第13話 南太平洋の前哨戦 つづき

 翌日。パペーテTフォース支部

 「波王と一緒に死んだ消防士が現われたというのは本当か?」

 マリアンヌは口を開いた。

 会議室にマリアンヌ、ベレッタ、佐久間、沢本、アレックスと向かい席に火災調査団日本チームメンバーが座っている。

 「八木達郎は八王子魔物事件が起こるまで同僚でした」

 柴田は口を開いた。

 スクリーンに八木のプロフィールが映しだされる。勤続十五年の消防士である。レスキュー隊の経験もあり八王子消防署では山岳救助隊に所属していた。

 「あの事件で八王子消防署は非番の消防士や事務や経理をしていた消防士まで借り出された。そこに時空の亀裂が現われて魔物が出現。ほぼ所属する消防士を失った。周辺の消防署でも半数の消防士と救急隊員を失い、東京消防庁は県外から消防士を募集してなんとか存続させた」

 佐久間は新聞記事や魔物が襲ってくるYOUTUBU動画を見せた。

 「私はあの事件で片腕を失って目が覚めたら病院で宇宙漂流民の腕がくっついていた。力を使う度に私の体は金属生命体とのハーフになっていく」

 柴田は不満をぶつける。

 「それは私達には止められない。受け入れるしかないの。私だってイージス艦を受け入れられなかった。でも受け入れるしかない」

 はっきり言う佐久間。

 「私もまさか空母と融合するなんて思ってもみなかった」

 声を低めるマリアンヌ。

 「ムカつく」

 しれっと言う柴田。

 「ケンカはあとでやってくれ」

 高浜がわりこむ。

 「死んだ消防士がカメレオンにクローン再生されたというのが本当なら科学者をどこかで拉致している。それを実行しているのは金流芯達だ」

 スクリーンを切り替えるベレッタ。

 それは科学者の失踪を伝える記事である。

 「この数年、一〇人の科学者が失踪しているの。宇宙物理学や量子学、クローン研究といった分野の学者がいなくなった。南シナ海のカメレオンの施設につれていかれたにちがいない」

 「そんな事になっているのですか?」

 柴田と時雨が声をそろえる。

 「沿岸警備隊チームが結成された頃、南シナ海で異変が起きた。異変の主は鷺沼敦。もともとは第五福竜丸の同僚だった。木造漁船のミュータントだった彼は五十年前に仲間と彼女を敵に売り渡した。彼も失踪。五〇年後に帰ってきた彼は鋼鉄船と融合して帰ってきて事件を起こした」

 沢本は新聞記事を見せた。

 「南シナ海の時空の扉事件と横浜のみなとみらいの時空ゲート事件ですね」

 柳楽が口を開いた。

 「私達もハンター達と一緒に横浜中華街に現われた魔物を退治していたんだ」

 五十里は画面を切り替える。

 中華街の地図が出る。

 「みなとみらいと目と鼻の先で俺達は戦っていたんだ」

 アレックスはあっと思い出す。

 「時空の扉事件の前に李紫明と王海凧がサラヤゼル博士を連れて南シナ海から逃亡。その時に持ってきたのがミュータントと乗り物を切り離す薬と図面。薬は見事な失敗作でただの肉の塊が動くだけだった。もう一つの図目は宇宙船か空飛ぶ空母らしい図面と基地が書かれていた」

 佐久間が説明する。

 「もう一つの薬の作用として失敗作はゾンビにしてしまう。パラオのマラカウ島で襲ってきた王海凧は改造された跡が多数あった。拉致された彼はカメレオン達に拷問されカメレオンの卵を産みつけられた。あやつり人形にされた彼はあの島で俺達と戦いショックで正気に戻った。でも彼には正体不明のアザがある」

 アレックスは写真を見せた。

 「木偶にされてしまうとアザができる。八木にも首筋のタトゥの他に腕にアザがあった」

 黙っていた柴田が口を開く。

 「え?」

 「八木が私をボコボコに殴ったついでに言った。カメレオンに再生された。三年前に魔物に食べられた連中はカメレオンの再生材料としてクローン再生され、仲間が手引きしている。米軍の横流し品や違法に売る連中がいる。アメリカの役人や軍人には仲間がいてブローカーや手引きする連中がいる。私の腕や宇宙漂流民のバラバラの手足を混ぜている。捕まえたマシンミュータントをバラバラにして再生して「木偶」のできあがりって自慢げにしゃべったのよ」

 柴田は重い口を開いた。

 「もしそれが本当なら俺達は同じマシンミュータントやオルビスの仲間と戦ってきた事になる」

 アレックスは声を低める。

 「私達もカメレオンの生態を調べていた。波王や海警船「3901」がカメレオンクイーンであるのは知っている。一度に数千個の卵を産む。どれも地球の大気や環境が合わなくて育たない。だから船舶と融合する。産卵するには最適な施設が必要だ。だから掘削基地や専用の装置を科学者を拉致して造らせた。それを手助けしている仲間やブローカーはアメリカ人の役人や軍人の中にいる。ジョコンダの先任だったアクドグナガルとその前の前任者が原因で時空侵略者が入ってきた事になる。それに気づいた第五福竜丸の仲間は全員殺害され福竜丸はひどく傷つけられて夢の島の埋立地に捨てられた。そして二〇年前に三神と貝原の父親は巻き込まれ貝原の父親とアニータの父親は死んで、三神の父親は片足を失った。その六年前は事件に首を突っ込みすぎた三神は記憶を失ってひどく傷ついて砂漠のゴミ捨て場に捨てられ、一緒に行動していたシャロンとカラムはサンフランシスコ湾で死体になって浮いた」

 マリアンヌはホワイトボードに関係図を書きながら説明した。

 「どう考えてもジョコンダやその前任者が原因にしかみえないが」

 高浜が口をはさむ。

 「前任者のアクドグナガルは定年後の事故で死亡している。アメリカ政府と米軍にはUFO騒ぎやUMA騒ぎがついてまわる。どれも極秘実験のせいだけどこれだけは言える。時空侵略者を入れたのはアメリカだ」

 マリアンヌははっきり指摘した。

 「・・・はっきり言うな」

 アレックスはため息をついた。

 「ジョコンダを捕まえられないの?」

 柴田が聞いた。

 「彼女は上院議員でCIAの局長でもある。だからたいがいの役人の弱みを握っているし世界のあらゆる秘密を知りすぎている。優秀な弁護士で固めているし秘書は時空魔術師でそれなりの実績を持っている。そしてスレイグは若い頃は違法な時空遺物ハンターで、バッキンガム宮殿やスミソニアン、ミスカトニック大学大図書館、リヴァーバンクス大図書館、アレクサンドリア、ルーブル、エジプト、正倉院に不法侵入した経歴がある。違法なハンターでありながら金儲けの天才でニューヨークにジェレミータワーを構え、世界中にホテルや不動産、ゴルフ場を持っていてたいていの経営者や議員の弱みを握っている」

