Chapter 1―episode4

厨房でせわしなく動き回り、料理や皿洗いなどを円滑に進むようにしているのは、身の丈の半分はありそうなコック帽と真っ白なソムリエ衣装をまとったずんぐりとした体形のアンドロイドだ。背丈としては、帽子を含めなければ大体アリスの肩ほどしかない。このタイプはその見た目のまま〈ソムリエ〉という名前で呼ばれており、カフェやレストランなどではごく当たり前に見かける。

その特徴は、なんといっても一度教え込んだレシピを自力で完璧に再現できるということだろう。特に食材を切るということに関しては人間がやるよりも美しい切り口になる。味付けのほうも人に食べてもらう分には遜色ないのだが、何分計量どおりなので「深み」「コク」といったような部分は少し劣る。ゆえに、〈ウィスタリア〉では、最終的な仕上げは人間が―大抵はアリスかクラウスが―やっている。

アリスが厨房に入ると、全部で三体いる〈ソムリエ〉のうち一番手前で野菜を切る作業をしていたものが声をかけてきた。ジャック・オウ・ランタンと名がついているうちの、ジャックだった。ちなみに、彼らの見分け方は各々がつけているスカーフの色である。

「オ、アリス。ドウシタ?ナンカ足リナイ物デモアッタカ?」

ぎしぎしという機械音で若干聞き取りにくい音声だ。もともと最新型の〈ソムリエ〉よりも数世代前のものを修理しながら使っているため、致し方ない。それに、もう一緒に働き始めて随分経つ家族同然の存在なのだ。多少聞き取りにくくても何を言いたいのかはわかる。

「ん、そういうわけじゃないの。昨日作ってた試作品の味見をロトとニコルさんにもしてもらおうと思って取りに来たのよ」

アリスが言うと、ジャックはぎししっと声を上げた。

「アァ、アレカ!ウマソウダッタナ!オレタチモ早ク新シイレシピを覚エタクテウズウズシテイルンダゾ!」

「ふふっ、そっか。じゃあ、なおさらロトたちには腰を据えて批評してもらわないとね!」

「ウム!メニューニ加ワルノヲ楽シミニシテイルゾ!」

いかつい顔立ちの〈ソムリエ〉は、そう言って自分の仕事に戻っていった。

その姿を横目にしながら、アリスは冷蔵庫の大きな扉を開けた。さまざまな食材が並ぶ中、昨日作っておいたキッシュの皿を取り出す。それを温めなおしてトレイに乗せると、彼女は店のほうに戻った。

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