔物だ」
声をそろえる智仁と翔太。
「大変です!!魔物の襲撃です!!」
フランス人ハンターが飛び込んできた。
「出動!!」
高浜は声を荒げる。
消防士達が飛び出す。
「カメレオンの次は魔物か。結界に穴を開けたにちがいない」
ベレッタが口をはさむ。
「俺達も出動だ!!」
沢本が声を荒げる。
「僕も戦う。不知火やハンター協会で格闘訓練を受けました」
智仁は名乗り出る。
「訓練生が使うショートソード」
ベレッタが短剣を渡した。
「私達から離れないで」
佐久間が注意する。
智仁と翔太はうなづいた。
公共ビーチや港に上陸する魔物の群れ。それは上半身はサメで下半身はタコという魔物や砂浜を背びれを出して進むサメの群れが現われた。
悲鳴を上げて逃げ出す観光客達。
三神と朝倉は片腕の機関砲を連射。
飛びかかってきた三匹のサメタコを撃墜。
アレックスはバルカン砲を連射。弾は五〇〇メートル離れた砂浜にいたビーチシャークに命中した。
早撃ちガンマンのように二丁銃を撃つ下司。正確にサメタコの頭部を撃ち抜く。
柄に装飾が施された日本刀を抜いて駆け抜ける男。
数十匹のサメタコが切り裂かれた。
「あれが不知火なんだ。宮内庁がよこした護衛」
佐久間がつぶやく。
「彼は忍者みたいに動けるんだ」
智仁がビーチシャークを突き刺す。
「彼すごいね」
翔太はサメタコを突き刺した。
ハルベルトと呼ばれる槍斧でサメタコを突き槍についている斧でたたきわるマリアンヌ。
長剣で袈裟懸けに斬るベレッタ。
二本の日本刀で切り裂く高浜。
斧でなぎ払う五十里。
芥川と時雨は片腕の機関砲を連射。青色の光線が魔物達の体を貫いた。
柴田は水をまとった拳で殴った。
「どこかで魔物のリーダーがいます」
短剣でトドメを刺す智仁。
「リーダー?」
佐久間は聞き返す。
「カメレオンかもしれない」
翔太はビーチシャークを突き刺す。
魔物の群れの残骸が公共ビーチに転がる。
するとおもちゃめいた戦車や装甲車が上陸してくる。
時雨は榴弾砲に変身してミサイルを発射。
正確に一〇台の装甲車に命中。
オルビスや芥川は片腕のバズーカー砲を発射。戦車を何台も吹き飛ばす。
青い陽炎のようなものが戦車もどきの間隙を縫うように通りすぎた。コアをえぐられ爆発する戦車。スピードを落とす三神。
「おかしい意志が感じられない」
間村が砲身をひろう。
「尖閣諸島の戦いで波王艦隊と戦った時の手ごたえに似ている」
霧島はふと思い出す。
「どこかに波王がいる」
室戸はバルカン砲でサメタコを撃つ。
「上陸艦艇が沖合いにいる。それを破壊に行くぞ」
間村は合図する。
海に入って護衛艦に変身する四人。
続いて沢本達も巡視船に変身した。
海岸を離れミサイルを撃つ佐久間。
そこにいた上陸艦艇に命中。沈没した。
機関砲を連射するアレックス達。
サメタコやビーチシャークの群れを撃った。
「波王艦隊だ」
三神が叫ぶ。
「あれが?」
シャルルドゴールに変身したマリアンヌがわりこんだ。
岸壁に現われた大砲を空手チョップでたたきわる柴田。彼女の後ろ回し蹴り。
それを受け払う男。
「誰?」
柴田が身構えた。
「ひさしぶりだな。柴田」
ニヤニヤ笑う男。
「八木?」
柴田はあっと思い出した。
三年前の八王子魔物事件が起こる前の同僚で非番の日は飲みに行っていた。訓練やプライベートまで付き合ってくれたベテラン消防士であった。しかし目の前にいる彼の首筋には幾何学模様のタトゥがあった。
「あんたカメレオンの仲間になった?」
戸惑う柴田。
高浜と柳楽が振り向いた。
「そうだよ。カメレオンは俺に命をくれたんだ」
八木は笑みを浮かべ鉄の篭手に変えた拳で柴田の腹部をえぐった。
柴田は後ろにある岸壁にたたきつけられる。
「ひゃははは!!ひさしぶりにシャバに出られて興奮している」
八木は拳で柴田を何度も殴り、膝蹴り。
砂浜にたたきつけられる柴田。
「・・・なんで?私達を襲って?」
柴田は顔を上げた。
「カメレオンに再生されたからね。三年前に魔物に食べられた連中はカメレオンの再生材料としてクローン再生されたんだ。仲間が手引きしている。米軍の横流し品や違法に売る連中がいる。アメリカ人の役人には仲間がいてブローカーや手引きする連中がいるんだ」
「そんな・・・」
「そのおまえの腕や宇宙漂流民のバラバラの手足を混ぜているんだ。捕まえたマシンミュータントをバラバラにして再生して「木偶」のできあがり」
レシピを説明するように言う八木。
口から青い液体を噴き出す柴田。それを見て愕然とする柴田。
「驚く事はないさ。俺もカメレオンに改造されたんだ」