 佐久間は腕を組んだ。

 「逮捕は無理か。ならブローカーや役人なら可能だろう」

 アレックスがひらめく。

 「こっちにはスパイもいるしスパイの友達には国際的ハッカー集団がいる。ジョコンダとスレイグの信用は落ちるし政権の信頼度はガタ落ちになる。スレイグのハンター仲間を探し出したら騒ぎなりそうだけど。なんかおもしろくなってきたわね」

 佐久間は笑みを浮かべた。



 三神は岸壁にいるアレックスに近づいた。

 「米軍とアメリカ沿岸警備隊は国連討伐隊にいないし南太平洋にいるアメリカ沿岸警備隊の船舶はハワイやグアム基地に戻るように命令が出ている」

 「俺は自分の意志でここにいる」

 振り向くアレックス。

 「いいのか?」

 「戦いは始まったばかりだ」

 アレックスははっきり答える。

 翔太と智仁が近づく。

 「智仁は日本に戻った方がいい」

 アレックスが声をかけた。

 「僕は帰らない。それにこのパズルボックスは時空の円環と時空武器を持つ者がそばにいる時に反応する」

 智仁は首を振る。

 「あの基地にはカメレオンしかいない。金流芯や遼寧達がいないのはなぜか知りたい」

 翔太は声を低める。

 「そういえばそうだな」

 ふと思い出すアレックスと三神。

 タヒチ沖に現われたのは波王艦隊でパラオのトピ島に現われたのは偵察部隊である。中国軍がいない。

 「中国軍があきらめたとは思ってない。スキがあればまた沖縄や台湾に侵攻すると思っている。スレイグはアジアには興味がない」

 アレックスが口を開く。

 「自衛隊の予備自衛官の招集で旧型の艦船と融合するミュータントを監視船や警備船として復帰させ、退官した海上保安官と自衛官のミュータントも予備自衛官として復帰させている」

 佐久間が割り込んだ。

 「東シナ海に中国軍が現われ始めているからですか?」

 翔太が聞いた。

 「日本はカメレオンや中国と対峙する最前線だからよ。スレイグとジョコンダがすごい興味津々なの」

 佐久間が答える。

 「情報が入って来ないようにした原因はスレイグじゃん」

 智仁が割り込むとタブレットPCの記事を見せた。紙面には


 ”ハンター協会。難民のハンター雇います”

 ”討伐隊にミュータント政策で失職したミュータントの志願者が増加”


 「佐久間さん。赤い海の調査に行きませんか?なぜ赤いのか気になります」

 翔太は思い切って言う。

 「私もそれは気になるの。南太平洋に行く前に赤い油や幻覚を見て反応した人達を連れて行こうと思っている」

 佐久間はうなづく。

 「そうだよな。あれがなんなのかを俺も知りたい」

 三神はうなづいた。


 食堂で柴田は珈琲を飲んでいた。

 すると異様な気配とともに粘りつくような視線に顔を上げた。そこに土気色の顔で胸に穴が開いたサラリーマンがいた。

 「・・・これでよかったのか?」

 「私はベストを尽くしている」

 柴田は目を吊り上げた。

 「ベストを尽くしても同じ」

 白い顔のOLが現われた。頭半分がなくなっている。

 部屋からのぞくマリアンヌと佐久間、高浜。

 「彼女の症状は三年前の事件のPTSDね。幻聴及び幻覚が出ている。幻覚は死んだ弟の祐樹や死人のOLやサラリーマン。そのせいで二十ヵ所の消防署や出張所を異動している。治療しなければダメね」

 ベレッタはカルテを見ながらうなづく。

 「普通なら休職なのに日本の消防士は数が足りないの?」

 マリアンヌが聞いた。

 「三年前の事件で八王子消防署と周辺の消防署、出張所は人員を半分失い県外から呼び集めてなんとか運営していた。俺もレスキュー隊員とハンターとして借り出されていた」

 高浜は視線をそらす。

 「それと王海凧をポリネシア領やタヒチに入国は無理ね」

 マリアンヌが話を切り替える。

 「それでは調査に支障が出るわね」

 佐久間が声を低める。

 「王海凧は金流芯達に拉致され南シナ海のカメレオン基地で拷問されカメレオンの卵を産みつけられた。本来なら入国できないが彼がいなければ調査ができなくなる。特例措置でビザが発給される」

 マリアンヌは言った。


 パペーテにある港。

 岸壁に三神、貝原、福竜丸、翔太と智仁、柴田、五十里がいた。

 「なんで僕も呼ばれたんだろう?」

 福竜丸が疑問をぶつける。

 「それは鋭いアンテナを持っているからよ」

 佐久間がわりこんだ。

 振り向く三神達。

 マリアンヌ、ベレッタ、沢本、朝倉、三島、大浦と李紫明、高浜が近づいた。

 「俺達だけで調査ですか?」

 三神が聞いた。

 「フランスの調査船も同行する。僕やピョートル、カナダ、メキシコ、からも科学者が派遣される。調査団にはイラクやイランからも学者が派遣されている」

 鋭い声が聞こえて振り向くとインド人とロシア人将校が入ってくる。

 「アッシュさんピョートルさん」

 目を輝かせる翔太。

 「何かあれば俺達が空から攻撃する」

 四人のパイロットが近づく。

 レベッカ、大野、リアム、アンナである。

 「カメレオンには空を飛べる奴がいない。なら制空権は我々にある」

 レベッカは確信にせまる。

 「行くよ」

 マリアンヌは手招きした。

 翔太達は調査船に乗り込んだ。

 調査船は離岸した。船内に入るとフランス人乗務員が忙しく行き交っている。船内には中東や東南アジア、ヒスパニック系、黒人の学者らしい男女が乗り込んでいる。

 「すごい多国籍だ」

 智仁が驚く。

 「いないのは中国とアメリカ」

 翔太が気づいた。

 これもスレイグの方針だろう。それに中国は知らないフリをしている。

 「みんな対岸の火事ではない事は知っている。アジアで起こっている事はヨーロッパでも起こる。バラバラでいたら地球は滅亡する」

 マリアンヌが口を開く。

 「スレイグは大統領になる前は違法なハンターというのは本当ですか?」

 翔太がたずねた。

 「若い頃の話よ。スレイグは不動産屋をやりながら違法な時空遺物ハンターをしていた。魔術師や邪神ハンターの厳しい訓練についていけなかった彼は魔物ハンターになって遺跡荒らしを始めた。現実にはインディジョーンズのようにはいかないわ。遺跡や遺物、博物館には専属ハンターや番犬もいる。それをかいくぐって盗んでは売りさばく。あだ名は不動産王のルパン3世。泥棒しながら不動産やホテル買収も経営者としても豪腕で知られている。それがいまやアメリカの大統領よ」

