助っ人
土曜日の朝8時。
「よし」
おれは気合いを入れてから、玄関へと向かい、靴を履く。
今日はいよいよ初バイト初日だ。
開店は10時からということで、9時には来ておくように言われていたが、そわそわして昨日もベッドに入って、すぐには寝れず、朝も早くから目が覚めてしまって、これならいっそのこと行ってしまおうと思ったわけである。
「いってらっさい……」
その声がする方に振り向くと、いつのまにか階段の真ん中らへんまで降りていた遥香が眠そうに目をこすりながら、おれに向かって手を振りながら、そう言ってくれた。
「ありがとうな。じゃあ、行ってくるよ」
そう言って、おれは玄関を開けて出て行った。
まさか朝から遥香に会えると思ってなかったので、少し嬉しい。
家から喫茶店までは電車で一駅の距離だった。
おれは最寄駅に向かい、上りの電車に乗り、そして駅に着いてから歩くこと10分。
喫茶店の前には優さんがいた。
「あ、おはようございます」
おれが声をかけると、優さんはこちらに振り向き、驚いたような顔をした。
「あれ、ずいぶん早いけど、もう来たの?」
「はい。なんかそわそわしちゃって……」
「はは、そっか。それじゃあ、コーヒーでも淹れるから少しリラックスしなよ。何せ、この後は休みが取れないくらい忙しくなるからね」
優さんは穏やかな表情でそう言って、店の鍵を開け、中に入っていった。おれもそれに続き、中へと入る。
「そういえば、今日は優さんと2人で店を回すんですか?」
カウンター席に座り、キッチンでコーヒーを淹れてくれている優さんに話しかける。
「平日ならそれでもなんとかなるけど、休日だと人手不足で回りきらないから、今日は僕の妻ともう1人助っ人が来るよ」
「助っ人?」
「うん。でも、時間通り来てくれるか怪しいけどね」
優さんはははっと笑いながら、苦笑いを浮かべ、コーヒーをおれの前に置いてくれる。
助っ人……
一体、誰なのか。すごく気になるな。
それにしても、時間通りに来るか分からないって、時間にはルーズってことなのか……?
そんな中、いよいよ開店10分前へと迫った中、おれはキッチンの中にいた。が、必要もないのに、布巾で皿やカウンターを拭いたりと、この上なく、そわそわとしていた。
「……」
い、今までにないくらい緊張するな……
これに匹敵にするのは遥香に告白した時くらいか……
いや、でもあれは穂花や親父の後押しがあったから、そこまで緊張しなかったな。じゃあ、これに匹敵するのって一体なんだろうか。
そんなことを思っていた時。
カラン。と入り口が開く音がした。
「え……?」
入ってきたのは女性だった。
見た目からして20代前半だろうか。
ショートカットで、クール系美人といった感じで、Tシャツにジーパンという格好にリュックを背負っており、店内をキョロキョロと見渡している。
おいおい、まだ開店前なのに、もう入ってきた……!?
でも、外の看板には準備中って書いてあったのに……!
おれが1人で慌てふためいていると、店内のテーブルを布巾で拭いていた優さんが声をかけた。
「おお、ギリギリセーフってところか」
「なんとかね……」
苦笑いを浮かべながら、女性はこちらの方をチラッと見た。
「ああ、京介君、紹介するよ。義理の妹の久納 皐月だ。僕の妻の妹ってことだから、変な想像はしないでくれよ」
言って、優さんは笑う。
「義理の妹……?あ、もしかして助っ人って言ってた……?」
「そうそう」
「皐月です。よろしくね」
そう言って、女性は頭をぺこりと下げた。
反射的におれも頭を下げる。
「とにかく、早く着替えてくれ。もうそろそろだからな」
「おっけー」
軽く返事をしながら、女性は店内の奥にある事務所へと消えていった。
助っ人って優さんの身内だったのか……
それにしても、落ち着いて見てみると結構な美人だったな……
遥香とは違うタイプっていうか。
って何考えてんだよ。もう開店の時間になる。気合い入れてやるか。
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