第11話 火災調査団との合同調査 つづき
三十分後。横須賀基地。
翔太達が海上自衛隊横須賀基地に入ると会議室に七人の消防士と五人の海上保安官、四人のパイロット、四人の海保のSST隊員が顔をそろえていた。
「その少年はもしかして筑紫宮智仁さま?」
五十里が聞いた。
「はい。智仁です。智仁でいいよ」
智仁がうなづいた。
会議室には四人の男女がいる。
「東京税関の吹田です」
「横浜税関の海老名です」
「入国管理局の足柄です」
「麻薬取締部の鮎沢です」
四人は名乗った。
「お父さん」
翔太は声をかけた。
部屋に入ってきた翔太の父である博が入ってくる。
「君らに集まってもらったのは今、起きている事象だ。まず警視庁と魔術師協会から」
博は口を開いた。
「最初、ホテルの通報で警視庁は九〇六号室に向かいました。そこでクララ・スコルツア、クロエ・スコルツア、ハンターのマクギーの遺体がありました。これは推測でしかないのですが、やったのはプロか時空侵略者だと思われます」
羽生は写真をホワイトボードに貼っていく。
田代は相関図や矢印を書いていく。
「クララが時空の円環という時空遺物の持ち主である事は知っていたのでそれがない事に気づきました」
「クララの喉の奥に紙切れがありそれは郵便局の領収書である事がわかりそこの住所や人物を割り出しました」
エリックと和泉はレシートと写真を出した。
「僕はクララからの手紙と小包を受け取った。彼女とは文通していた」
智仁がわりこんだ。
「俺達は定員オーバーの釣り船を捕まえたらそれは中国人だった」
沢本が釣り船の写真を出した。
「俺達はマンション火災の鎮火とそこにいた時空侵略者を倒して次の現場に行った」
高浜はエイリアンの写真を見せた。
「横浜保安署に帰ったら智仁さまがいて翔太達がいた。そしてそのルービックキューブを見せてもらったらミサイルが飛んできた」
三神が思い出しながら言う。
「ミサイルは中国のサイバー攻撃を受けて米イージス艦から発射されたものだった」
オルビスは別のホワイトボードに地図を書いた。犬吠崎から二十キロ離れた海域にバツ印を書く。
「そこから自分の脳に音が聞こえてペンダントから映像が入ってきた」
翔太はわりこむ。
「俺達は博多湾の赤い油を回収しているうちに油が漏れている事も知らずにその中に入った。そしたらSOS信号を受信した」
三神が首をかしげる。
「僕の場合は信号が強くなった」
わりこむ貝原。
「俺達は大黒埠頭の火災現場に行った。敵はこれだった」
高浜は写真を見せた。
「これはアイアンバッファローとブッシュファイアだ」
エリックが指摘する。
「二つともかなり上級レベルの召喚士でないと呼べない魔物よ」
和泉が写真をのぞきこむ。
倉庫にまとわりつく青い炎の写真がある。
「その魔物を封印してあった壺がこれ」
吹田がわりこむ。
「ミスカトニック大学から通報があった。それが航空便で入ってくるという情報が入って羽田空港に張り込みしていたらそれを取りに来た奴がいた」
海老名が中国人の写真を見せる。
「そいつは麻薬のブローカーだった。でも壺はなくバックの中味は麻薬だった」
鮎沢が腕を組む。
「直前に誰かが変更して入れ替えた」
足柄がうーんとうなる。
「ドラム缶に赤い液体に浸かった頭蓋骨を見つけた。それを見たら巨大ムカデと大蛇にビーチにいた海水浴客達が襲われている映像が頭に入ってきた」
柴田は写真を見せた。
「この中でその赤い液体を触ったり見たりして声や映像を見た者は?」
博は話を切り替えた。
三神、貝原、柴田、智仁、翔太、福竜丸、五十里が手を上げた。
「どんな感じだった?」
博は核心にせまる。
「あんな寂しくて激痛で苦しいのは初めてだった。融合の苦痛後の自分がそうだった」
三神は視線をそらす。
「僕もだよ。五十年前に見たかもしれないけどわからない」
福竜丸が口をはさむ。
「救難信号だったけど必死に助けてと言っているがどこからなのかわからなかった」
貝原がわりこむ。
「あんな悲しみは初めてだよね」
「大勢が死んでいるという映像だよ」
困惑する智仁と翔太。
「暗い海底と船舶や電車がバラバラに散らばっている。地獄だ」
五十里が頭を抱える。
「映像を見て痛みを感じた。機械の腕が反応していた」
柴田が思い当たる事を言う。
「俺も融合の苦痛の日を思い出していた」
三神がうなづく。
「それはね。あなたたちが感じたのはマシンミュータントや金属生命体の苦痛や苦しみよ。それを感受性の高いアンテナを持つあなた方が拾ったのよ」
佐久間がホワイトボードにアンテナを書く。
「マシンミュータントや金属生命体は生物のような生身の部分はない。そのない部分は痛みや苦しみという形で受信する。寂しい。苦しいといった感情を翔太君や智仁さまは受け取った。たぶん時空武器と時空遺物のせいね。原因はそのルービックキューブよ」
佐久間は六角形のルービックキューブを指さした。
「カメレオンは長い流浪生活で破壊するだけの連中になった。でも繁殖するためには惑星が必要でそこに住む種族の思念を受信しないようにするにはそれが必要だった。彼らは尖閣諸島の戦い以来おとなしい。でも彼らは繁殖しようとマシンミュータントを拉致して実験しているとの見解を出したの」
佐久間はスクリーンを出した。
「39~で始まる海警船の最初の三隻を建造したのは中国だけどそこから先は拉致したマシンミュータントに卵を植えつけて繁殖させようとしているがわかったのは、南シナ海の施設から逃げたサラヤゼル博士が持ち出した情報だった」
間村は初老の男性の写真を出した。
「卵を植えつけられるとそいつはカメレオンの本体と融合して乗っ取られる。急激に増えたのはそのせいだ」
室戸が図にして書いた。
「まるで映画「エイリアン」じゃないか」
高浜と朝倉がわりこむ。
「クララにルービックキューブを送ったのはマクギーの相棒のハンターで彼は命がけで潜入して盗んで殺された」
霧島が写真を出した。
「なんかつながったな」
納得する羽生と田代。
「マシンミュータントが一番よく拉致される場所はここだ」
間村は南太平洋と南シナ海に丸をつけた。
「南シナ海は一番の原因だけど最近は南太平洋では中国企業が進出していてリゾート開発をしている。そこに中国漁船が大挙してやってきて工事の手伝いをしている。それと一緒に海警船が警備を始めた。そこにいるのは全部カメレオンなのよ」
佐久間はパラオやミクロネシア、マーシャルの島々の地図を出した。
「そこで沿岸警備隊チームと火災調査団はこの島々に行き調査という名目で入る事になる。この近くにはマリアナ諸島があり米軍基地もある」
博はスクリーンに地図を出して指揮棒で指さした。
「もしかして米軍が横ヤリを入れてきた?」
黙っていた沢本がわりこんだ。
「大乗り気だった。ジョコンダやスレイグも興味あるらしい。護衛艦「かが」の入港も認めてきた」
博が難しい顔をする。
「パラオやミクロネシア、マーシャルには合同で運営する沿岸警備隊があったな。俺は相棒と一緒に運営と取り締まりのやり方を教えた事がある」
沢本がふと思い出す。
「じゃあ現地の沿岸警備隊に異変が起きていないか聞いてみようよ。異変が起きているならそれを口実に中国のリゾート地に近づけるかもしれない」
それを言ったのは翔太である。
「でも智仁さまはどうする?天皇陛下と宮内庁と日本政府にどう説明する?」
黙っていた下司が聞いた。
「政府も宮内庁も納得しないし出さない」
五十里が首を振る。
「僕は皇位継承第五位だし役回りなんて回ってこない。それにこのルービックキューブを破壊しなければいけない」
何か決心したように言う智仁。
「そういう問題じゃない」
注意する高浜。
「たぶん彼らが狙っているのは覇王の石だ。なんで時空の円環を狙い始めたのか知りたい。たぶん覇王の石は二重、三重の封印と魔術の封印がしてあると思う。封印が解け始めているんだと思う。阻止したい」
翔太は真剣な顔になる。
「だから明日、調査に向かうんだ。停泊場所は「かが」だ」
博は地図を指さした
その夜。横須賀基地。
佐久間と間村、室戸、霧島と沢本が会議室で資料の整理をしていた。
「東京消防庁も変わった消防士をよこしたよ。沿岸警備隊チームも十分変わっているがこっちも変わっている」
間村はモニターにプロフィールを出した。
「柴田良美。六年前は新人消防士として横浜中消防署に研修で配属されてマンション火災に三神と出会った。マンション火災の犯人の放火魔はソリア人だった。彼女は研修が終了して消防士に八王子署に配属になった。そこで三年前に八王子魔物事件が起こり、時空の亀裂から出現した魔物により高速道路の多重事故で周辺の消防署から出動した多数の消防士、救急隊員、負傷者が魔物に食べられ、彼女は片腕を失った。彼女はサマーセットという医者から金属生命体の腕を移植された。移植された腕は彼女の体を侵食していて近いうちに金属生命体と人間のハーフになった」
佐久間と沢本は身を乗り出す。
「初めての状況だな。金属生命体とのハーフなんて」
霧島は後ろ頭をかいた。
「マシンミュータントだって変異体に進化した連中が沿岸警備隊チームに何人かいる。新たな進化が始まったとシド博士と平賀博士は言っている」
間村はカルテを出した。
「進化って何になるんだ」
頭を抱える沢本。
「俺だってわからない。時雨はオルビスと同じ宇宙漂流民だし、柳楽は改造人間だ。金属生命体と人間のハーフと言える。五十里は共感覚でパステルカラーで文字や火災原因が見えるハンターで下司は元暗殺者で賞金稼ぎをしている消防団員。高浜は都内の芝消防署や臨港、四谷消防署でレスキュー隊の任務についていた。それが六年前に横浜中署に異動になった。レスキュー隊員でありながら邪神ハンターでA級ハンター。別名二刀流のハンターと呼ばれる」
間村はプロフィールを切り替えながら説明する。
「南太平洋がどうなっているのか気にもしてなかったな」
室戸が地図に切り替えた。
「中国とカメレオンは南シナ海に巣穴と基地を造った。そこで実験をしている。南太平洋は米軍もからんでいるだろうに」
霧島がわりこむ。
「あのジョコンダが横須賀や横田に来ていてスレイグが大統領じゃアメリカは終わったな。サラトガ達はロクでもないし」
さじを投げた医者のように言う間村。
サラトガやアイリス、レイス、レジーの四人組は司令部からの命令で動くだけ。ビキニ環礁の時空ホール事件やロマノフ事件でもそうだったし今に始まった事ではない。
「でも気になるわね。小さな時空の亀裂が国内にしかもレスキュー現場や火災現場に現われるって」
佐久間は資料を出した。
「海上保安庁でも領海にテレポートしてきて漁場をあさっている中国漁船を何隻も捕まえている。絶対に仲間が手引きしているし入ってくるなんてありえない」
沢本が画面を切り替える。
「それは俺達もそう思っている。だから周辺国でそういう事がないか行くんだ」
間村は言った。
翌日。グアム沖
護衛艦「かが」に着陸する二機のオスプレイ。艦首側エレベータが降下して格納庫にオスプレイが収容される。
機外へ出てくる翔太達。
「本田艦長。よろしくお願いします」
翔太は頭を下げた。
「筑紫宮智仁さまも一緒なのは聞いている。マリアナ諸島には米軍基地が点在しているから安心と言える。ミクロネシアやパラオに中国漁船や海警船が出没。パラオやミクロネシアでリゾート地開発している。そこにはカメレオンが変身する船舶が出入りしている。安全とは言えない」
本田艦長は難しい顔をする。
「そんな状態なんですか?」
身を乗り出す翔太と三神。
「司令室に案内する。そこの消防士達も来い。東京消防庁から許可はもらっている」
本田艦長は手招きした。
「かが」艦内CIC
「初めて入ったよ」
六人の消防士達は声をそろえる。
そこには正面スクリーンやレーダー、地図などが並ぶいわば心臓部である。オペレーターや司令部要員が忙しく行き交っている。
正面スクリーンにパラオ、ミクロネシア、マーシャル諸島の島々が映し出されている。
マラカウ島に中国企業のリゾート地工事が始まっている赤い印がありミクロネシア連邦の島にもついている。
「工事用の運搬船と漁船がその周辺にはうろついている。その船舶が全部、光る模様がある。海警船も出没する」
スクリーンが切り替わる。
「3901と3902、3903だ。こいつ、中国の掘削基地にもいた」
あっと声を上げる三神。
「あの日韓の掘削基地事件か?」
高浜が口をはさむ。
「そうだよ。俺達は台湾、韓国海洋警察と調査に出たらそこはカメレオンの巣になっていた。おまけにカメレオンの情報収集艦に佐久間と翔太と俺達五人も捕まった。連れてかれた先が東シナ海にある掘削基地の一つでそこはアジトになっていた」
朝倉は説明した。
画像が切り替わりそこで見つけたカメレオンの司令室や卵を映し出す。
「このままだと地上へ進出するだろうな。地上にあの卵を持ち込む。孵化すればカメレオンの子供が生まれる」
沢本は卵を指さした。
画像にメタリックに輝く直径一メートルの玉がある。卵にもからくさ模様が入っている。
「見た目は機雷にそっくりなんだ。たぶん地上にあってもわかると思う」
翔太が指摘する。
納得する六人の消防士。
「アジトには食糧があるが全部、人間、ミュータント、マシンミュータントの死体が冷凍保存されていた」
沢本が説明する。
「本当に食べるんだな」
顔が引いている五十里と下司。
「君らが東京消防庁からなんで派遣されたのか?それはパラオの消防局からこの放火魔の調査とカメレオンの動向調査が入っているのと、金属生命体の腕や足を移植されたパラオ人の消防士がいるからそれも調査だ」
本田はスクリーンを切り替える。
「これは六年前のマンション火災で俺と三神と柴田で退治した放火魔じゃないか」
朝倉が指をさした。
「こいつはエイリアンだよ。時空侵入者でソリア人。体内温度摂氏二〇〇度の生命体で宇宙船もそれに耐えられる構造になっている」
オルビスが推測する。
「摂氏二〇〇度はすげえな。まさに進化と言ってもいい」
感心する間村と沢本。
「グアムのアンダーセン基地にあの四人が来ている。ハワイの太平洋艦隊基地にジョコンダが来ている」
本田が画面を切り替える。
画面に四人の米軍兵士の顔写真が映る。クリス、アイリス、レジー、レイスとアメリカ沿岸警備隊のニコラス、カプリカの顔写真と一緒に黒人女性の顔写真もある。
「あいつらがポンコツ司令部の命令を受けているのは知っているし、スレイグが大統領になったよけいロクでもなさそうだ」
わざとらしく言う室戸。
「しょうもないのは今に始まってないし、尖閣諸島の戦いでは参戦しなかったし、ビキニ環礁時空ホール事件では俺達を拉致したし、沿岸警備隊チームが発足して最初の事件では邪魔してきた。今回も同じだろう」
間村が言い切る。
「今回も邪魔するにちがいないが現地へ行かないとどうなっているのかわからないから行くぞ」
沢本が何か決心したように言う。
「沿岸警備隊チームはコロール市の海上警察とTフォース支部に行く事になる。火災調査団もそこになる」
本田は言った。
二時間後。パラオコロール。
パラオは南北に約六四〇キロに渡り二〇〇以上の島々があり、そのうち九島のみに人が住んでいる。残りは無人島。火山とサンゴの隆起により出来た島々珊瑚礁の海は世界有数のダイビング・スポット。ダイビング目当ての旅行者を相手にした観光業が、国の主要産業である。
パラオ共和国は日本から約三〇〇〇キロ南に位置する人口約二万人の国。人口の七割がパラオ人。その他、フィリピン人、米国人、中国人、日本人等多くの民族が移住している。
とびきり豪華なリゾート施設はないけれど、世界でトップクラスの美しい海と手つかずの自然の中で過ごす贅沢が堪能できるアイランドリゾートがある。
戦前、日本が委任統治していたパラオ。米軍の上陸前に島民を退避させ、自らは玉砕の道を選んだ日本兵は地元住民にとってまさに英雄である。パラオは一九一四年から一九四五年迄の三十一年間、日本に統治されている。
日本は教育、経済、インフラなど生活基盤をパラオにもたらせたことで、パラオ人に感謝・尊敬されておりとても親日的な国として知られている。
パラオは「世界一」とも言われる親日国。島と島を結ぶ全長四百十三メートルの「日本・パラオ友好橋」は日本の無償支援でつくられ、現在パラオの象徴になっている。
第一次世界大戦が勃発した一九一四年、日本はドイツ領だったミクロネシア
地域を占領した。翌十五年には学校を設け、現地の子供たちに日本語教育を始めた。パラオ共和国では、日本の童謡「鳩ぽっぽ」が知られており、ポピュラーな歌として歌われている。「ポ、ポ、ポ、鳩ポッポ…」とパラオ人の半数以上がこの歌を日本語で歌えるのだという。
そんなパラオの首都はマルキョクである。
マルキョクは、パラオ共和国のマルキョク州にある同国の首都である。パラオ最大の島、バベルダオブ島の東岸に位置する。
二〇〇六年、マルキョクの中心部から二キロ程北西に離れたンゲルルムッドの集落に政府が移転し、マルキョクはコロールに代わって同国の首都となった。駐日パラオ共和国大使館特命全権大使によると、首都移転の理由としては、コロールの人口過密解消と経済機能の分散のほかに、土地が政府に無償で
提供されたことが挙げられている。現在国会議事堂が建っている首都エリアは、共和国政府が所管する土地になっている。
Tフォースパラオ支部のヘリポートに着陸する二機のオスプレイ。機外に出てくる翔太達。駐機場に一人の消防士がいる。
「俺達はコロール市内の消防署へ行く。カメレオンや海警船のミュータント、時空侵入者が入れば報告する」
高浜はそう言うと機外に出る。
外へ出る柴田、時雨、柳楽、五十里、下司の五人は赤色のマイクロバスに乗り込む。
それを見送ると翔太達は基地の官舎に入る。
「アレックス」
三神があっと声を上げた。
「沿岸警備隊チームは召集指令が出ているから集まった」
アレックスが司令室に促す。
部屋には南シナ海の時空の門事件で集まった隊員達が顔をそろえていた。
「この人は?」
翔太がパラオ人の男女に気づく。
「パラオ海上警察のトミー・ツクダです」
「同じくカーラ・マミヤです」
パラオ人の男女が名乗った。
「二人共、警備船と融合しているのですね」
翔太が指摘する。
「そうよ。パラオ、ミクロネシア、マーシャル共同で沿岸警備隊を運営している。日本財団や海上保安庁には官舎している。アメリカ沿岸警備隊の協力もあってなんとかやっている」
カーラ・マミヤがうなづく。
「そういえば慰霊で天皇陛下が来たよな」
朝倉がふと思い出す。
「俺達だけだと警備は難しいから海上保安庁から「みずほ」がホテルとして提供されたんだ」
トミー・ツクダが口をはさむ。
「そうね。警備も海域が広すぎるし、ホテルもないものね」
大浦がうなづく。
「この周辺には中国漁船は出没するの?」
三島が切り替えた。
「マラカウ島で中国企業がリゾート地開発している。そこに来ている運搬船や漁船はすべて船体に光る模様がある。このままだとカメレオンの基地ができる。中国企業はここだけでなくアイランドにもある。リゾートホテルだけどなぜか海警船のミュータントが出没する」
カーラ・マミヤが写真を出した。
「こいつ・・・金流芯だ」
声をそろえる三神とアレックス。
「こいつの仲間までいるし、カメレオンも来ている」
何枚かの写真を見て指摘する朝倉。
「金流芯って言うのね。こいつはマラカウのリゾート地の工事現場にもいた」
カーラ・マミヤが言う。
「その工事現場に行ってみよう。近づける現場まで案内してくれるか?」
沢本は言った。
その頃。コロール市内にある消防署
「はるばる日本から感謝する。コロール消防署の署長のアクバ・ナスです」
中年のパラオ人は名乗った。車庫には消防士達が整列している。
時雨が整列している消防士を見るなり指摘する。
「金属生命体の腕や足を移植された人がい
五人いますね」
柴田と柳楽は声をそろえた。
「意見があったわね」
「そう思う」
柴田と柳楽は互いに顔を見合わせる。金属生命体の腕や体が反応するのか、脳内にそうであるかそうでないかがわかった。どうしてかわからない。
指摘されて消防士五人が前に出た。
アクバ署長は五人以外の消防士達に合図を出した。他の消防士達は建物内に戻っていく。
「私はフランス領ポリネシア政府から要請で来ましたミャオです」
ポリネシア系の女性が名乗り出る。
「ミクロネシア政府から要請で来ました。モリ・キタナです」
「同じくゲータ・クロムです」
ミクロネシア人の男女が名乗る。
「パラオ政府の要請で来ましたマルキョク消防局所属のミリガンとモルシです」
パラオ人男女が名乗った。
柴田は救助服を脱いで黒シャツ一枚になって右腕を見せた。
ミャオ、キタナ、ゲータ、ミリガン、モルシは上着を脱いだり、ズボンの裾をめくる。
「執刀した医者は誰ですか?」
柳楽がたずねた。
「神代という医者が来てこの腕を移植した。僕は魔物に襲われて両足を太ももから下の部分を失った。他の人達は事故や病気で失っている」
ゲータは口を開いた。
「神代ってすごい執刀医ね」
下司はタブレットPCを見せた。
「別名、テレビドラマのドクターXの大門未知子にちなんであだ名は「ドクターK」で移植医療の第一人者。でも三年前に飛行機事故で亡くなる。亡くなったのは南米」
下司は画面を切り替える。そこにはブラジルやエクアドルの新聞記事で第一面で天才外科医の死を伝えている。
「サマーセットといい神代といい不審死というより誰かに殺されたとみている」
モルシが声を低める。
「私達の体はだんだんこの腕に乗っ取られて金属生命体になってしまうかもしれない」
モリ・キタナは両腕をさすりながら不安を口にする。
「それはたぶん融合の苦痛が始まっているからだと思います。金属生命体の心臓部はコアだがあなた方の場合は心臓は金属と機械の心臓に変わり、体も内臓も全部生きた機械になる。つまり金属生命体と人間・・・またはミュータントのハーフになる」
はっきり指摘する時雨。
泣き出すミャオやミリガン
「大丈夫だ。俺達みたいになるだけだ」
柳楽は救助服と黒シャツを脱いだ。
黙ってしまうモルシとゲータ、キタナ。
「私も力を使えば使うほど左腕も機械になってしまう」
心配する柴田。
今年になって両腕が金属生命体の腕に変化してきて元に戻らない。
「これは何かの縁にちがいない。南太平洋に五人のチームができるな。日本にも火災調査団は結成される」
高浜はひらめいた。
「そうですね。ここは一緒に戦いましょう」
アクバは高浜と握手をする。
「コロール市内で火災発生。時空の亀裂らしい現象と炎まみれの魔物が多数出現」
構内アナウンスが入る。
「さっそくだが火災調査団出動!!」
アクバ署長は叫んだ。
サイレンを鳴らしながら出動する五台の消防車。
ゲータは地図をチラッと見ながら運転する。コロール市内の繁華街に入っていく。すると二件の建物が燃えていた。その頭上に紫色の輝く球体があった。球体には土星の輪のように黒いモヤがかかっている。
「氷や水の能力が使える者、魔術が使える者は延焼と飛び火しないようにしろ。あとの者は「瘴気」から出てくる魔物を退治。負傷者が入れば優先的に助けろ」
高浜は冷静に指示を出す。
「了解」
消防車から飛び出すモルシ達。
瘴気から飛び出す火トカゲの群れと火の玉。火の玉は数百個浮いている。
柴田は片腕を放水銃に変形させて水を発射。水はどこからともなくやってきて火の玉を消火していく。
モリ・キタナは片腕を放水銃に片腕をバルカン砲に変形させた。放水銃から氷の粒が飛び出し、バルカン砲から氷の銃弾が連射。
周囲に舞っていた火の粉がたちまち氷の粉に変わり氷の銃弾が火の玉に命中して砕け散った。
時空の亀裂から飛び出すプテラノドン。しかしあの図鑑や博物館にある翼竜ではなくどことなくコウモリにワニのような口に牙が生えた翼長五メートルの魔物の群れが飛び出す。
高浜は背中に挿していた二本の日本刀を抜いた。
斧でなぎ払う五十里。
下司は二丁のシグザウアーP226を抜くと正確に魔物の眼を撃ち抜いた。
時雨は青い蛍光に包まれ砲台に変身。装甲装輪八輪の砲台に155ミリ榴弾砲が乗っかりその脇にバルカン砲が両脇にあるという構造だった。砲身から青い稲妻をともなった太い光線が時空の亀裂に向けて発射される。
柳楽は片腕の掌底を向けた。紫色の球体がいくつも時空の亀裂にまとわりつく。
ミリガンは掌底を向ける。どこからともなく強風が吹いて亀裂の回りだけ逆回転させる。
ミャオは青白い円盤の物を出すとそれを亀裂の周囲を包む。
瘴気から飛び出す翼竜もどきの群れに向けて片腕を火炎放射器に変形させるゲータ。紅蓮の炎の渦が群れを包み灰と化した。
炎に包まれた男女がどこからともなく次々現われる。時空侵入者だ。
モルシは拳に稲妻をまとわせると動いた。炎の男女も動いてパッパッと交差して着地。
モルシの体にはどこも傷はない。炎の女のハイキック。モルシはかわすとパンチを放った。顔にもろに入ってよろける女。モルシのかかと落とし。女はひっくり返った。
炎の男の膝蹴り。
モルシは壁にたたきつけられる。
ゲータの飛び蹴り。
受け払う炎の男。
モルシの延髄蹴り。
炎の男はふらついた。
モリ・キタナのパンチが炎の男の腹部にパンチを連続でいれて凍った。
炎の女の速射パンチを受け払うモリ・キタナ。彼女はその腕をつかむと膝蹴り。そしてパンチ。腹部に穴が空いてたちまち凍りつく。
炎の男女は芯まで凍って砕け散った。
ガラスが割れるような音が響いて時空の亀裂は消滅した。
マシンガンを連射しながら突っ込む装甲車。しかし高浜達の手前に出現した青いバリアによってはねられる事はなかった。
「ミャオありがとう」
高浜は礼を言う。
装甲車から出てくる首筋のタトゥがある一〇人の男女。気配は人間やミュータントで全員両目は赤い。
「こいつらはカメレオンの下僕にされたんだと思う」
五十里は女のパンチをかわし男の蹴りをかわす。
「そんな感じだ。ミャオ。バリアでダメージだ」
高浜は指示を出す。
ミャオは一〇人の男女を青白いバリアで包んだ。せつな男女は目を剥いて倒れた。
その時である柴田の脳裏に声が聞こえた。
・・・助けて・・
声は脳に響いた。
「お姉ちゃんの水でイメージで浄化するつもりで戻してみて」
祐樹が駆け寄ってきた。
「わかった」
ひらめくと柴田は両方の掌底を向けて水が浸透して瘴気を追い出すようなイメージで身を出すと包んだ。しばらくすると男女のタトゥが消えて生気が顔に戻ってきた。
どよめくパラオ人の野次馬達。
「すごいですね」
ミャオがつぶやく。
「彼女は水を芸術的に操れる」
高浜が言った。
その頃。マラカウ島。
マラカウ島付近はサンゴ礁があまりないため、パラオ随一の港湾施設が存在する。また港としての立地条件のよさから、ダイビング業者や旅行業者の拠点が集まっている。エコパラダイスFMの送信所もこの島にある。マラカル島とコロール島の間には陸橋で接続されている。そこから離れた島に運搬船が行き交う小島があった。
無人島の島影に隠れる巡視船「やしま」
ヘリ格納庫から小島をのぞく三神達。
翔太と智仁は双眼鏡をのぞく。
運搬船は大型でどれも光る模様がある。岸壁で工事関係者を監督するのも指示を出している人も中国人だが首筋にタトゥがある。
「どう見てもリゾート地じゃないな」
「基地を建設しているみたいな感じ」
李鵜と烏来がわりこむ。
「南シナ海と同じような基地を造るにちがいない」
ルースとミンシンがつぶやく。
地図を見ているグエン、トム、アニータ。
「モルディブでも中国企業が進出してきている。きっと奴らの基地を造るにちがいない。それに奴らは人間やミュータントだけじゃなくてマシンミュータントも捕食する。地球はエサ場だな」
フランが様子を見ながら言う。
「エサになってたまるか」
リヨンがしれっと言う。
地図をのぞくリドリーと李紫明。
「智仁と一緒に来ている執事の黒沢の他にも変な男がいた」
三神があっと思い出す。
横須賀基地で見慣れない自衛官がいた。
「宮内庁がよこしたSPで不知火権兵衛。阿倍清明がいた頃から天皇家や将軍家の護衛をしていた不知火家の七十七代目当主だ」
朝倉が答える。
「都市伝説があって不知火家には天上人より剣をもらったらしいの。その日本刀は「羅刹」斬鉄剣という別名があり鉄を泥のように斬ったり強力な魔物を一撃で退治できるそうよ。そして錆びなかった」
三島がタブレットPCを出した。
「平安時代から錆びない剣なんてないわ」
大浦が首を振る。
「これも未来人にちがいない」
三神がつぶやく。
たぶん未来人と接触している。
「あの運搬船はどこから来ているの?」
翔太が疑問をぶつける。
「あのまま西に行けばフィリピン沖に出る。南シナ海へ続いている。補給路になっているのかもしれない」
アニータが答えた。
「ただ戦争にもなっていないのに攻撃はできないな」
三神が腕を組む。
米軍が参戦してきたら自衛隊も戦う事になるかもしれないが戦争は起きていない。
「ミサイル警報」
アレックスがだしぬけに叫ぶ。
「ミサイル?」
驚きの声を上げる沢本達。
大浦は呪文を唱えた。ミサイルは沢本が変身する「やしま」の手前で爆発した。
猛スピードで接近してくる大型運搬船。一隻だけでなく二十隻以上である。船橋の窓に赤く輝く二つの光が灯っている。
「こうなったら戦うしかない」
アレックス達は海に飛び込み緑の蛍光に包まれて巡視船に変身した。
再びミサイルが発射される。
ミサイルを発射するアレックス。三発のミサイルを撃墜する。
三島と大浦、フランは呪文を唱えた。
彼らの手前でミサイルは爆発した。
運搬船がスピードを落として甲板から砲台を出した。
三神が動いた。その動きは運搬船には見えなかった。気がついたら船体がえぐれ内部の機械が丸見えになっていた。
船首砲を撃つフランとアレックス。
グエンは二対の錨を出すと炎がまとわりついて運搬船のえぐれた船体を殴った。火柱が上がり炎上する三隻の運搬船。そして沈没。
アニータは二対の錨を出した。すると竜巻が出現した。
ミンシンは精神を振り向けた。すると一〇隻の運搬船に黒い球体がまとわりついて引っ張られ竜巻に巻き込まれた。
泡を投げる朝倉。
青い炎が出て焦げていく五隻の運搬船。
雷を落とすトム。
落雷で炎上する何隻かの運搬船。
機関砲を連射するリドリー、リヨン。
三神がスピードを落とすと五十隻を越える運搬船の残骸が浮いていた。
「戻った方がいいな」
周囲を見回す沢本。合図を送信した。
翔太と智仁は身を乗り出す。せつな脳裏にすすり泣くような声が聞こえたがここは海で三神達しかいない。
沢本達は小島を離れた。
すると三時の方向から海警船と漁船が数百隻接近してきた。
アニータは竜巻をいくつも出した。竜巻は正確に漁船軍団に突っ込んで巻き上げた。
李鵜、烏来、ペク、キムは機関砲を連射。漁船の部品が飛び散る。
ミサイルを発射するアレックス。
海警船は船内から二機の鉄の甘食を出した。その甘食から砲身が出てミサイルを撃墜した。
海警船の二対の錨を出して円状に描く構えをする。
「あの構えは」
李紫明が気づいた。
海警船が動いた。
李紫明はその錨をすべて弾いた。
機関砲を連射する海警船。
李鵜と烏来はジグザグに航行してかわす。
三神と海警船が同時に動いた。交差して振り向く三神。
海警船のエンジンが爆発して黒煙を上げて倒れた。
接近する三神達。
「こいつは捕虜だ」
アレックスは言った。
その頃。コロール消防署。
官舎の二階でアクバ署長とパラオ人消防士達が一〇枚の写真をのぞいた。
「この一〇人はカメレオンの下僕としてタトゥがつけられ操り人形として使役されていたけど解放した」
柴田が口を開いた。
「どうやって解放?」
パラオ人消防士が聞いた。
「水で浄化するようなイメージで水を浸み込ませる。祐樹が教えてくれた」
しゃらっと言う柴田。
ため息をつく高浜と下司、五十里。
「その子は三年前の事件で確か死んだのを聞きました。幽霊はここにはいません」
はっきり言うミャオ。
ムッとする柴田。
「解放できる術はあるといえます」
強い口調の柴田。
自分が助けた一〇人は市内の病院に収容されている。カメレオンの下僕からは解放されたのだ。
「新たな局面だな。一〇人は元に戻った」
高浜は写真を見ながら言った。
Tフォースコロール支部
医務室に眠っている男性がいた。
それを窓からのぞいている三神達。
「あれは誰?」
翔太は聞いた。
「王海凧(ワンハーベイ)。私の同僚」
李紫明が口を開く。
「タトゥは消したし、頭の変なチップは取った」
アレックスはチップを見せた。
「平賀博士とシド博士とアーランがもうすぐ着く。カメレオンの下僕にしてしまうプロセスが少しわかるかもしれない」
沢本が王海凧を見下ろす。
三神の電子脳にフッとあるイメージが入ってくる。それは王海凧の両目が赤く輝いているという映像だ。
翔太もフッと何かがよぎる。黒色の大きなシミがありそれが侵食していくという映像だ。
「私は彼を連れて帰りたい」
李紫明は重い口を開いた。
「それは無理だな。身体検査がすんでない」
アレックスが首を振る。
三神は部屋に入った。
「君も?」
翔太が驚く。
「俺はこのアザが気になっただけ」
三神は王海凧の袖をめくった。彼の腕には桜の花のような黒色のアザがあった。
どよめくグエン達。
「あのアザが何かわからなければ基地には入れる事はできない。ここは分駐基地だから置いておく事は可能だ」
声を低めるアレックス。
「嫌よ。私は連れて帰る」
李紫明は目を吊り上げる。
「どこへ?中国か?」
グエンがわりこむ。
「カナダに連れて行く。私の家族がいる」
李紫明がカナダの地図を出す。
「カメレオンの下僕を入れるのか」
フランはヒンディ語で詰め寄る。
「あのアザが何だかわからないと入国なんて無理だ」
イタリア語で反論するリヨン。
「カメレオンを入れるの?」
ロシア語で声を低めるリドリー。
ベトナム語やマレーシア語、インドネシア語、英語、中国語、韓国語が飛び交う。
「険悪な雰囲気」
朝倉がしれっと言う。
「彼女は彼の事が好きだったのですね」
黙っていた智仁がささやく。
「彼女はずっと探していたからね」
翔太が小声で言った。
その夜。「かが」ミーティングルーム。
部屋にアレックス、沢本、高浜が入った。部屋には佐久間、間村、室戸、霧島と三人の男女がいる。
「レナ議員、タリク議員、トリップ議員ですね」
高浜はあいさつする。
「東京消防庁で火災調査団が作られたそうですね。資料は見ました」
レナ議員は流暢な日本語で口を開いた。
「日本語も話せるのですね。火災調査団はまだ集まった段階です」
高浜は答えた。
「どっちも進展があったのを聞いた」
間村が話を切り替える。
「まず俺から。火災調査団はパラオ、ミクロネシア、ポリネシア政府から派遣された消防士五人と出動しました。五人とも金属生命体の腕や足が移植されていました。執刀医は神代信吾。ドクターKというあだ名がついている}
高浜は何枚かの写真を出した。パラオ人やミクロネシア人の写真と一緒に外科医の写真を出した。
「TVドラマで「ドクターX大門未知子」ってあったよな」
間村がふと思い出す。
「派遣の凄腕外科医が主人公でどんな無理難題な出術をも成功させてしまう。そんな女外科医のように成功させるからドクターK」
沢本はタブレットPCを見せた。TVドラマのホームページが出ている。
「五人とも柴田同様の症状が出ている。近いうちに融合の苦痛がきて金属生命体とのハーフになる」
はっきり指摘する高浜。
「新しい局面よね。報告書だと柴田消防士は水を芸術的に操れる。それを使って一〇人の下僕を解放した」
核心にせまる佐久間。
「イメージとしては祐樹がアドバイスをくれて・・浄化したと言ってもいい」
高浜はうーんとうなる。
「祐樹って確か三年前に家族と一緒に事件に巻き込まれて死んだよね。資料を見たけど彼女の症状はPTSDね」
「わかるのか?」
「二十ヵ所以上の消防署や出張所を異動なんてないし、他の消防士とコミュ二ケーションがとれず、弟や死人が観えて終末の音が聞こえるという幻聴や幻覚に悩む。彼女の症状は三年前の八王子魔物事件のトラウマが元になっている。統合失調症が幻覚や幻聴がともなうけど彼女のはPTSDね」
佐久間は資料を出した。
ため息をつく高浜。
「その様子だと柴田という消防士は他のメンバーとうまくやっていないみたいね」
佐久間は腕を組んだ。
うなづく高浜。
「彼女はPTSDを治さないと同行は無理ね。彼女には水を媒介してテレパス能力がある。それを応用もできる」
「そこまでお見通しか。沿岸警備隊チームはどうだ?」
高浜は核心にせまる。