 マリアンヌは資料を見せた。

 「泥棒とワンマン経営社長の顔を持つ大統領か。みんな警戒するよな」

 三神が納得する。

 ツポウ五世がすごい不快な顔をしていたのはそのせいだろうし、イギリス王室や皇室や他の王室も警戒するのは当たり前だろう。

 調査船は赤い海に入った。ジュエリーアイランドが見え、その背後に尖塔が建つ島が見える。

 「魔物ハンターとしては低レベルで中途半端。違法なハンターになって泥棒家業をやったからハンター協会や魔術師協会は破門にした。破門にしたのはバーグス顧問だ」

 ベレッタは破門にした記事を見せた。

 記事には若い頃のスレイグの顔写真がありはっきり「破門」とあった。

 「なんとなくハンターの削減政策やミュータント隔離政策も納得する」

 つぶやく翔太。

 ようするに若い頃自分を破門にして追い出した魔術師協会やハンター協会に仕返しをしているのだ。ミュータント隔離政策も子供の頃から都会で育った彼の周囲は人間ばかり。例えいても家政婦か雑用係だろう。

 バーグス顧問は帆船ヴィクトリーと融合するミュータントで御年二五七歳になる。魔術師協会の元理事や局長、ミスカトニック大学大図書館の館長も勤めた。彼は高祖父と一緒に行動していた。小さい頃会った頃がある。

 「ねえ、この赤い海を走ってみない?」

 福竜丸が割り込んだ。

 「そうね。そこの引きこもり巡視船も行くわよ」

 ベレッタが呼んだ。

 「え?僕も?」

 振り向く貝原。

 「少しは役に立ってよ」

 ベレッタはそう言うと海に飛び込む。

 トニー・ツクダやカーラ・マミヤも飛び込んだ。

 「あんな女。バラバラにしてやる」

 怒りをぶつけると貝原は飛び込む。

 三神達も飛び込み巡視船に変身した。

 ジュエリーアイランドに接近する三神達。

 背後にある島から接近する海警船。五千トンクラスが三隻で船体の幾何学模様が赤く輝いている。

 佐久間とアレックスはミサイルを発射。

 正確に命中するミサイル。

 船内から飛び出す岩。岩にサメのような牙が見える。それがいくつも飛んでくる。

 機関砲を連射して撃墜する三神達。

 大浦と三島は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて白く輝く槍が三隻の海警船に命中して爆発した。せつな、なんとも言えないすすり泣くような声が周囲に響いた。

 「なんだ?」

 調査船の甲板にいたピョートルやアッシュは周囲を見回す。

 ささやくような声と泣く声が同時に響く。

 高浜や学者達もどよめく。

 パキッピキッ・・

 何かが割れる音やガラスが割れる音が聞こえた。

 「あれ?防弦物が壊れた」

 朝倉は船首側面に装着していた装甲版を外した。

 防弦物とは不審船と強行接舷する時に巡視船の船体が傷つかないようにするための物である。普通の巡視船のは強化プラスチック製だがミュータントが装着する物はチタン合金である。

 「なによこれ?」

 アニータが船底にくっついたフジツボを取った。しかしそれは貝とは呼べず貝の形をした鉄の塊である。

 「こちら調査船ボヌール。スクリューが故障。航行不能」

 船長から無線で報告する。

 島の尖塔が紫色に輝き赤い光線を上空に発射。同心円状に赤いバリアが広がったが直系五百メートルを越えたがそれ以上広がらない。

 「電波妨害だ」

 「ひどいノイズ」

 ミンシンやルースが鎖で耳をふさぐしぐさをする。

 「赤い海が濃い赤色になった」

 グエンが気づいた。

 「僕は木造漁船だからかな?」

 第五福竜丸が調査船の周囲を走る。

 「俺は変な物はくっついてない」

 三神がヒビが入った防弦物を見ながら言う。

 「おかしいわ。防弦物が壊れるって」

 大浦や三島がつぶやく。

 「俺の防弦物も壊れた」

 つぶやく沢本。

 「強烈な信号が入ってくる。僕の電子脳が容量オーバーしそう」

 貝原は耳をふさぐしぐさをしながらクルクル回りだす。

 「やめろ!!俺の中に入ってくるな」

 三神は叫び耳をふさぐしぐさをする。

 「僕はまた沈むの?バラバラになってゴミ捨て場に?」

 第五福竜丸は絶句する。

 「こちら高浜。五十里、柴田と翔太君と智仁さまの様子がおかしい」

 無線が入ってくる。

 「嫌よ。代弁者なんて」

 佐久間は耳をふさぐしぐさをする。

 「沢本。この海域を出よう」

 アレックスが声を荒げる。

 接近する仏軍空母シャルル・ド・ゴール。

 「私が「あしがら」を曳航する」

 マリアンヌが名乗り出る。

 「李鵜達はボヌールを引っ張れ」

 沢本は指示を出した。

 

 一時間後パペーテ港沖

 修理ドック船にボヌールが収容されている。

 作業員が船体についたフジツボをバールではぎとり、亀裂をバーナーで溶接している。

 「このフジツボからは地球には存在しないDNAが検出された」

 白衣の男が近づいた。

 「シド博士。いつタヒチに?」

 振り向く沢本とアレックス。

 「さっき着いた。アーランと一緒に分析していた」

 シドは分析結果の資料を渡した。

 「スクリューが故障した理由は金属の腐食によるもの」

 「バカな。あそこにいたのは二時間位だ」

 アレックスが驚く。

 「赤い海の領域の生態系はバクテリアなどの微生物まで死滅している」

 アーランがわりこんだ。

 「原因はジュエリーアイランド沖のカメレオンの基地だ」

 シドは地図を見せる。グーグルの地図や衛星からの地図を見ても半径五百メートルに紫色のもやと赤い海が広がっている。

 「そして気になる事がある。時計がボヌール船内の時計と乗員、科学者達の時計が止まり、あそこだけ空気が薄い」

 シドは時計を見せた。

 「カメレオンが住んでいた世界は死の世界ね。深海の民も驚いているのよ」

 アーランがうーんとうなる。

 「もともとは一つの種族だろ」

 アレックスが聞いた。

 「先祖が残した記録によると、その時は住んでいた惑星が寿命を迎えていたから別れた。このまま星と一緒に運命を迎えるかまた別の住む星を探すかの選択を迫られていたからね」

