そういうとき。
間も無く、日付が変わる頃、おれと遥香は揃って家へと帰る道を歩いていた。
昌樹さんは優さんと、二人で飲みに行くと言っており、この場にはいない。
「すっかり遅くなっちゃったね」
「そうだな。まぁでも成功して良かったよ」
忙しかったし、大変だったけど、やっぱり誰かに美味しいって言ってもらえるのは嬉しいし、作った甲斐があると心底思えた。
「そうね、でも少し残念だったかな」
「え……なんで……?」
少しトーンダウンした様子で遥香がそう言ったので、おれは思わず、歩くのをやめて少し不安になりながら尋ねた。
何が残念だったんだろうか……
「いや、だってせっかく恋人になってから初めてのクリスマスだったからさ……まぁ二人きりで過ごせたらなぁとかって思ったりもしてて……」
「遥香……」
遥香のその言葉に、おれは後悔の念にかられた。
そうだよな。おれ達は恋人なんだ……
優先すべきは遥香だったんじゃないか……?
「ってごめんね、こんなこと言って。でも、いつも誰かのために動いてくれるのが、京介だもんね。あたしはそういうところを好きに……」
そこまで言ったところで、遥香は言うのをやめてしまった。
「お、おい……最後まで言ってくれよ……」
言いたいことはわかったけど、どうせなら最後まで遥香の口から言ってほしい。
つい、そう思ってしまう。
「こ、これはまた今度ね!」
照れ隠しなのか、遥香はそう言ってから、駆け足で先に行ってしまった。
あっという間にその後ろ姿が小さくなってしまう。
「いやー、青春だね……」
おれは遥香を追いかけようとした、その時、囁くように後ろから聞こえてきた声に咄嗟に後ろを振り向く。そこには満足げに頷く昌樹さんがいた。
「な、なんでここに……?優さんと飲みに行ったんじゃ……?」
「ははっ。若い二人の行く末を見たくてね」
言いながら、昌樹さんはおれの肩をガシッと掴んできた。その力強さにおれは少し身構えてしまう。
「そういう時が来たら……教えてくれよ……」
そう言って、昌樹さんはハッハッハと高笑いしながら、踵を返して、夜の街に消えていった。
そういう時って、なんだよ……
一人残されたおれはそう思わざるを得なかった。
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