13章
料理人
「なるほど、夢か」
「ああ、彼女は立派な夢を持っているのに肝心のおれは何も無いってのはどうなのかって思ってさ」
夜。おれは今日も親父に電話をしていた。
情けないが、こんな事を相談できるのは親父しかいないからだ。
「京介、お前の好きなことってなんだ?」
「好きなこと……?」
「ああ、夢にするならそれが一番だからな」
「それが特にないんだよな……」
「つまらん男だな、お前は……」
はぁと呆れるようにため息を吐く親父。
今まで特に夢中になるようなことをしてこなかったからな……
当然といえば当然の結果なのだが……
「あ、強いて言えば、作った料理を美味しいと言ってもらえるのは嬉しいかな……」
料理をするようになったのは、確か小学校5年の時だ。
学校の家庭科の授業でクラス全員でオムライスを作ったのだが、おれはそれを親父に作ったら喜んでくれるだろうと思い、先生にもらったレシピを元に家でもオムライスを作ってみた。
毎日仕事で疲れているのはずなのに、家に帰ってからおれのためにご飯を作ってくれる親父の助けになればと思い、作ったのだが、親父はものすごく喜んでくれた。
今思えば、きっとニンジンは半生の状態だったろうし、卵だって固まりすぎていたと思う。それでも親父は美味しい美味しいと食べてくれた。
それ以来、おれは料理をするようになった。
少しずつ少しずつ覚えていって、今では大体の物を作れるようになった。しかし、いつしか当初のような気持ちは無くなっていった。ただ、料理を作る。それだけだった。
でも、本当は作った料理を美味しいと言ってくれるのってすごい嬉しいんだよな……
そういえば、遥香っておれの料理に対して、いつも美味しいって言ってくれてたっけ……
「料理か。なるほど。じゃあ京介、お前料理人やってみろ」
「いやいや、それは安易すぎるだろ。大体、おれに料理人なんて」
「だが、お前の料理のセンスは確かに良いし、それに高級店の料理人になれと言ってるわけじゃない。何より、物は試しだ」
「そうかな……」
料理人か。考えたこともなかったな。
「よし、手筈はこちらで整えておくから、週末に昌樹のやつに話しかけてみろ」
「え、手筈って……?それに昌樹さん?」
「まぁ昌樹に聞けばわかる。仕事があるなら、それじゃあな」
そう言って、こちらの返事も聞かず、親父は電話を切ってしまった。
展開が早すぎて、付いていけないんだが……
それに何故、昌樹さんの名前が出てきたんだ?
おれは疑問を浮かべたまま、その日を過ごすのだった。
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