 アーランが重い口を開く。

 「だからテラフォーミングして自分が住みやすい環境にしようとしているとか?」

 沢本が推測する。

 「そう言う事になる。深海の民も宇宙人も住めないような世界になる。カメレオンも繁殖するためには惑星が必要。そのために捕食して戦争して奪う。イナゴと同じね」

 アーランはイナゴの写真を出した。

 「テラフォーミングされてたまるか。サブ・サン同様に追い出す」

 アレックスが声を上げる。

 「それは僕達だって同じだ」

 鋭い声が響いて振り向く。

 アニータ達が近づく。しかし三神、貝原、福竜丸、佐久間、翔太、智仁、柴田、五十里の姿はない。

 「今、あの基地とパラオにあるリゾート地施設を攻撃するべきだ」

 トニー・ツクダは語気を強める。

 「米軍はあてにならない。スレイグは自国の利益と自分だけにしか興味ない」

 カーラ・マミヤがパラオ語でわりこむ。

 「南シナ海は中国の基地だけでなくカメレオンの基地がある。今、破壊すべきだ」

 トムやアニータ、李鵜達がそれぞれの言語で主張する。

 フランス語で一喝するマリアンヌ。

 黙ってしまうアレックス達。

 「それにはまだ解決できない問題が山積み」

 ベレッタがわりこむ。

 「戦争には解決できない問題は山積みは当たり前だ」

 朝倉がわりこむ。

 「あの赤い海の海域と紫色のもやの下では思うように動けない。普通の船舶や艦船に支障が出る。調査船ボヌールのスクリューと駆動装置が金属疲労で故障。二時間いただけで大量のフジツボがついて船底や船体に劣化が見られる」

 「マシンミュータントにもフジツボがたくさんくっついた。そしてカメレオンのテレパシーの影響を三神、貝原、佐久間、福竜丸、翔太、智仁さま、柴田、五十里に起きた。カメレオンにはその能力がある」

 「そのプロセスがわからないとみんな操られてしまうわ」

 マリアンヌははっきり指摘する。

 「それとレベッカ、大野、リアム、アンナのチームが偵察に行った。紫のモヤに突入するとコンパスが狂いフジツボがたくさんくっつく。電波妨害で電子機器が使えない」

 ベレッタがフジツボを見せた。

 「フジツボは船につくものだろう」

 李紫明がわりこむ。

 「それにあのフジツボは未知のDNAが含まれているがあの海域を出ると死ぬ」

 ベレッタが結論を言う。

 「あの海域ではカメレオンが元気に動き回っているがミュータントはいない」

 マリアンヌが言った。



 医務室。

 智仁はパズルボックスをながめている。

 「気になるのか?」

 三神は声をかけた。

 智仁はうなづく。

 「マシンミュータントや金属生命体の悲しみや苦しみにこのキューブが反応がする。カメレオンはそういった苦しみや悲しみを共有してそこから知識を得るのかもしれない」

 翔太は推測する。

 マシンミュータントもミュータントも人間も関係なく思念の塊が無理矢理こじ開けるように脳内に入ってきた。そしてたくさんの声がささやくのだ。テレパシーとはちがう。

 「そういう節があるわね」

 佐久間がわりこむ。

 「彼らは私の頭の中にも入ってきた。電子音声のような声で遊ぼうとかバラバラになれって言ってきた。金属生命体とのハーフになって楽しもうとかね」

 頭を抱える柴田。

 「僕にはゴミ捨て場に捨てられる映像がたくさん入って死ねとか連呼していた」

 元のミュータントに戻っている福竜丸がわりこむ。

 「私にもセピア色の画像が送られてきてどれもバラバラ遺体と機械部品だった」

 ため息をつく五十里。

 「俺の頭にもたくさんの声が入ってきた。なんでそんな力があるのにコアを食べないのとか仲間になれという声だ」

 三神が口を開く。

 「僕の場合は助けてという信号だった」

 貝原がわりこむ。

 「その度にこのキューブが苦しむような音が聞こえてくる」

 智仁がうつむく。

 翔太はキューブに触れた。せつな、泣いている映像や苦しみもがく映像が入ってきた。

 思わず放す翔太。

 「ショックを受けたみたいだけどあまり触らない方がいいわね」

 注意する佐久間。

 「佐久間さん。このキューブをキジムナーや他の精霊に癒してもらったらどうなるんだろう?」

 翔太はひらめいた。

 「精霊は皇居の森にもいる。といってもオープや青い火の玉が飛んでいるのを見た事がある。それは遺跡や森で多く飛んでいる」

 智仁が冷静に言う。

 「冗談でしょ。今はあの塔をなんとかしないといけない」

 柴田は声を上げる。

 「戦略もナシに戦えない。調査船ボヌールは機関故障とスクリューが故障。金属疲労と謎のフジツボが大量にくっつき、乗員や学者達の時計が止まった。そしてあの赤い海では生態系がバクテリアなどの微生物まで死滅している。そこではカメレオンは活発に元気に動き回っているが中国のマシンミュータントはいない」

 三神は地図を出して説明する。

 「カメレオンの攻撃部隊がタヒチへ来れば現地住民も巻き込まれる。だから住民達を周辺国に一時的に避難させている。ここは最前線基地になるからね」

 五十里はさとすように言う。

 「君も精霊に精霊に合わせてあげる」

 翔太が笑みを浮かべる。

 「なんで?」

 「キューブ同様に赤い海の思念に反応なら精霊にだって反応する」

 福竜丸がわりこむ。

 「冗談でしょ」

 嫌そうな顔の柴田。

 「パラオには若返りの泉があるのを聞いた」

 翔太はガイドブックを出した。

 「それはあくまでも伝説だ。たくさんの精霊の力はオーストラリアのエアーズロックだろう」

 五十里はガイドブックのページをめくる。

 「物は試しよ。パラオから行きましょう」

 佐久間が言った。

 医務室からドックに入る佐久間達。

 「三神、貝原。平気なのか?」

 朝倉が声をかけた。

 振り向くアレックス達。

 「僕達はこのキューブを精霊達に浄化しに行くんだ」

 翔太はパズルボックスを出した。

 「浄化?」

 声をそろえるアレックス達。

 「このキューブはあの海域でずっと振動していた。なら王海凧さんに近づけても共鳴して振動すると思う。なら精霊に近づけたらその苦しみや痛みを浄化できる。それをあの塔に仕掛けて内部から破壊できる」

