14章

トリックオアトリート

「今日はハロウィン!街中の至る所も大変賑わっています!」


テレビからレポーターの声が聞こえてくる。

画面には大勢の人が仮装をしており、街中を行き交っている映像が映し出されていた。


「全く何が楽しいんだか……」


それを見ながら、おれは呆れたようにため息を吐きながら、言った。


「まぁ本人達が楽しければ、それでいいんじゃない?」


「いや、確かにそれはそうなんだけど、その過程でハメを外してバカ騒ぎして、逮捕される輩もいるんだぞ?全く何やってんだって思わないか?」


「まぁ確かにね。それはやりすぎだと思う」


「だろ?ところでさっきから、あなたは何をしてらっしゃるんで?」


「へ?」


おれの隣で遥香はいそいそと仮装の準備をしていた。耳に尻尾、見た感じ、これはどうやら黒猫の仮装のようだ。よく似合っている。じゃなくて。


「は、ハロウィンだからクラスの子と少し仮装して遊んでくるのよ……それより」


遥香は少しの間の後、こちらにトコトコとやってきた。そして。


「トリックオアトリート……お菓子をくれなきゃイタズラする……にゃん……」


セリフと共にネコの手を真似て、手招きポーズ。少し恥ずかしいのか、うっすら顔を赤らめている。


「……」


かわ……

やば、死ぬ……

何、この生き物……


「って聞いてる……にゃん?」


遥香はおれが固まってしたのを見て、肩を叩いてくる。


「イタ……ちょっと待っててくれ」


おれは素早く踵を返すと、台所の棚を漁りだした。

思わず、イタズラしてくれって言いそうになったぞ。なんなの、あの子。かわい過ぎて、おれのこと殺す気?

てか、語尾ににゃんを付けるところがまた……

あー、もう今死んでも本望だわ。


「お待たせ、ほら」


「あ、ありがとう……って!これ、京介がたまにしか買わないベルギーの高級チョコじゃない!?」


ネコ遥香は盛大に驚いている。


「ああ、気にせず、受け取ってくれ」


高級チョコがなんだってんだ。

それに匹敵するくらい良いもの見させていただきました……って、おれ、キャラ変わってきたな。まぁいいか。かわいいは正義だ。


「そ、そういうなら受け取るけど……」


ネコ遥香は恐る恐るチョコを受け取ると、ゆっくりとそれを頬張り始めた。

途端にその顔が幸せそうに綻んでいく。


案外、ハロウィンも悪くないかもな……

ネコ遥香の影響で、そんなことを思ってしまうおれなのであった。

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