「俺達はマラカウ島の建設現場まで近づいた。偵察していたらカメレオンの運搬船が襲ってきた。襲ってきた中に海警船がいて倒したら李紫明の同僚だった」
沢本は話を切り出し写真を見せた。
「名前は王海凧。彼女の相棒。沿岸警備隊チームが結成されてから南シナ海の異変が起こった。その直前に彼女と彼はサラヤゼル博士を連れて逃亡した。博士はカメレオンに殺害され彼は連れ去られた。南シナ海にある研究所でカメレオンの卵を植えつけられたと見ている」
アレックスは説明した。
「気になる事があるようね。彼には桜の花のような黒色のアザがある」
佐久間がわりこむ。
「それを見つけたのは三神と翔太だった」
「二人のは一種のテレパスよ。感知能力がある意味鋭いけど二人のは時空武器の影響ね」
佐久間が見抜いた。
「李紫明は彼を家族のいるカナダに連れて行きたいと言い出している。あのアザがわからならいうちに基地や他国へは連れて行くのは無理だ」
沢本は腕を組んだ。
「それは正解だな。俺達も入れるのはできない。米軍も断るだろうし、カナダ政府だって断るだろう」
推測する間村。
「だけど少しは進展していると言えるね。柴田という消防士は一〇人を下僕から解放し、李紫明の同僚が戻ってきた」
タリクはうーんとうなる。
「少なくともカメレオンの下僕にされても戻す方法がある」
トリップがうなづく。
「でも李紫明隊員の元同僚を入国させる事はできないわ」
レナが難しい顔をした。
その夜。コロール市内の病院。
女性看護師が懐中電灯を持ちながら見回りをしていた。彼女はリネン室に入り台車を押しながら進む。彼女はカルテを確認する。
大部屋に入るとそこに一〇人の患者が寝ている。
看護師は台車から注射器を出した。注射器には青色の液体が満たされている。彼女は笑みを浮かべ寝ている患者の開いた口に青い液体を垂らしていった。
翌日。
「え?助けた一〇人が死亡?」
コロール消防署で柴田達は声をそろえた。
「猛毒を口から入れる手口で死んでいた。青酸カリと見られる」
報告書を渡すアクバ署長。
「せっかく助けたのに誰が?」
時雨とモリ・キタナがわりこむ
「雇われた暗殺者が看護婦に化けてやったにちがいない」
ミャオが推測する。
「その後は警察にまかせよう。我々はパトロールだ」
高浜が言った。
Tフォース支部基地。
「やられたな。やったのはプロに違いない。中国政府に雇われたのかカメレオンか。どっちにしても操り人形を元に戻す事は可能な事はわかったんだ」
新聞を見てアレックスはつぶやいた。
「あの消防士だと問題がありすぎね。魔術でも支配を解く事は可能よ」
アニータがわりこむ。
大浦や三島もうなづく。
「俺達は南西諸島をパトロールに行く」
沢本は地図を出した。
「私達はミクロネシアの方に行く」
アニータが口をはさむ。
カーラ・マミヤと沢本、三神、大浦、三島、
朝倉、李鵜、烏来、キム、ペクは基地から離れた。
「あれ?李紫雨は?」
智仁が気づいた。
「あの人は王海凧の付き添いだよ」
翔太が答えた。
貝原は火災調査団との連絡役で基地に残っているし、オルビスや第五福竜丸も稲垣と椎野と一緒にいる。でもこの言い知れぬ不安はなんだろう。
自分達が向かうのは南西諸島である。
パラオ南西諸島とは、パラオ共和国に属する島々のうち、北緯五度から北緯二度の間に位置するアンガウル島以南の島々のことである。南西諸島は他のパラオの地域と文化が異なっており、言語もパラオ語よりも
チューク諸島やヤップ島の言語と近縁のソンソロール語やトビ語が使用されている。
ハトホベイ州はパラオ共和国最南端の州であり、南西諸島の南部に位置している。
人口は二〇〇〇年度には二十三人であったが、二〇〇五年には四四人になっている。そのほとんどがトビ島にある州都ハトホベイに住んでいる。
ハトホベイ州の他の島々は国境警備隊がいるほかは天候不順時の基地として使われる程度である。なお、トビ島、ヘレン環礁、トランジット環礁、およびソンソロール州各島がパラオの南西諸島である。
「・・・煙だ」
カーラ・マミヤが声を上げた。
三神達はスピード上げた。
「おかしいわ。トピ島にいる国境警備隊とソンロール島にある魔術師協会出張所と連絡が取れない」
カーラ・マミヤは困惑する。
トピ島の岸壁に接岸する沢本達。
岸壁に上陸する智仁と翔太。
三神達は元のミュータントに戻った。
カーラ・マミヤ達は村に入った。
「すいません失礼します」
智仁と翔太は家に入った。
智仁はつまづく。
「わあっ!!」
腰を抜かす智仁。
「死んでる」
翔太は後ずさる。
カーラ・マミヤが入ってくる。
家主であるパラオ人が死んでいた。頭や背中に穴が開いている。
家の外に出てくる翔太達。
「生体反応がない」
烏来が首を振る。
店から出てくる沢本達。
「みんな心臓と脳みそがない」
三神が声を上げた。
翔太は周囲を見回しながら歩いた。唐突につまづいて転ぶ。ふと脳裏に何かがよぎった。それは首筋にタトゥがある男女が村や島を襲っておいそそうに脳みそや心臓を食べているという映像だ。
「ここの人口は五〇人で島の西側に住んでいる。死んでいる人数は五〇人で二人のハンターも死んでいた」
三神が報告する。
資料は前日に読んだし、ソンロール島に四人が住んでいるがそこにも破壊の爪あとがあった。
「何にやられたと思う?」
キムは穴の開いた後頭部を見下ろす。
「たぶんカメレオンだ。カメレオンは本当に心臓と脳みそが大好物みたいだね」
冷静な翔太。
「現実になったな。奴らは本性を現した」
李鵜がつぶやく。
「証拠は撮った」
朝倉がデジカメを指さす。
その時である。急に気配が生まれたのは。
身構える三神達。
ヤシの木が揺れた。乱立するヤシの木の木陰から現われる男女。二人だけでなく首筋にタトゥがある者達が出てくる。操り人形の中国人ではなくカメレオンだ。
翔太はとっさに時空武器を長剣に変えて家から飛び出したカメレオン兵士の胸を突き刺した。
三神が動いた。その動きは智仁やカメレオン兵士達には見えなかった。
気がつくと数十人の兵士達がコアをえぐられて倒れていた。
李鵜、烏来、ペク、キムの両手が青く輝くと速射パンチを放ち、連続で蹴りを入れながら駆け抜ける。
呪文を唱える三島、大浦、カーラ・マミヤ。
黄金色の光線が兵士達の胸や頭を貫いた。
「あいつがリーダーだ」
翔太は教会の屋根にいた兵士を指さした。
沢本は片腕を機関砲に変形。そして連射。
教会の屋根にいた隊長らしい兵士はジャンプして地面に着地した。兵士は持っていた先端が三叉の槍を連続で突き出す。
沢本は日本刀で弾いてかわす。
朝倉は泡を投げた。
兵士は槍でなぎ払う。
三神は片腕を機関砲に変えて連射。
兵士は片腕を突き出す。すると青白いバリアで全部弾かれる。
三神が動いた。しかしバリアのせいで弾かれ壁にたたきつけられる。
朝倉の泡がバリアに張り付いた。せつな穴が開いた。
兵士が驚きの顔をする。
沢本は日本刀で兵士の胸をえぐり、コアをもぎ取った。
「作戦指示書だ」
くだんの兵士のポケットから紙を取る沢本。
「俺達を生け捕りにする事。橋頭堡を築くのに適した島の探索・・なんだこれ?」
朝倉が読み上げる。
「どこかに情報収集艦がいるに違いない」
李鵜が声を低める。
「佐久間さん達を連れてこないとダメね」
カーラ・マミヤが言う。
「オルビスが言うにはカメレオンの脳みそと記憶装置があればどこから来て何の任務で来ているのかわかるそうだ」
沢本はナイフを出すとくだんの兵士の頭に切れ目を入れて電子脳から記憶チップや電子回路を抜き出す。
顔が引きつる智仁と翔太。
「こいつは地図とタブレットPCだ」
朝倉は倒れている兵士から取った。
「情報将校もいると言う事はどこかに基地があるわね」
ペクが見回す。
「兵士なら身分証明を示すタグがあるけどそれもないか」
李鵜が別の兵士のポケットをまさぐる
「いずれ見つけて破壊する」
キムがうなづく。
「基地にテレポートだ」
沢本は言った。
四時間後。
Tフォースコロール支部基地に入る六人の男女。米軍兵士四人とアメリカ沿岸警備隊の隊員が二人である。クリスとアイリス、レジーとレイスが米軍関係でカプリカとニコラスが沿岸警備隊だ。
「ジョコンダとゼクって言う秘書はどうした?」
間村はドスの利いた声で聞いた。
「ハワイにいる」
「進展があったんだろ?だから来た」
しゃあしゃあと言うクリス。
「へえ~。ちゃんと傍受しているじゃん」
室戸はからかう。
「証拠を見せろ」
ニコラスがわりこむ。
「証拠?じゃあ見せてやる」
手招きする霧島。
彼らはエントランスに入りモルグ室に入った。そこは文字道理死体置き場である。
台のブルーシートをめくった。
「わあっ!!」
顔が引きつる六人。
そこに首筋にタトゥが入った男の死体と銀トレーにコアと電子脳が載せてある。
「パラオの南西諸島でトピ島が襲われた。そこにいた五人の警備隊員と二人のハンターと三十三人の住人はこいつらの食糧にされた」
間村は地図を指揮棒でさした。
「パラオ政府はアメリカ政府を訴えたいそうよ。時空侵略者を入れたのは米軍の実験のせいだってね」
佐久間が腕を組んだ。
「なんか勘違いしてないか?それは俺達のせいじゃないね。それに消防士と少年が二人いるハズだ。そいつらはどうした?」
「別棟にいる。よく知っているじゃん」
室戸がわざとらしく言う。
「六年前の事件で魔人の笹岡が時空の亀裂からやってきた。そして東日本大震災でサブ・サンが侵入した」
「何が言いたい?」
「時空侵略者を入れたな!!」
間村はビシッと指をさした。
「冗談でしょ。あの実験は前任者が勝手にやった事よ」
アイリスは声を荒げる。
「あら白状したわね。シャロンは二重スパイだったのよ。前任者のアクドグナガルとつながっていた。シャロンの代わりにあなた方がやってきたのは知っている」
佐久間は声を低める。
「俺達はシャロンの話は知らないし、何も聞かなかった」
ニコラスはしゃあしゃあと言う。
「お前らの目は節穴だって言っている」
霧島が指をさす。
「アメリカ沿岸警備隊はハワイだけでなく南太平洋も警備している。奴らに気づかないハズがない。それとサイバー攻撃でよく見えないなんて言わせないさ」
室戸が強い口調で言う。
「スレイグは七十歳のジジイだ。老眼だろうし耳も遠くなっているだろうし、ホワイトハウスにふんぞりかえっているだけだろうし本当にアメリカは終わったな」
意地悪く言う間村。
歯切りするクリス達。
「中国はカメレオンを使ってかならず米軍基地を襲ってくる。それがどこかは知らないが現実に島が襲われた。南シナ海では基地を造り実験施設で卵の孵化施設があるが地球の大気と環境が合わなくて子供が生まれない。だから奴らはマシンミュータントを拉致して実験して卵を植えつけ支配している。そして中国の船舶を使って融合して増えている。いずれはアメリカ国内でも巣穴がいっぱいできそうだな」
間村はロイター通信の架空記事を見せる
ムッとする六人。
「カメレオンの下僕にされた海警船が元に戻ったんだろ。それに女消防士は操り人形にされた連中を元に戻したが誰かに殺害された」
ニコラスがふと思い出す。
「王海凧だろ。グアムやハワイ基地に引き取ってくれないか?」
誘う間村。
「じゃあまず見せてよ」
アイリスが笑みを浮かべる。
李紫雨と王海凧が入ってくる。
アイリスとカプリカから笑みが消えた。王海凧の二の腕に黒色の大きなシミがある。
「基地に入れられないし入国もできない」
ニコラスがはっきり言う。
「なんで?」
間村が聞いた。
「あのシミは何だ?得体の知れないものを入れられない」
カプリカは目を吊り上げる。
「おまえらの実験のせいだろうが!!」
間村は一喝する。
「俺達のせいじゃない」
反論するクリス。
「おまえらに指示を出しているペンタゴンとポンコツ司令部が原因だろうが。ジョコンダはアクドグナガルの助手なのは知っている。国連総会でアメリカ代表は総スカンを食らうのは確実だし残念だ。報告はそれ以上にないしやる情報なんてないし、自分達で取れよ」
つっけんどうに言う間村。
「覚えてろよ!!」
クリスは捨てセリフを吐いて出て行く。
英語でののしりながらカプリカ達も出て行った。
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