未来への一歩

「せめてどういう流れで話が進んでるのかくらい言っておいてほしかったよ」


「いやー、悪い悪い。仕事が忙しくて、すっかり忘れててな」


夜。みんなで晩御飯を済ませた後、おれは親父と電話で話していた。

もちろん、昼間にあった出来事についての報告と、まぁメインは、親父に少しばかり文句を言いたかっただけなのだが。


「それで働くのか?」


「ああ、うん。早速来週の土曜から働くことになったよ」


「頑張ってな。ただ、すぐに根を上げるのはやめてくれよ?オレと昌樹のメンツが無くなってしまうからな」


「大丈夫だって。すぐるさん、良い人そうだし」


「そうか。じゃ、そろそろ切るぞ」


「ああ、うん。またなんかあれば電話するよ」


そう言って、おれは電話を切った。なんだか、最近よく親父と電話するようになってきたな。ちょっと前まで、たまにメールするくらいだったのに。まぁこうやって電話するのも悪くないよな。

それにしても、来週から頑張らないといけないな。


昼間に喫茶店にいたのは、店主の吉村 優さん。親父と昌樹さんにとって、大学時代からの友人だそうで、5年前に脱サラし、昼間、おれ達が行った、喫茶店「アポロ」をオープンしたそうだ。


始めは経営が難しかったそうだが、3年ほど前から軌道に乗り出し、順調に進んでいたのだが、オープン当初から優さんは奥さんと二人三脚で経営していたらしく、店が回らない時もあったり、特に最近は猫の手を借りたいくらい、忙しくなってきたため、そろそろ人を雇おうかということになったらしい。


といっても、人を雇うとなればどこかに広告を掲載する必要がある。

掲載して、すぐに反響があれば良いが、大手のレストランなどではなく、個人の、しかも小規模となれば、応募があるかわからない。その間の広告料だってかかる。

そこで優さんは、まず昌樹さんや、親父、知人周りに働いてくれそうな人がいないか、連絡を取ったそうだ。その中でおれに白羽の矢が立ったというわけだ。


さて、一応メニュー表はもらってきたけど、一通り作れるか明日から試してみるか。となると、遥香に試食係を頼もう。

それにしても、お金をもらって料理を作るなんて思ってもみなかったな。

さりげなく、優さんに「うちの将来は君にかかってる」とか言われちゃったからな……

微笑んでたけど、あの笑顔が逆に怖い……

まぁ自分の将来のためでもあるし、気合い入れてやるか。

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