彼女の理想
「……」
「あんま、落ち込むなって。何もなくて良かったじゃないか」
「そうだけどさー……」
夜中の1時過ぎ。
おれ達は神社から少し離れたところにあるファミレスにやってきていた。
とりあえず、酔った遥香をどうにかしようと思い、家に連れて帰ろうとしたのだが、おれの手を振り払い、遥香はフラフラと何処かに行ってしまい、遥香を追いかけると、何故かファミレスに入っており、バニラアイスをばくばくと食べていた。
仕方なく、おれもファミレスに入り、またどこかに行かないか見張っていたのだが、アイスを食べ終えた瞬間、がくっと頭を下に向けたかと思うと、次の瞬間には頭を上げ、周りを確認した後、小さく「ごめん……」と謝ってきたのだ。どうやら、元に戻ったらしい。アイスよ、ありがとう。
「何も考えずに飲むんじゃなかった……」
はぁと盛大なため息を吐きながら、遥香は手で目元を抑える。
「まぁ、まさか酒粕使ってるなんて、思わないもんな。次から気をつければいいさ」
「うん、そうする……」
終始、落ち込んだ様子の遥香。
「迷惑かけてごめん……」
「別にいいって。それにそこまで迷惑ってほどのこともなかったし。それより、早く神社に行こうぜ?」
「え、あ、うん……その、できればもう少しこうしていたいかな……」
少し恥ずかしそうに遥香は言う。
「え?」
「その、こうやって二人で話すのも最近なかったじゃん?だから、こういう時間もいいかなって」
「確かにそうだな……じゃあ、何か頼まないか?話すのに、何もないのは辛いだろ?」
おれはそう言って、メニュー表を遥香に渡す。
「それもそうね。それじゃ、ドリンクバーとポテトにしようかしら」
「はいよ。おれはドリンクバーだけでいいや」
というわけで、店員さんを呼び、メニューを注文する。
そして、ドリンクバーで適当なドリンクを選んだ後、再び席に戻ってくる。
「はい、紅茶」
言って、遥香の座っているテーブルの上にカップを置く。
「あ、ありがとう。思ったんだけど、こんな時間なのにそこそこ人いるのね」
「だな」
周りを見渡すと、チラホラとおれ達と同じようなカップルや若者の集団が座っていた。
みんな、年越しの瞬間を迎えてテンションが上がっているようだ。
「それより、いよいよ受験生の時期が始まるのね」
おれがコーヒーの入ったカップに口を付けた瞬間、遥香はそう言った。
「そうだな。でも遥香ならどこの大学受けても大丈夫だろ」
「どこでもってわけじゃないと思うけどね。それより、あたしはその先が少し心配なの」
「その先?」
「うん。あたしが目指す理想になれるのかなって……」
少しだけ、影を落としながら遥香は言った。
遥香の目指す理想……
それは彼女が小学校3年生の時に出会った先生から全てが始まった。
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