埋め合わせの方法

「一時はどうなるかと思ったけど、盛り上がって良かったね!」


「まぁそうだな……」


「……」


20分後。おれ達は水族館の中に戻り、適当にフラフラと歩いていた。


あの後、シャチのカルーは華麗な演技をいくつか見せてくれて、ステージは大盛り上がりだった。

しかし、ショーの終わり間際にトレーナーのお姉さんが「教えたことないワザを何故できるのかしら……」と、ぼそっと言っていたのが、おれはずっと耳に残っていた。カルー恐るべし。その原因は、もしかしたらおれにあるのかもしれない。

まぁ何にせよ、無事に終わって良かった。


「それにしても、まさか指名されるなんて思ってなかったよ」


歩きながら、その時の出来事を思い出しているのか、穂花が苦笑いを浮かべる。

ショーが始まってすぐ、トレーナーのお姉さんがカルーと遊んでくれる人を立候補で募集したらしく、冗談半分で穂花が手を挙げると、まさかの選ばれたそうだ。ちなみに遥香は巻き込まれた感じで、無理無理と手を横に振ったが、残念ながらお姉さんには通じなかったらしい。


「小さい子も沢山いたから、次からそういうのは譲ってくれよ……?」


「そうだね……」


でも、まぁ穂花を選んだのはトレーナーのお姉さんだし、仕方ないのかもしれないけど。


「……」


そんな中、遥香はずっと黙りっぱなしだった。それが何故なのか、原因はわかる。


「あとでペンギンのぬいぐるみ買うからさ……」


隣で遥香にしか聞こえないように囁く。

途端に遥香はびくっと身体を震わせ、こちらをジッと見てくる。


「べ、別にそんなのほしくないし……それより、なんか埋め合わせしなさいよ……」


「う、埋め合わせ……?」


なんだって、おれがそんなことを……

と思いつつも、口には出さない。


「2人して何喋ってるの?」


その時、穂花がおれ達の様子に気付いたようで話しかけてくる。


「そろそろ、お腹空いたわねって話してたの」


あっけらかんと言う遥香。


「あ、そういえばそうだね。さっき、ポテト食べたけど足りなかったし……」


少し照れくさそうに笑う穂花。


「じゃあ、行きましょうか」


そうして、レストランのある場所までスタスタ歩いていく。

さ、さっきからの変わり身がすごすぎる……

というか、埋め合わせって何すりゃいいんだろ……

それに2人きりで行けばいいのか、それとも穂花を含めた3人でなのか、どっちが正解なんだ……?


ぼっちには難しすぎる問題だった。

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