第壹話 玖節


 どんどんひゃらら。ぴーひゃらら。

 どんどんひゃらら。ぴーひゃらら。


 笛と太鼓が鳴り響く、こちら東京外れ町。

 だらだら坂を下った先の、林に埋もれた天神様。


 本日この日この夕べ。

 震災以来のご縁日。

 実に八ヶ月ぶり以上になるハレの日で。


 いつもは閑静な天神様も、この日ばかりは大賑わい。

 あちらにバイオリンを弾き語る演歌師が、こちらを見れば覗きからくりに蓄音機屋。さらに露店、屋台も大盛況。ぶどう餅に蜜パン、金太郎飴の食べ物から、メンコや枝折りのおもちゃまで。


 あちらもこちらも人と夜店で埋め尽くされる賑やかさ。


 そんな天神様の門の脇。陰に隠れるようにひっそり並んだ露店が一つ。

 地面に茣蓙引き、広げられているのはふる蝙蝠傘こうもり。そこには様々なお面がピンで止められておりまして。


 ですが、道行く人の視線を奪うのは、売り物よりもそれを売る売り子の方で。


 茣蓙の上に並ぶは男女が一組。さらに腕の中には赤ん坊。


 一家三人、それはそれは幸せそうな表情で、ご縁日を訪れた人々に笑顔を振りまいていたのでございました。

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