腹部の傷を指さす八木。そこから出ているのも青い液体だった。
「俺と来ないか?」
誘う八木。
「やだ。だって消防士でもないしカメレオンの仲間だから」
はっきり言う柴田。
笑みが消える八木。彼は腕を振り上げた。せつな青い光線に腕を撃ち落された。振り向くと時雨と柳楽が立っている。
近づく高浜、下司、五十里。
駆け寄ってくる不知火、智仁と翔太。
「波王の帰還信号だ」
八木はあっと声を上げるとどこかへテレポートした。
波王艦隊を追跡するマリアンヌ達。
「タヒチからだいぶ南下している。ジュエリーアイランドが近い場所だ」
空母ヴァルキリーに変身しているオルビスが気づいた。
ジュエリーアイランドに到達すると蜃気楼のように波王艦隊が消えた。
「おかしい。レーダーに映らない」
マリアンヌが疑問をぶつける。
「米軍の電波妨害はない」
佐久間がわりこむ。
「おかしいわ。海が赤い」
カーラ・マミヤが指摘する。
「ジュエリーアイランドの周辺が赤い」
ベレッタが気づいた。
三神の電子脳にある映像が入ってきた。それは次元ブリッジの向こうに基地がある。なんでそんな映像が入ってきたのかわからない。
「オルビス。ジュエリーアイランドに中国の掘削基地を破壊したビームを撃て」
三神は錨で指さした。
「了解」
ヴェルキリーの甲板から砲台が飛び出し青い太い光線を発射。
ガラスが割れる音が響いた。閃光ととも景色が陽炎のように揺らいだ。
そこには島が点在している。なんの変哲もない島である。中央の島に尖塔が建っている。
「戻ろう」
それを言ったのはマリアンヌである。
「なんで?」
三神が聞いた。
「行けばワナだらけだ」
間村が答えた。
「・・・速報が入りました。本日、日本時間三時頃、カメレオンの攻撃部隊がポリネシア領タヒチを襲撃。これを国連討伐隊が追い返しました。襲撃したのは空母「波王」です。前回の尖閣、先島諸島の戦いで自衛隊と特命チームと戦ったエイリアンの親玉です。討伐隊の報告によるとジュエリーアイランドの南方にカメレオンの基地または施設らしきものを発見しました」
女性キャスターがタヒチの空港で報告する。
「ファアナ国際空港には観光客が殺到しています。市内の避難所に被災者達が避難しています。カメレオンの基地が南方五〇〇キロにあり最前線基地になる模様です」
男性アナウンサーが見回しながら言う。
場面が変わった。
「こちら国連総会です。中国政府代表と各国の政府代表がののしりあっています。ここにはアメリカ政府代表はいない模様です」
タブレットPCでそれを見ている佐久間とマリアンヌ。
「アメリカ政府代表は出席していませんね」
ベレッタが口をはさむ。
「スレイグが国連分担金を停止させたからね。自分達でなんとかできると思っている」
佐久間が推測する。
「米軍でなんとかできると思っている?そんなに甘いものじゃない」
三神がわりこむ。
「素人だな」
しれっと言う朝倉。
「ニュースでやっていたけど三宅総理はカナダでTPP会議に出発したって。TPP会議を本当にやるんでしょうか」
翔太がタブレットPCを見せた。
「それは表向きよ。彼らはカメレオン討伐と時空の亀裂をどう塞ぐかの会議に出席している」
佐久間が答えた。
「アメリカ抜きでEUやヨーロッパ代表もそこには出席している」
ライがわりこんだ。
「三宅総理はTPP会議の後にワシントンで首脳会議をするってニュースでやっていた」
智仁がわりこむ。
「スレイグは在日米軍基地の全額負担と安全保障と通商政策を二国間で締結しようとしているけど本当はTPP会議や国連総会の様子を聞こうとしている」
ライが推測する。
「それって自分が国連総会や会議に行けばわかるじゃん」
翔太があきれる。
自分は安全な場所にいて情報を聞き出そうとしているのが見え見えだし、いいところを取ろうとしているのが丸見えである。
「それに彼は入国禁止令がテロの阻止になると本当に思っているんですか?」
翔太はタブレットPCを見せる。
そこにはイエメンやイラン、イラク、リビアなど入国禁止とあった。
「国境に壁に入国禁止令。鎖国でもすればいい。でもいくら入国禁止にしてもいくらでも不法入国はあるだろうに」
あきれるアレックス。
「ここは最前線基地になるんですよね。ここにいる人達はどうするんですか?」
翔太は聞いた。
「最前線になれば民間人は巻き込まれる。だから周辺国に避難民の受け入れを打診している」
マリアンヌは答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます