第4話 遺言
今日、遺言を書いた。
短いけれど。
なに、すぐ死ぬわけじゃない。
なんとなく書きたくなったのだ。
葬式場でかけて欲しい音楽とか、写真はこれにして欲しいとか……。
書いていて気付いたことがいくつかあった。
一つは、自身の人生の目的だ。
わたしは人間を愛したいがために生きている。
変……だろうか。
あとは、死ぬ瞬間は最高だろうと思ったこと。
わたしは10歳の頃から死にたいと思い続けている。胸に秘めているだけで、毎日寝る前に思う。
「このまま死んでいけたらどれだけ幸せだろう。」
この疎ましい重力から開放されたら、どれほど身軽だろうか。そんなことを考えてしまう。
遺書を書くと、これまでの人生を振り返りたくなる。
思わず、ははは、と笑いたくなる。切なくて。 この満たされない人生が、いつか満たされると信じている人生が終わるなんて。
ところで、死ぬまでにしてみたいことがある。
女優である。
女優になってみたい。
昔、舞台に立っただけで、他に何も無いボンクラだけど、やってみたい。
その気持ちには嘘をつけない。
何の為に?
人々を明るく照らすために。それは自分自身にも。
今は生きるエネルギーも弱いわたしだけど、いつか必ず、舞台に立ってみせる。おばあちゃんになってもいい。
これだけは一生をかけてやりたいと思える。
何故だろう。そんなやった事もないのに。きっと理想だからだ。しかも掴めるかもしれないのだから。人間でいる限り可能性は0%じゃない。
わたしの今までの人生はこんなんだった。
いじめ、裏切り、絶望、挫折、後悔、泣かない日の方が少なかった。19歳まで世界が灰色に見えていた。
思えば、仕方がなかったことが多い気がする。だから仕方がない。過ぎたものはどうしようもない。
今は資格の勉強をしながらバイトを掛け持ちして、夢のために資金づくりしている。
世界が少しだけ明るく見える。
上手くいくだろうか。
不安がよぎる。
明日も笑ってバイトに行かなきゃ。
いつの日か愛する人々が笑って過ごせる世の中になりますように。
不器用な人間の本心からの遺言。
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