 智仁が説明する。

 「バカな。あの海域は空気が薄く、普通の船は二時間で金属疲労で損傷。俺達にも変なフジツボがたくさんくっついた」 

 「それにカメレオンの船体の模様が赤色に輝き元気に動き回っているがミュータントはいない。金流芯達も来ない」

 グエンとトムが反論する。

 「すでに赤い海と紫のもやがかかった場所と海域は生態系が壊滅している。その周辺の海域ではイルカやクジラも熱帯魚もいなくなり無害な魔物さえいない」

 「このままでは地球滅亡だ」

 キムとペクが強い口調で詰め寄る。

 「それにどうやってあの塔に近づく?波王艦隊がいて海警船や漁船のカメレオンがいる」

 李鵜と烏来がわりこむ。

 「それならアーランの潜航艇で近づく。オルビスやリンガム、芥川なら近づける」

 翔太が食い下がる。

 「僕達は精霊の所に行くからカメレオンの補給路を襲ってよ。作戦指令書があるなら奪える」

 福竜丸がわりこむ。

 「簡単に言うわね」

 目を吊り上げるマリアンヌ。

 「俺達と自衛隊と特命チームは尖閣諸島の戦いで飛び石作戦をやった。中国軍は補給路を断たれると士気や戦意を失う。カメレオンも同じで士気が乱れる」

 それを言ったのは三神である。

 「それにどこかに電源がありどこと通信をしているのか探れる。電波がたくさん集まっているならそこが中継基地か司令部だ」

 沢本は地図を出して説明する。

 「尖閣諸島の戦いでは中国軍が中心だったけど今回はカメレオンが主導権を握っている」

 朝倉が口をはさむ。

 「そういえばそうね」

 アニータがうなづく。

 「フランス軍も彼らがどの周波数を使って指揮を執っているのか疑問に思っていた。誰が司令官で指揮系統がどうなっているのかも」

 マリアンヌが声を低める。

 「米軍が参戦していない状況で日本は戦った。なら我々だってできる」

 ベレッタがうなづく。

 「たぶん米軍だって興味津々で傍受しているかもしれない」

 貝原がわりこむ。

 「じゃあ思いっきり電波妨害をエシュロンにかけてみれば?あれはオーストラリアとニュージーランドにもあってイギリス、カナダと三沢基地にもある」

 ポンと手をたたく朝倉。

 「確かスレイグは難民問題でオーストラリア政府ともめたよね。いきなり暴言連発でスレイグは一方的に電話を切った」

 翔太はタブレットPCを見せた。画面にロイター通信ニュースが載っている。あの後、スレイグは電話会談でその難民を受け入れをする電話をした。同じ同盟国でもケンカを吹っかけてくる。それが戦略であるというがいきなり暴言から始まる交渉があるはずない。

 「オーストラリア政府にかけあってエシュロンを停止させてみよう。ついでにニュージーランドの物も停止させたらおもしろそうだ」

 マリアンヌがニヤリと笑う。

 「柳楽、時雨、五十里、下司。パラオの火災調査団チームと合流だ」

 高浜は手招きする。

 「私達はパラオに行くわ。トニー、カーラ案内して」

 佐久間は言った。



 一時間後。コロールTフォース支部

 基地の官舎に入る佐久間達。

 格納庫に火災調査団南太平洋チームと稲垣、椎名と平賀博士がいた。

 「アクバ・ナス署長。なぜここに?」

 翔太がたずねた。

 「ジェエリーアイランド沖の現われたカメレオン基地のせいでイルカやクジラがいなくなり魚や鳥がいなくなった。そしてマラカウ島に基地ではなく発電所ができた」

 アクバ署長は地図と写真を見せた。

 「火力発電所?」

 写真をのぞく三神と貝原。

 「ウオーデンクリフタワーだ」

 あっと声を上げる福竜丸

 東京タワーというより構造は通天閣に似ている。足元に発電施設と管理室がある。

 「まずいわ。稼動したらジェエリーアイランドと同じになる」

 佐久間が気づいた。

 「私達がそこを破壊するわ」

 ミャオが名乗り出る。

 「消防士には無理ね。相手は軍隊よ。カメレオンが情報収集艦を持ったと言う事はそこに現われるのは訓練された兵士と軍艦。私達は尖閣諸島の戦いでカメレオンと戦って相手は高度な知的生命体で軍隊を組織している」

 佐久間はさとすように言う。

 「私は戦わずに逃げるのは嫌よ。金属生命体のハーフになっても構わない」

 ミャオが語気を強める。

 南太平洋チームメンバーはパラオ語やポリネシア語で詰め寄る。

 「僕達も戦う。発電所を破壊するんだ」

 時雨がわりこむ。

 「筑紫宮智仁さまですね」

 いきなりわりこんでくる背広の男女。

 「誰?」

 稲垣がたずねた。

 「日本大使館の者です。日本に帰国してください」

 「なんで?」

 「智仁さまと稲垣さん椎名さんもです。パラオにいる在留邦人にも帰国命令が出ています。マラカウ島にあるのはカメレオンの発電所です。稼動すればここは生態系は死滅します」

 男性大使館員ははっきり指摘する。

 「僕はやだね。何もしないで帰るのは」

 「私もよ」

 稲垣と椎野は目を吊り上げる。

 「俺達はあの発電所を破壊する。消防士の知識を使えば爆破はできる」

 高浜は声を荒げる。

 「パラオの人達はどうするの?避難先は決まったんですか?」

 目を吊り上げる智仁。

 「それはですね・・・」

 目が泳ぐ大使館員。

 「不知火。黒沢。いるんでしょ」

 智仁は声をかけた。

 「はい。います」

 格納庫から出てくる老執事と迷彩服を着た目つきの鋭い男。

 「時空の円環と時空武器がなければジュエリーアイランド沖の基地に入れない。そして僕達は青い海を取り戻す」

 智仁は声を荒げる。

 「僕達は少しでも可能性があるなら賭ける」

 翔太は目を吊り上げる。

 「なので私が責任持って連れて帰りますのでお先にお帰りください」

 黒沢は冷静に促す。

 「わかりました」

 二人の大使館員は出て行った。

 「佐久間」

 鋭い声が聞こえて振り向いた。

 海保のSST隊員の四人とイギリス人と日本人女性が近づく。

 「エリックさん。和泉さん」

 翔太が驚きの声を上げる。

 「芥川。なんでここに?」

 三神が聞いた。

 「本田艦長から指令だ。火災調査団の指揮を執るように言われた。間村達はジュエリーアイランドの討伐隊にくわわる。自衛隊は後方支援になる」

 芥川は説明した。

 「米軍は?ここから近いのはグアムでしょ。避難民は受け入れたの?」

 柴田が聞いた。

 「残念ながら米軍は参戦しない。避難民は一時受け入れるがその先はわからない」

 首を振る芥川。

 「スレイグが大統領になってアメリカは終わったね。別に期待してないし」

 モリ・キタナがわりこむ。

 「僕達でやるぞ」

 ゲータとミリガンが声を上げる。

 「ここは何とかする」

 エリックはうなづいた。



バベルダオ島。

バベルダオブ島は、太平洋に位置するミクロネシアを構成する島々の一部、パラオ諸島に存在する島の一つである。数あるミクロネシアの島々の中でもグアム島に次いで二番目に大きな島である。パラオ共和国の遷都前の首都があったコロール島とバベルダオブ島とは、KBブリッジなどの橋によってつながっており、船舶を使用せずに渡ることが可能である。

