Chapter2 ─episode24

お湯が沸くまでの間ルカとふたりで他愛もない話に花を咲かせたあと、皆が集まるというラウンジにお菓子を運び込む。そこには形も大きさも異なる様々なテーブルが並べられており、ルカは次々とつくったものを並べていった。結果的には全く別のテーブルだったはずなのに、お菓子を置いただけで妙な統一感が出ていた。

最後に温かい紅茶がたっぷり入ったポットをテーブルに置けば、お茶会の準備は完了だ。

「このテーブルの高さとか形が違うのは、何か意味があるの?」

そのきらきらとした光景を眺めつつアリスが問うと、ルカは元気よく答えた。

「んーん、特に何も!」

「適当すぎない?」

彼は編み込みを片手でいじりながら、アリスのツッコミに声を上げて笑った。

「あはは、たしかにそうかもね。でもそれがオレたちの“お茶会”だからしょうがない!」

「ふふ……変なの。」

そう答えられては笑うしかない。アリスがつられて笑っていると、背後からこつこつと靴音が近づいてきた。振り返れば、そこにはクロムが感心した様子で立っていた。

「お、できあがったか。」

「あ、クロム!うんうん、アリスが手伝ってくれたおかげで早く終わったし、いつもよりずっとおいしくなってるよ!」

「ほーお?そりゃ楽しみだ。」

クロムはにやりと笑うと、そこで先ほどからずっとアリスたちから死角になっている壁際に貼り付いて居心地悪そうにしていた人物に視線と言葉を投げかけた。

「お前だってそうだろ?ノア。」

その名にアリスとルカは揃って目を丸くする。当の本人はぎくりと肩を震わして、それから盛大にクロムを睨みつけた。余計なことを、とでも言いたいところだったのだろう。しかし自分よりも早くにそこにいたくせに、さも当然のように最後に加わるなんてことは早々クロムが見逃すわけもない。

しばらく無言の応酬を交わしていたクロムとノアだったが、結局は最後に向こうが折れた。嫌そうに出てきたノアは、むすっとした顔のまま先ほどの言葉に応えた。

「……僕は別に。ルカさんの腕なら不味くならないわけがないですし。」

ルカはその言葉にばっと駆け出してノアに飛びつく。ノアがかわす間もなかった。

「ノアー!嬉しいよー!」

「ぐっ……!?」

くぐもった声を上げたノアだが、すぐに立ち直るとぎゅっと締め付けてくるルカの腕をばしばしと叩いた。彼らの身長差では、勢い余ってルカがノアを絞め殺してしまうかもしれない。

「あっつくるしいんですよ、離れてくれませんか!?」

「えっ、だってノアがそんなこと言ってくれるなんて滅多にないし……。」

「あなたの腕力だとこっちの首絞まって死ぬっつってんですよ!!」

絶妙なツッコミとボケにアリスは堪らず笑ってしまう。彼女の隣に立ったクロムは、さりげなく紅茶を一杯カップに注いで口をつけそのやりとりを眺める。

「あ、抜け駆けは良くないわよクロム。皆が揃うの待たないの?」

アリスがやんわり咎めると、彼は器用に片目を閉じて悪戯っぽく笑った。

「ちょいと喉が乾いちまってな。それに、こんなことで目くじらを立てるやつなんかここにいないさ。」

「そこ、ばっちりバレてますから!!あとで覚えといてくださいよ!!」

すかさずとんできたノアの非難の声にクロムを見れば、彼は無言で肩をすくめて残りの紅茶をあおっていた。

そうこうしているうちに、残りのメンバーたちも連れだってやってきた。先頭をふらふらと少々おぼつかない足取りで歩くレーネは、大きな欠伸をした。隠そうともしないあたり、既に堂に入っている。

「ふぁぁ……廊下の端まで声が聞こえてきたよ。ほんと、キミたちは元気だよね。」

「アンタが不規則なだけだろ、レーネ。」

その言葉には、レーネの隣にいたフランチェスカが呆れた眼差しを向ける。彼女の横ではミネッタがくすくすと笑っていた。

「うふふ、ほんと猫みたいよね。」

「ったく……院内の廊下で寝こけるのは勘弁してほしいよ。」

「気分だったんだ、仕方がないでしょ?」

悪びれもせずにさらりと返してきた青年にはもはや返す言葉もなかったらしい。フランチェスカは盛大なため息をつくと、それ以上は何も言わなかった。

皆がめいめいにカップを手に取る。それに紅茶が注がれる。気分で砂糖やミルク、レモン汁を混ぜる者もいたが、多くはストレートだった。各々、定位置と思われる場所に落ち着くと、クロムは一同をぐるりと見渡した。

「さて……皆揃ったな。」

彼はそこでふっと笑むと、軽くカップを掲げた。それに合わせて、他のメンバーも同じようにカップをラフに持ち上げて乾杯の仕草をする。アリスが戸惑っていると、ミネッタがこれがお決まりなのだと教えてくれた。

クロムはひとくち紅茶を飲むと、よく通る声で宣言した。

「それじゃあ、“お茶会”を始めよう。今日は話すことが山ほどあるから、覚悟しておけよ?」

その言葉に、めんどくさ、と約一名ほどが小さくぼやいたことは言うまでもない。

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