お祝い

「はっはっは!いやぁーめでたいなぁ!本当に!」


夕方の5時過ぎ。リビングにあるテーブルイスに対面上に座りながら、浴びるように缶ビールを飲んでいく昌樹さん。ビールを飲みながら、なんとも楽しそうに笑っている。


「本当めでたいわねぇ。ようやくといった感じではあるけど……」


台所で夜ご飯の準備をしながら、京香さんもそんなことを言ってくる。


「いや、まぁ祝福してもらうにはありがたいんですが、なんで家にいるんですか?平日だから仕事のはずじゃ……」


「そんなもん、早退したに決まってるだろう」


「早退って……」


そんな簡単にしていいもんなのか……?

そもそも病気や怪我じゃないのに早退が認められるのか……?

働いたことないからよくわからないが、ダメな気がする。


「愛娘に彼氏ができたんだ。祝うために帰ってきて何が悪い?」


おかしいことを言ってるか?と言わんばかりに昌樹さんはおれの顔を覗き込んできた。


「あ、いや、その悪くないですよ……」


その迫力に少しだけ怯みながら、おれは応えた。

ここまで堂々としてると返って清々しい感じもするな……


「っていうか、なんでおれが遥香と付き合っていること知ってるんですか?」


まさか、遥香が言ったのか?

そう思って、ソファに座っている遥香に目を向けるとそんなこと言うはずがないとばかりに首を勢いよく左右にブンブンと振った。

まぁそんなこと、わざわざ言うわけないよな。おれだって、親父に言ってないし。


「昨日の夜、寝てる時にな。夢を見たんだ。いやお告げと言うべきかな。そこで2人がようやく結ばれた。早く帰りなさいと神々しい光を放つ人物に言われたんだよ」


「へ、へぇー……」


どうリアクションしていいか分からなくなり、おれはとても困った。

嘘としか思えないが、事実、それが的中しており、昌樹さんはここにいるわけである。

これは予知夢ってやつなのか……?

ものすごい能力だな……

それに神々しい光を放つって、それは所謂神様というやつなのでは……

これじゃ、遥香と何かある度に知られてそうでものすごく嫌なんだが、なんとかならないものなのか……


「まぁまぁ細かいことは置いておいて、ご飯にしましょ」


言いながら、京香さんは大きな鍋をテーブルの中央に置く。


細かいことじゃないような……と思いつつ、鍋の中を覗き込むと大きな肉が大量に入ったすき焼きだった。


「おかわりは沢山あるからどんどん食べてね」


「は、はい。ありがとうこざいます……」


とりあえずお礼を言いつつ、肉を箸で掴み、溶き卵をつけた後、恐る恐る口に運んでいく。


「うっま……!」


たまらず、叫んでしまう。

こんな肉、今まで食べたことない……

柔らかくて口の中で溶けたぞ……


「はっはっはっ!そうだろう?特上の肉を買ってきたからな」


得意そうに笑いながら、昌樹さんは肉をどんどんと食べていく。

あっという間に鍋の中の具がなくなっていく。


「ちょっとお父さん!あたし達のために買ってきてくれたんでしょ?そんなに食べないでよ!」


ソファに座っていた遥香が怒った様子でおれの隣のイスに座ってきた。


「大丈夫よ、遥香。まだまだあるから」


遥香を宥めつつ、京香さんは追加の具材を鍋の中に入れていく。


「それにちゃんとデザートもあるからね?」


「デザート……?」


京香さんの言葉にごくっと喉を鳴らす遥香。

どうやら肉のことなど忘れてしまったようだ。なんてわかりやすい奴……


こうして、珍しく賑やかな夕食の時間が過ぎていくのだった。

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