Chapter1-episode9
少年は立ち上がると、まっすぐにアリスを見て丁寧に頭を下げた。随分と礼儀正しい子だった。
「こちらこそ、ごめんなさい」
「それはいいわ。私も注意散漫だったし、おあいこってことにしましょう?」
アリスは笑いかけながら言って、ふとあることに気が付いた。
「それより……君、お父さんとお母さんは?」
ざっと店内を見渡しても、それらしい人の姿はない。アリスの質問に、少年はしゅん、と肩を落とした。
「……さがしてるけど、みつからないの。」
彼は不安そうな表情でうつむく。どうしたものかとアリスが頭を悩ませていると、売り場にパンを並べ終えたアンガスが戻ってきた。
「お、なんだ?こんなところにしゃがみこんで」
「あ、アンガス!この子、迷子になっちゃったみたいで……」
アンガスはその言葉を聞くと、真剣な表情になった。
「それは心配だね……」
彼はそうつぶやくと、少年の前に膝を折って優しい笑みを浮かべて見せた。
「ねえ坊や。どこから来たんだい?おうちのあるところとか、わかるかな?」
少年は、泣きそうな顔でふるふると首を横に振った。
「きょうは、おでかけしてきたの……」
服の端をぎゅっと握りしめた姿が放っておけなくて、アリスはさっと自分の端末で時間を確認した。これくらいなら、手伝うくらいはしてあげられるかもしれない。
「それじゃあ、私も一緒に君のお父さんとお母さんを捜してあげるよ」
思わぬ申し出だったのだろう。少年はきれいな目を大きく見開いて顔を上げた。
「いいの!?」
アリスは彼の頭をなでると、笑みを浮かべた。
「うん、でも、そんなに長くは付き合ってあげられないから、このお店の周りをぐるっと回ってくるくらいしかできないよ?」
「それでもいいよ!ありがとう、おねちゃん!」
少年は満面の笑みで言った。ようやく笑った顔が見られてほっとしていると、隣で見ていたアンガスが肩をつついて耳打ちしてきた。
「……アリス、いいのかい?君だって都合があるだろ?」
「乗り掛かった舟だもの。それに、放っておけないわ。私はこの子を連れてこの辺りを歩いてくるけど、その間にアンガスは迷子届を出しておいてほしいの。見つからない可能性があるし」
アリスの言葉に、アンガスはうなずいた。
「了解。〈ウィスタリア〉のほうに間に合うように帰っておいでよ。見つからなかったら、あとはうちに任せておいて」
アリスはうなずくと、ふと少年に視線を戻した。そういえば、まだ名前を聞いていなかった。
「君、名前は?私はアリスっていうの」
少年は、白亜の瞳で真正面からアリスを見つめると、
「ぼくは――アインだよ」
笑顔でそう答えた。
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