第3話 予告

青空の中にどす黒いものが現れた。それも大きい。

「またお前か」

唾を吐き捨て、睨む。

「はっはっはっ。そう睨むな。今日はお前にチャンスをやろうと思ってな」

高慢に嘴の先は上を向きながら、右目だけこちらを凝視して、要は、見下してどす黒いカラスが高笑いをした。

「明日またお前のツレが死ぬ」

「どういう…ことだ?」

衝撃だった。カラスからそう言われたのは初めての事だった。そう思った。前も前もその前もカラスは予告などしなかったはずだったのだ。

「なあに簡単だ。彼女の働いている銀行に強盗がやってくる。その悪漢は大変野蛮なやつでな、狂ってる。その狂ったやつにお前のツレは殺られるんだよ。簡単だなあ。弱肉強食なんだよ。世の中は。はっはっはっ」

「ふざけるな!」

僕の動悸は激しくなって息切れを起こし始めた。睨む目は恐らくより鋭くなっていただろう。

「今度こそ死なせはしない。必ず生きて彼女を助ける」


目が覚めた。平日に休みを貰っていたのでいつもよりも遅く起きてしまった。

急いでリビングに向かうと、「今日は早く出るね、ご飯用意してるから食べてね。お先に」と書き置きが置いてあった。

僕はしまった、と動揺を隠せない。あれは夢なんかじゃない。幻なんかじゃない。暗示なんかでもない。現実なのだ、天啓なのだ。

僕はバットをもって急いで銀行に向かった、朝の10時はとうに回っていた。

いつもより銀行に行く道が遠く感じる。走れば10分もかからない道のりが20分にも30分にも感じられた。

いつもよりカラスが多かった。ラーメン屋、ケーキ屋、ブランドショップ、病院、薬局、アパートそのどれもの上、屋根の上、電信柱の上、道路脇の並木の上にはたくさんのカラスでひしめき合ってかあかあうるさかった。ぼくは力の限りに走り続けた。



銀行に着いた時、銃声が辺りに轟いた。僕は急いで銀行に入った。

「騒ぐな!騒ぐやつは殺…」

「お前かああああ!」


僕はあらん限りの力でバットを振り下ろした。強盗は力なくバタッと倒れた。誰かが「警察に!」と叫んだ。僕は息が切れていた。彼女はすぐに駆け寄ってきて、「どうしたの…」と呟いた。

「怖かった…」

「大丈夫…僕が守る…」

「うん…ありがとう。もう何回も助けられた気がしたわ」

「初めてだよ…助けられたのは」


その後、僕は警察に捕まった。人を殺してしまったのだから仕方ない。


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