Chapter2-episode2



気がつけば、アリスは〈ウィスタリア〉の店内に立っていた。

コーヒーの香りかしみこんだ店内ではいつも通り常連客が思い思いに過ごしていて、カウンターを見ればクラウスとニコルが談笑している。

「……おじ…さん…?ニコル、さん…?」

呆然と名前を呟いたアリスに、二人がこちらを振り向く。クラウスは笑顔で、ニコルは軽く手を挙げて、アリスを迎えてくれる。アリスはこみ上げてくる涙を拭いもせずに二人のもとへ駆けた。そして、子供のように大きな声で泣いた。

「よかった……よかったよぉ……。あれは、夢だったんだね……。」

クラウスは大きくて優しい手で、小さい頃からそうしてくれたように頭を撫でてくれた。ニコルも、優しい眼差しでアリスを見ている。

「……怖い夢だったの……。みんな、死んじゃう夢……このお店もなくなって、みんないなくなっちゃう夢……。」

はらはらと泣く彼女を、二人はただ黙って見ている。

そこでようやく、アリスは違和感に気がついた。

「おじさん……?ニコルさんも……どうして、何も言ってくれないの………?」

顔を上げると、そこには相変わらず優しい笑顔を浮かべた二人。だが、頑なに口を開こうとはしない。

気がつけば、世界から音が消えていた。皆、楽しげに会話をしたり、笑い合ったりしているのに、そのどれひとつとして声が聞こえない。

まるで、アリスだけが世界からはじき出されたようだった。

「!」

そして、それに気がつくと同時に、突然店内が炎に包まれた。見慣れた光景が、赤く染まっていく。しかし、それでもクラウスたちは優しい笑顔のまま、アリスを見ている。

たまらず手を伸ばす。すぐ近くにいるはずなのに、アリスの指先は、彼らに届かない。

「だめだよ……逃げて!!死んじゃうよ!!」

声を上げても、届かない。

「おじさん!!ニコルさん!!みんな!!お願いだから、逃げて!!」

炎がすべてを包み込んでいく。クラウスの服の裾に、ニコルの腕に、炎が絡みつく。

だめだ、そんな─────

「やめて!!いや……嫌!!」

懸命に伸ばした手も声も、炎に遮られて。

代わりに、そこにはいない誰かに思いっきり手を掴まれて、アリスは目を覚ました。


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