第43話 俺と「あの方」3
俺は、「あの方」が、俺を殺しに来ることも知らずに、趣味の貯金のために、銀行に、大好きなスライムを倒して稼いだお金を入金しに行っていた。もちろん装備は、レアなスライム装備一式である。
「ついに貯金100万ゴールドを達成したぞ! ハハハハハ!」
記憶を失う前の俺は、お金が大好きな守銭奴だったようだ。銀行から出てきた俺は、笑顔で自分の家に帰ろうと向かっていた。
「あれが最後の勇者か!? なんて、お金が好きで、いやらしいヤツなんだ!?」
「悪魔みたいな性格ですね。」
「あの方」とデビちゃんは、俺のことを悪く言う。
「あの全身スライム装備はなんだ!? あいつスライムが人間の世界に化けているんじゃないか?」
「あれは、スライム好きしか到達できないという、スライム討伐10万匹討伐、先着1名にプレゼントのレアなスライム装備一式です。」
おまけに、ファッションセンスもないと言う。
「まあ、魔界に攻めてくる気もないみたいだし、放っておくか?」
「もしかしたら、我々を油断させるためかもしれませんよ。」
「なに!? 面白そうだし、もう少し様子を見てみるか。」
「そうですね。」
ということで「あの方」とデビちゃんは、人間界上空でほうきに乗って、俺を監視することになった。
「スーデビ! あの男は何をやっているんだ?」
「スライムを倒してますね。」
「よっぽど、スライムが好きなんだな。」
「スーデビ! あの男は何をやっているんだ?」
「コウモリたちと遊んでますね。」
「やはり、あいつは魔界のものなんじゃないか?」
「スーデビ! あの男は何をやっているんだ?」
「カップラーメンを食べていますね。」
「お金があるなら、もっとマシなものを食べればいいのに。」
「スーデビ! あの男は何をやっているんだ?」
「掃除と洗濯をしてますね。」
「独り者か、かわいそうに。」
「スーデビ! あの男は何をやっているんだ?」
「昼寝ましたね。」
「私たちも寝るか。」
「あの方」は、人間は憎むべきもので、人間観察をするのは、初めてだった。人間の見るものは、全て新鮮で、俺が善意無過失の人間でもないことに、「あの方」は、俺に対して、親しみ、共感、同情、感心という、魔界では持ってはいけない感情が心の中に芽生え始めていた。
「んん?」
俺が草原で昼寝をしていると、やかましい声で目が覚めた。
「キャア!?」
空から悲鳴と共に「あの方」が落ちてきた。「あの方」は昼寝をしていたら、バランスを崩し、ほうきから落ちてきたのである。
「おんな!?」
俺は、とっさに空から落ちてくる女をキャッチしようとするが、間に合わなかった。
「キャア!?」
「あの方」は、ドサッと地面に叩きつけられた。打ち所が悪かったのだろう。全身血まみれで、全身の骨が折れていた。ほうきに乗って油断していたのだろう。それとも自信過剰で横暴な態度を取り過ぎた罰なのか?
「大丈夫か!?」
「あ、あ・・・。」
「直ぐに回復魔法をかけて・・・。」
俺が駆け付けた時には、手遅れだった。悪魔にダメージを与えることができる回復魔法をかけようとした時、「あの方」が赤い血の手で、俺の手を握り、回復魔法を遮る。そして、言葉ではなく、俺の心に問いかける。
「人間、私と契約しろ。そうすれば、私が助かる。」
「なんだこれは!? どこから声がするんだ!?」
俺は、心の中に声が聞こえることに驚く。
「ただでとは言わん。助けてもらったお礼に、おまえに私の力を分け与えよう。」
「そんなものはいらん! 俺が欲しいのは、お金だけだ!」
俺は、人助けはしてもいいが、お金しか興味が無かった。
「わかった! 金もやる!」
「いいだろう! それなら契約してやろう!」
俺は、お金に釣られて「あの方」と契約を交わしてしまったのだ。もちろん、「あの方」が魔族とは知らなかった。
「あれ? いない? 先に帰ったのかな?」
熟睡していた小悪魔のデビちゃんは、「あの方」がほうきから落ちて、生死の境を彷徨ったなど、知らなかったのである。デビちゃんは、ほうきに乗って、さっさと魔界に帰っていった。
つづく。
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