それぞれの選択
「はぁ……」
おれは再び外に出て、溜息を吐きながらベンチに座り、夜風に当たっていた。
これからどうしよ……
明日から遥香にどんな顔して会えばいいんだろうか……
こうなるくらいなら、きちんと気持ちを伝えれば良かったのではと思い、激しく後悔する。
しかし、気持ちを伝えず、このままの関係でいると望んだのは自分だ。それが最悪の結果と選択だったとしても。
「ここにいたんだ」
突然聞こえてきたその言葉に、おれは咄嗟に後ろに振り向いた。
そこには何故か穂花がいた。
外灯の光でぼんやりとしか見えないが、その表情がものすごく真剣に、しかし、どこか哀しそうに見える。
「穂花……どうしたんだ?」
「お願い。自分に嘘をつかないで」
「え……?」
「私が告白したことが原因でそれで前に進めないのなら気にしないでほしい。だから心に正直になって。後悔しないで。逃げないで……」
「穂花……?」
もしかして見てたのか……?
いや、見てなくても分かってるんだ。
穂花はずっとおれと遥香の関係を近くで見てきた。だから真っ先に気づいたんだ。何かあったことに。
「2人なら大丈夫だよ!きっと!だから、遥香を傷つけないでほしいの。正直に京介君の気持ちを伝えてあげて。でもせっかく神石に願ったのにその願いは叶いそうにないかな……」
穂花は、ははと無理やり笑顔を作る。だが、かろうじて口角が上がったくらいで笑顔には程遠かった。
「……」
ああ、そうか。親父。
メールの意味がわかったよ。
そういうことだったんだな。
親父は分かってたんだ。おれの気持ちを。
だから、正直になれって言ってくれたんだな。
親父だけじゃない。
おれを好きだと言ってくれた穂花が背中を押してくれている。
本当はきっとすごく辛いはずなのに。
それでも背中を押してくれてるんだ。
だったら、その気持ちを無駄にするなんて絶対にしちゃいけない。
「ありがとう、穂花……」
おれは頭を下げると、駆け足でホテルの中へと戻っていった。
「うん、頑張ってね。でも、もう少しだけ……片想い、させてほしかったな……」
おれがホテルの入り口に入ったタイミングで、後ろから絶叫にも似た泣き声が聞こえてきた。
「っ……!」
おれは歯をぎりっと食いしばりながら、足を早めた。
今、あそこに戻って声をかけるのは簡単だ。でもそれだとせっかくの彼女の覚悟を無駄にしてしまう。
だから、おれの目の前で泣かなかったんだ。
心を必死に押し殺して。
なんておれはバカなんだろう。
ここまでしてもらって、ようやく前に進むなんて。
今すぐにでも自分を殴ってやりたいが、その前にやるべきことが一つある。
もう絶対に迷わない。
おれの心は決まった。
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