世界遺産エリアの中心に位置するガルメアウス島は、ビーチが美しく、トイレや雨をしのげる小屋などもあり、いろいろなツアーで

立ち寄る機会が多い島です。 ロックアイランドの島々の中では人気ナンバーワンといっても過言ではない。

 ガイドブックを見ながら小さな川に入る佐久間達。

 「泉というより小さな滝ですね」

 翔太は小さな滝つぼをのぞく。

 ヤシの木や岩に舞い降りる数羽の白いフクロウ。フクロウの種類が違うのか大きさも違い顔つきも違うのに羽根色は白いのだ。

 「パラオでもフクロウは吉兆の印なの」

 カーラ・マミヤが指摘する。

 「精霊だよ。沖縄のキジムナーは錦鯉の姿で現われたし、南シナ海の精霊ピーはマナティの姿で現われた。僕達にわかりやすいような姿で現われている」

 翔太は説明する。

 「多くの生命が赤い海とモヤで苦しんでいます。あの塔の中枢に浄化したキューブを入れれば破壊できるとの考えは当たっています」

 メンフクロウがしゃべった。

 「日本語しゃべれるの?」

 「私達にはパラオ語よ」

 カーラ・マミヤとトニー・ツクダが驚きの声を上げる。

 「多くの生命を危機にさらしてしまう原因は時空の亀裂からの侵略者です。それは極秘実験のせいで入ってきました。サブ・サンとは敵対していて追い出そうとしています。サブ・サン側のタイムラインはあまりないと思います」

 ミミズクが指摘する。

 「それはよかったと言いたいがあまり喜べないな。サブ・サンはタイムラインがなくなれば、おとなしくなるか、帰るかのどっちかになるだろう。でも今度は新たな侵入者が入ってきた。そういうことか?」

 五十里が腕を組んだ。

 「それは浄化が成功した後に意外な者からもたらされます」

 コノハズクがしゃべる。

 「なんで俺達に言う?」

 三神が聞いた。

 「あなた方はその鋭いアンテナで敵の信号や危機を捉えました。金属生命体の腕や足を移植された者達は間もなく融合の苦痛が始まり進化します。今回の戦いでそれが促進されます」

 ワシミミズクが指摘する。

 「構わないわ。三年前の事件と同じような事を防げるならね」

 腕を組む柴田。

 「機械生命体で一番鋭いアンテナを持っていたのはそこの四人です」

 メンフクロウが指摘する。

 「すごい決まったような言い方ね」

 佐久間が声を低める。

 「僕も?」

 驚く貝原。

 「また僕も選ばれた」

 嫌そうな福竜丸。

 「俺は声が聞こえたから来た」

 三神がわりこむ。

 以前からアンテナが鋭すぎて声が聞こえて断片的な映像がよぎって、イージスシステムのように敵の脅威順にレーダーが自動的に反応する。

 「僕と智仁と三神さん貝原さん、佐久間さんと福竜丸、柴田さんを含む消防士の金属生命体のハーフ達は選ばれたんだね」

 翔太ははっきり指摘する。

 たぶん精霊が言いたいのは選ばれたからこれからやってくる者達の侵入や計画を阻止しろと言いたいのだ。

 「僕もそう思うよ。僕の場合は世界の王室ちも関係があるし、政府や王室主催の晩餐会に参加したりするから情報は早い。僕はスレイグやサブ・サンみたいな連中に玄関に入ってほしくない。僕も時空監視所のメンバーに入れて」

 智仁は提案をする。

 「いいよ」

 うなづく翔太。

 智仁はキューブを滝つぼに浸した。

 その時である。すすり泣くような声や苦しむような声が聞こえた。

 「あまり時間がないわね。浄化したらタヒチの基地に戻るわよ」

 佐久間は言った。

 

 タヒチTフォース基地

 「赤い海の海域が広がった?」

 マリアンヌの指摘にパラオから帰ってきた佐久間達は声をそろえた。

 「半径五〇〇メートルづつ増えていて今は二十キロ。このまま進むと一〇日でタヒチ沖まで達する。スピードが進めば一〇日以内になるだろう」

 ベレッタが指摘する。

 「そしてあのすすり泣くような音は南半球全域に聞こえ、電波妨害がすごい」

 アレックスが地図を指さす

 「なら私達はこの中心にあるタワーを破壊する。私達にはフジツボはつかなかった。そしてデータリンクしなければあのささやき声は入って来ない」

 佐久間ははっきり言う。

 「簡単に言うな」

 アレックスがわりこむ。

 「カメレオンは意識下では全部つながっている。集合意識生命体よ。ならこっちもつながってなければいい」

 佐久間は図で書いて説明する。

 「モールス信号でやり取りする感じか」

 納得する間村達。

 「僕達は王海凧さんと一緒にタワーに侵入します」

 翔太は地図を指さす。

 「そんな事できるのか?」

 どよめくグエン達。

 「自分で何を言っているのかわかるのか?あのタワーのある島の周辺は衛星に赤い点にしか映らない」

 間村が衛星写真を見せた。

 「だいたいどういう構造になっているのか知っている」

 鋭い声に振り向く佐久間達。

 部屋に入ってくる王海凧。

 「じゃあ案内して」

 佐久間と翔太が声をそろえる。

 「僕達はそこに行かなければいけない」

 智仁は何か決心したように言う。

 「答えはそこにあるかもしれない」

 三神は青色に輝くキューブを見せた。

 「信号はそこから来ている」

 貝原が地図を指さす。

 「私もそこに行く」

 柴田がわりこむ

 「僕とリンガムと芥川は空母波王と3901をなんとかする」

 オルビスが名乗り出る。

 「タワーから半径一キロの海域は人間やミュータントは生存不可能で空気がない。私達が造った防護スーツを着用してもらう」

 リンガムがわりこむ。

 「このドームのある海域ともやのかかった空域は戦闘機で接近が不可能で内部に入ると謎のフジツボがくっつく。戦闘機部隊と戦闘機のミュータントはポリネシアとパラオの発電所とリゾート地という名前の中継基地の攻撃に回ってもらう」

