登校
翌日の朝。午前8時過ぎ。
「お待たせ」
「おう」
通学路の途中で待っていると、遅れてやってきた遥香が追いかけてきた。
というのも、一緒に家を出るところを見られるのはさすがにマズイということで、こうして途中で待ち合わせして学校に登校するようにしたのだ。
今日はおれが先に待つ番だった。
これなら偶然、途中で会ったから一緒に来たという風に装えると思ったのだ。
毎日、この手を使うとさすがに疑われるとは思うが、それでも2人きりで登校できるのはとても嬉しいものがある。
そして2人並んで登校する。
居候生活を始めて1年程経ったが、一緒に登校するのは初めてなのでなんか嬉しくもあり、変な感じもする。
「なんかいいことあったの?」
すると、隣を歩く遥香がそんなことを聞いてくる。
「え?なんでそう思うんだ?」
「だって京介、さっきからずっと口元緩みっぱなしだよ?」
「……」
なんか遥香って所々で鈍感なんだよな。
こんなことで口元が緩むおれも単純だとは思うが、付き合いたてだから、仕方ないよな。
「その、遥香と一緒に登校できて嬉しいんだよ」
「え、あ……そっか……」
言いながら、俯く。そして、次の瞬間、服の裾を掴んでくる。
ぐっ、反応がかわいすぎる……
登校中で誰かに見られるかもしれないから、手を繋げないけど、繋ぎたいといったところか……
それがまたかわいいじゃないか……
こうして、2人揃って顔を赤らめながら、登校するはめになってしまった。
♦︎
学校に着き、それぞれ上履きに履き替え、階段を上がった先で廊下の奥に人だかりがあるのが見えた。
「なんだ、あれ?」
「さぁ……気になるから行ってみましょ」
というわけで、おれ達もその人だかりの近くまでいってみることにした。
そこには修学旅行で撮影されたであろう写真が所狭しと何枚も壁に貼られていた。
「欲しい写真がある人はそれぞれの番号が書かれた紙に欲しい枚数分の数字を横に書いて下さーい!!」
すると、人だかりの中から大きな声が聞こえてきた。この声は柳だな。
「せっかくだから、あたし達も少し見てみましょうよ」
「そうだな」
遥香の提案に二つ返事した後、おれは人だかりの近くに設置してあった机の上に置かれた紙を2枚、手に取り、遥香にも渡す。
と、その時。
「あ、京くん」
柳が人だかりの中から出てきて、声をかけてきた。
「大盛況だな」
「うん。お陰様でね。それより京くんに渡したいものがあってさ」
「渡したいもの?」
何だろうか、一体。
「はい」
柳は制服の内ポケットから封筒を取り出して、おれに渡してきた。
なんでまた封筒なんか……
そう思いながらも、受け取る。すると、中には写真が1枚入っていた。
「ってこれ……!?」
それは柳が新幹線で撮った遥香のお茶飲みシーンを捉えたものだった。
まさか、本当に現像してくるとはな……
でも、嬉しいというか……
「欲しかったんだよね?」
「いや、その、あのさ……」
やばい、心が見透かされていた。
ポーカーフェイスはどうした、おれ。
「あ、大丈夫だよ。この1枚しか現像してないし、データはもう消したから。その代わり、お願いがあるんだ」
「え、お願い?」
「うん。昼休みにさ、取材させてほしくて。修学旅行の件について」
「……」
え、まさか遥香に告白したことを知ってたりするのか……?
「修学旅行の件って……」
おれがその先を言おうとした時、柳は別の部員に呼ばれたようでそちらの方に振り向いた。
「ごめん、行かなきゃ。それじゃまた後でね!」
そう言って、柳は足早に去っていってしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます