料理の腕前

週末の昼過ぎ。

おれは昌樹さんの運転する車に乗り、どこかへと連れられていた。

例の親父絡みの件で連れられているのだが、どこに行くのか聞いても着いてのお楽しみということで詳細は教えてくれなかった。かれこれ、20分近く車に乗っている。


「着いたぞ」


すると、目的地に着いたようで昌樹さんはコインパーキングに車を停車させた。

そして、車から降りると目の前には真新しい感じの喫茶店が目に飛び込んできた。


「さ、行こうか」


そう言って、昌樹さんは喫茶店に向かって歩いていく。慌てて、おれもその後についていく。


カランと喫茶店のドアを開けると10個ほどのテーブルが店内に広がっていた。カウンターも少しだがあるようで、座席としての合計は20くらいだと思う。外見同様、内見も真新しい感じでテーブルやイスなどにはあまりキズらしいものが見当たらない。


「おお、きたか」


すると、入口近くにあるカウンターの奥から男性がのそっと現れた。背はそれほど高くなく、少し痩せた感じで、ボサボサの髪の毛とヒゲを生やした男性だった。見た目からして40歳前後だろうか。


「久しぶりだな、元気にやってるか?」


「まぁ死なない程度にはやっていけてるよ」


そう言って、2人は笑いながらカウンター越しに握手をした。

どうやら、2人は顔見知りのようだ。


「それで後ろにいるのが、例の青年かい?」


「ああ、そうだ。あいつと違って料理の腕は確かだぞ」


男性がこちらに視線を向けてきたので、おれはとりあえず会釈をした。


「京介君……だったかな。昌樹から話は聞いているよ。料理人をやれって言われて来てくれたんだよね?」


「あ、はい。そうです……」


「それじゃ、テストってわけじゃないけど何か作ってもらおうかな」


「え……?」


「料理なら基本、なんでも作れるのかな?」


「え、あ、はい……まぁ基本的な物なら」


おれの戸惑いを無視するように男性はどんどんと話を進めていく。


「それじゃ、うちは洋食店だからオムライスでも作ってもらおうかな?オムライスならさほど時間はかからないだろうから。キッチンにあるものなら、なんでも使ってくれていいし、材料も一通り揃っているから」


「……」


どうやら勝手にというか、いつのまにか、おれはオムライスを作ることになってしまったようだ。

見ず知らずの男性の店で、いきなり料理を作るとか話の流れが急すぎて訳がわからない。

っていうか、あの人は誰なんだよ。昌樹さんとはどういう関係なんだろうか。全く疑問だらけだ。

にしても、オムライスか……

おれとしては、思い入れのある料理だし、ここは気合入れて作るとするか。

腕まくりをし、おれは調理に取り掛かることにした。






♦︎













「うまい!おかわり!」


あっという間に完食した皿をこちらに見せながら、昌樹さんは大きな声で言った。


「いや、おかわりの分はないですよ……」


むしろ、これでも多めに作った方なんだぞ……?

っていうか、家出る前に昼ごはん食べたはずなのに、なんであの量を完食できるんだよ……


一方、昌樹さんの隣に座っている男性は、静かにオムライスを口に運んでいた。

どうなんだろ……

早く感想を言ってほしい。

そわそわとしながら、そう思いながらも、男性は口を開くことなく、結局、完食するまで口を開くことはなかった。


「はぁ……」


そして、皿の上にスプーンを置き、ため息を一つ。


ため息ってことはダメだったってことか……?

いやいや、それはないだろ。家で作るのより、かなり気合入れて作ったし、卵だって半熟で最高に良い出来のはずだ。まずいわけがない。何より、今まで散々、料理を作ってきたんだ。多少なりとはプライドはある。そりゃ、プロには敵わないかもしれないが。


「いやー、うまい。うまかったよ、本当に」


すると、男性はおれの方に向き、満面の笑みでそう言ってくれた。

予想外の一言におれは少し面食らってしまった。


「これなら、安心して料理を任せられるよ」


「おお!よかったな!京介君!合格だってよ!」


「あ、は、はい。ありがとうございます……ってすいません。全く話が見えないんですが……」


「あれ、もしかして、何も聞いてない感じ?」


「はい、全く……」


「そうか。それは失礼したな……っておい、昌樹。説明しておいてくれるんじゃなかったのか?」


「すまん、すまん。すっかり忘れてたわ!」


豪快に笑う昌樹さん。その横で男性は呆れたように肩をすくめていた。恐らく、昌樹さんのこういう性格は昔から変わっていないんだろうな。


「さて、そういうことなら、いきなり料理を作らせて悪かったね。とりあえず、奥のテーブルに座ってくれるかな?今、飲み物を淹れるから。あ、君はコーヒー好きみたいだから、コーヒーでいいよね?」


「あ、はい……」


そう言われ、おれは男性と入れ替わるようにカウンターから出ると昌樹さんと共に奥のテーブルに座った。

あれ、それより、なんでこの人、おれがコーヒー好きってわかったんだ……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る