 マリアンヌは指揮棒で指さした。

 「僕達も赤い海域に入って波王艦隊とカメレオン部隊をなんとする。撃ち漏らして赤い海の外に出たカメレオンは国連軍が攻撃する」

 アッシュが説明する。

 「中国軍はどうしているの?」

 佐久間が聞いた。

 「遼寧と蘭州が南太平洋でうろつているが俺達がなんとかする」

 ピョートルが写真を出す。衛星写真に遼寧と蘭州だけ映っている。

 「二隻だけはないよね。遼寧は空母だから艦内に戦闘機や船のミュータントをつれているだろう」

 マリアンヌが推測する。

 「その通りといえば正解だな。尖閣諸島の戦いでも遼寧は戦闘機のミュータントを多数連れて来ているうえに暗器も隠し持っているし、カンフーや武術太極拳は本物だ」

 間村が腕を組む。

 「これ以上赤い海が広がらないうちにやりましょう」

 マリアンヌはうなづく。

 「タワーに接近するならハバル・タグに乗って侵入する。操縦は私がする。タワー上部にはそのキューブを入れる装置があると思われる。準備は出来ているから案内する」

 アーランは手招きした。


 一時間後。護衛艦「かが」

 格納庫に入る三神達。

 「六人乗りのタグだ。赤い海にいつまで耐えられるかはわからないけど島にたどりついたらタワーへ走れ」

 アーランは点検しながら言うと機体側面のドアを開けた。

 柴田、五十里、翔太、智仁、福竜丸は機内へ入る。

 後部弦側扉が開いた。

 三神、貝原、王海凧、佐久間は海に飛び込み巡視船とイージス艦に変身した。

 ハバルタグが格納庫から進水する。

 「潜水艇とちがって異質な感じ」

 智仁が周囲を見回す。よく見る乗り物と造りがちがうのか宇宙船に乗っている感じだ。

 「このタグも工事用で使っているけどもともとは宇宙で作業する船よ」

 アーランは操縦しながら答える。

 「すごいね。宇宙船だったんだ」

 智仁は目を輝かせる。

 「大昔の話よ。人類は近い将来、自分達の力で惑星から惑星へ行き来する宇宙船を建造して太陽系を飛び出すでしょうね」

 アーランは機器を操作しながら言う。

 「またそうなるまでが時間がかかりそうだ」

 五十里はわりこむ。

 「柴田。あなたの体はその機械の腕が進化させる。その結果、防護服なしであなたの場合は生存可能なの」

 アーランは資料を渡した。

 「宇宙でもどこでも生存可能って事はオルビスの種族に限りなく似ているようね」

 柴田は資料に目を通す。

 「似ているというより亜種族ね。あなたち南太平洋の火災調査団チームは」

 アーランが答える。

 黙ったままの王海凧。

 「そこの海警船は大幅に改造されてカメレオンの卵は活動が活発になる」

 アーランははっきり指摘する。

 「正解かな。ここでしか生きられない」

 しれっと言う王海凧。

 「朝倉達とは別行動は初めてだ」

 三神がつぶやく。

 「僕もまさかここに来るなんて思わなかったし、来れるなんて思わなかった」

 貝原が本音を言う。

 「僕もスタッフとして参加できてよかった」

 福竜丸がうなづく。

 「無事に帰って来たら宴会やろう」

 三神は思い切って言う。

 「それはいいアイデア」

 翔太と智仁がうなづく。

 「そうしよう」

 福竜丸やアーラン、柴田もうなづく。

 「こちら「あしがら」赤い海に突入する」

 無線に入ってくる佐久間の声。

 「了解。データリンクは切ってモールス信号に切り替える」

 アーランは答えた。

 「波王艦隊。接近」

 佐久間が声を荒げる。

 赤い海に入ってすぐ多数の艦影が現われ、赤い稲妻をともなう光線が発射される。その光線の間隙を縫うように駆け抜ける四隻。

 無線にヒンディ語とロシア語、フランス語による呪文を詠唱する声が聞こえ闇色の鎌と雷の槍、緑色の槍が多数出現して駆逐艦やフリゲート艦の船体を真っ二つに切断した。

 三時の方向から現われる空母三隻。

 ロシア海軍所属のアドミラル・グズネツォフ。インド海軍ヴィラート。フランス海軍のシャルル・ド・ゴールである。

 再びくだんの光線が放射状に広がる。それが途中で空の方へ軌道が曲がった。

 「波王は僕達がやる」

 わりこんでくる空母ヴァルキリーと護衛艦

「いずも」

 「オルビスとリンガム?」

 智仁がつぶやく。

 「そうだよ」

 うなづく翔太。

 「本当だったんだ」

 納得する智仁。

 尖閣諸島の戦いで護衛艦「いずも」とリンガムが融合。その前にロマノフの宝事件が起きて米軍のミニッツ級空母の十一番艦である

「ヴァルキリー」とオルビスが融合したのをニュースで知った。

 オルビスが融合するヴァルキリーの甲板から砲台が船体側面からも砲身が飛び出し青色の光線や稲妻をともなった光線が発射される。

 波王の光線や光球を弾いた。

 「中国から船をたくさんもらったみたいだな。中国軍で見るような艦船がいっぱい」

 貝原が指摘する。

 「それはそうね。中国政府はサブ・サンの言いなりで建造させたからね」

 佐久間が答える。

 別の方向から対艦ミサイルが後からやってくる駆逐艦やフリゲート艦に命中した。

 国連軍討伐隊に参加している他国軍の艦船のミュータント達の艦影が接近する。

 「ここから先は俺が案内する」

 王海凧が船体から二対の錨を出した。

 波王艦隊から離れ、しばらく赤い海を進むと三時の方向と九時の方向から漁船軍団と海警船が多数出現する。いずれも赤く輝く模様がある。

 「3901と3902と3903以外にもたくさんいる」

 貝原が驚く。

 「奴らはそこにいるミュータントや船舶をかたっぱしから拉致して改造したんだ」

 王海凧が答える。

 ミサイルが何発も命中して漁船船団が吹き飛ぶ。

 竜巻や火の竜巻で他の漁船や貨物船が吹き飛び、衝撃波で何隻かの貨物船が真っ二つになる。

 九時の方向から沢本達が接近してくる。

 「タワーまで一緒に行くけどいい?」

 李紫明が王海凧に近づく。

 「行こう」

 王海凧は言う。

 「ここは私達がやる」

 芥川がわりこむ。

 「もう防弦物にヒビが入った」

 朝倉がつぶやく。

 「行くぞ!!」

 アレックスは声を荒げる。

 どこかで爆発音が響く。

 「本当にカメレオンだらけね」

 佐久間はいきなり襲いかかってきた漁船のコアをえぐった。

 「漁船ならそこらの海域で奪えるし、漁師がいても拉致して改造するからだ」

 王海凧が機関砲を連射。機関砲弾は赤色の光線である。何隻もの漁船を射抜いた。

 その漁船のコアを抜く三神と貝原。

 しばらく赤い海の海域を進む佐久間達。

 「赤い海域が濃い赤色になった。フジツボがくっついてきた」

 李鵜やキムは船底にくっついたフジツボをいくつも取った。

 「船体にもヒビが入った」

 グエンやトムがつぶやく。

 「長時間はいられないな」

 三神が推測する。

 自分や佐久間、貝原はフジツボも船体にヒビは入っていない。カメレオンに改造された王海凧は平気だろう。アーランが操縦するハバルタグはもともとは宇宙船でこういう場所でも耐えられるように建造されている。自分達以外のアレックス達はすでに影響が出ていて持っても四時間位だろうか。

