15章

火照った

12月31日。大晦日。


「じゃあ、行くか」


「うん」


おれと遥香は揃って玄関で靴を履き、家を出る。

今は夜の11時40分。もうすぐ新年を迎える。ということで、二人で初詣に行くのだ。

何より、恋人同士で迎える新年。不思議とテンションが上がってしまう。


「朝帰りになっても気にしないからね……」


すると、家を出る間際にリビングにいたはずの昌樹さんが小声でそう言ってきた。

おそらく、遥香もそれを聞いていたようで、玄関を思いっきり、力の限り、閉めていた。そして、ドア越しに聞こえてくる絶叫。何が起きたかは想像したくなかった。


「もう一年も終わりかー……」


「色々あったわね」


神社までの道を歩きながら、遥香とそんな会話を繰り広げる。


「そうだな」


おれはそう言った後、遥香の手を握った。


「……!」


遥香は突然のおれの行動に驚いたようで、少しビクッと身体を震わせたが、すぐにおれの手を握り返してきてくれた。

あったかい。繋いでる手も心も。

おれ達は手を繋いだまま、神社へ向かうのだった。










♦︎













「結構賑わってるな」


「だね」


まもなく0時になる頃。おれ達は神社へと辿り着いた。

すでに神社には大量に人が来ており、かなりごった返していた。出店もたくさん来ており、どこも行列ができている。

去年来た時にも混んでいたが、今回はそれ以上だな……

まぁ当たり前といえば、当たり前なのだが。


「とりあえず、奥に行くか……」


「うん……」


おれと遥香は繋いでいた手に少し力を入れ、奥へと進むことにした。


「あ、よかったらこれどうぞ」


と、奥へと進もうとしたその時、近くにいた巫女さんらしき人に紙コップに入った何かを手渡された。


「あ、どうも……」


おれはそれを反射的に受け取った。


受け取ったはいいが、なんだこれ。飲み物か?

ほんのりあったかいし。

というか、こんな大量の人がいる中に向かって行くのに、これを持っていくのは危険だな……


おれは紙コップに鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。

ん、これ、甘酒か……

しかし、これ、酒粕使ってるのか、酒の匂いするな……

全く、未成年にこんなもの渡すなよ。

それより、遥香は大丈夫だろうか。

まぁ匂いを嗅げば、酒が入っているとわかるし、飲んではいないだろうな。


そして、おれは隣にいる遥香に目を向けた。


「……ひっく……」


口元からほんのり漂ってくる酒の香り。

すでに出来上がっていた。


「は、遥香……?」


「なーにぃ、きょーすけー」


顔をフニャフニャと歪ませながら、やけに上機嫌でおれの名前を呼ぶ。


「飲んだんだな……?」


恐る恐る尋ねてみる。


「飲んでないわよー、キャハハ!」


笑い声を上げながら、おれの持っていた紙コップを奪い取ってくる。


「お、おい!」


慌てて、止めようとするが既に遅し。

遥香はそのまま、グビッと甘酒を飲んでしまった。


「んー、美味しい……」


遥香は飲み干した紙コップを口から離し、口元を手の甲で拭う。


「なんか身体が熱くなってきちゃった……」


遥香は突然そう言うと、服を脱ぎ出そうとする。


「わっ!何やってんだ!」


おれは慌てて、遥香の手を抑えるとそのまま神社から一旦、出ることにした。


なんだって、こんな事に……!

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