 「三時の方向と九時の方向からカメレオン接近」

 アーランが警告する。

 彼女が警告した方向から海警船と漁船船団がやってくる。

 「ここは俺達がなんとかする」

 沢本は声を荒げる。

 「中央を突破する!!」

 佐久間はエンジン全開で進む。その後をついていく三神、貝原、王海凧、李紫明とハバルタグ。

 「ここを突破すればタワーのある島だ。防護服を着用して。柴田の場合はその機械の腕が調整して進化する」

 アーランは指示を出す。

 翔太、智仁、五十里は更衣室にある防護服を着用する。

 「これ宇宙服?」

 智仁はヘルメットをかぶった。

 それはNASAにあるような宇宙服ではなくピッタリフィットする戦闘用宇宙服である。

 「それも深海の民の先人が造ったものよ」

 アーランがパネルを操作しながら言う。

 「すごい技術だ」

 感心する五十里。

 「タワー上部にある装置まで運ぶ」

 アーランが図面を出した。

 「当然、敵がいるな」

 「側面に機関銃座があるからそれで迎撃」

 アーランは船内図を出した。

 福竜丸と五十里は側面にある機関銃座に乗り込む。透明なカプセルに覆われた銃座が側面からせりだした。

 ハバルタグは水中翼船のように浮き上がり飛行機のように低空飛行をしている。

 「すごい技術ね」

 つぶやく福竜丸。

 「もともと宇宙船だから可能か」

 五十里がうなづく。

 「海警船接近」

 アーランが報告する。

 「俺達がやる」

 名乗り出る王海凧と李紫明。

 「了解」

 二隻は佐久間達から離れた。

 タワーのある島に着岸すると元のミュータントに戻る三人。

 ハバルタグの船底から十八輪のタイヤが飛び出し上陸した。

 


 同時刻。マラカウ島

 潜水艇から港に侵入する高浜、柳楽、時雨、下司、アクバ・ナス。

 エリックと和泉は合図する。

 時雨は榴弾砲砲台に変身。砲口をタワー基部に向けた。青い極太の光線は正確に命中。

 柳楽の片腕もバズーカー砲に変形。二の腕が軋み音を立てて風船のようにふくらむ。砲口から黒い球体がいくつもともなった青い光線が発射。正確に命中した。

 タワー基部で爆発と火柱が上がる。

 ドームのような建造物から飛び出してくる兵士達。みな首筋にタトゥがある。そのうちの何人かは赤い蛍光に包まれて戦車や装甲車に変身する。変身しても車体に光る模様があった。

 「中国の戦車や装甲車ばかりね」

 下司が指摘する。

 「それはそうね。中国の払い下げの兵器と融合したからね」

 和泉が答える。

 発電所の煙突から紫色の煙が大量に噴き出した。

 資材置場から飛び出すパラオ、ミクロネシア、ポリネシア人達。消防士のミャオ、キタナ、ゲータ、モルシ、ミリガン。

 装甲車の機関砲が火を噴く。

 ミャオは身構え両方の掌底から六角形の青白い盾が飛び出す。その盾のバリアに弾かれる赤い光線。

 ゲータの腕が炎に包まれ、剣に変形してくだんの装甲車の車体に突き刺し二対の炎の鎖でコアをえぐった。

 モルシは片腕の掌底を向けた。稲妻が放射状に広がり、感電する兵士達。

 ミリガンの周囲に強い風が吹き荒れ小さないくつもの竜巻が現われて兵士や装甲車を吹き飛ばす。

 「突撃!!」

 アクバはパラオ語で叫んだ。

 飛翔音が響き一〇機編隊の戦闘機が発電施設と煙突を爆撃した。

 煙突からの大量の煙はなくなったがドーム状の建造物から大量の紫のもやが噴き出しそれがドーナツ状に上空にたなびく。

 丘からTフォース隊員やハンター達が駆け下りてくる。

 鉈で袈裟懸けに斬るアクバ。

 二本の日本刀で切り裂き駆け抜ける高浜。

 下司は二丁の拳銃で飛びかかってくる兵士の頭を撃つ抜いていく。

 爆発音が連続で響きハンターやカメレオン兵士が何人か吹き飛ぶ。

 エリックと和泉は長剣で兵士達をなぎ払いながら進む。

 自走榴弾砲に変形する時雨。猛スピードで走りながら兵士達を次々跳ねていく。

 その後につづく高浜達。

 発電所のドアに突っ込む時雨。

 二階のバルコニーにいた兵士を正確に撃っていく下司。

 撃たれて落ちていく五人の兵士。

 柳楽は背中から六対の鎖を出し、先端を機関砲に変形させて連射。エントランスに入ってきた兵士達を撃つ。

 時雨は元の姿に戻った。

 倉庫から飛び出す兵士達。

 雷の槍と銃弾に倒れる兵士達。見ると海保SST隊員が三人いる。高津、氷見、朝比奈である。

 「ここは私達が食い止める」

 高津は指示を出した。

 「了解」

 高浜達はドーム状の建物に入る。どうやら発電施設とここはつながっているようだ。天井と地面から巨大コイルが飛び出し発電するのは紫色の球体である。球体から大量の煙が噴き出していた。

 「水谷」

 高浜が気づいた。

 「知り合いですか?」

 アクバが聞いた。

 「八王子事件で死んだ消防士で元は柴田の同僚だ」

 高浜が答えた。

 「そうだよ。僕は再生されたんだ。この人にね」

 水谷と呼ばれた男は近づいてきた人物を紹介する。その男は紫色のピッタリフィットする戦闘スーツを着用。スキンヘッドで皮膚は白色で瞳は赤色である。

 「バル・ジウだ」

 エリックが気づいた。

 「サブ・サンの部下ね」

 高浜達は身構えた。

 


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