嘘と逃げ
時間はあっという間に過ぎ、今は夜の7時。
レストランで夜ご飯の真っ只中だった。
しかし、おれは1人ホテルの外で近くのベンチに座り、缶コーヒーをすすっていた。
というのも、自由行動の時に色々と食べ過ぎたので、全くお腹が減っていないのだ。
そのため、こうして外の空気に当たっている次第である。ちなみに遥香と穂花もおれと同じく、レストランで食事はしていない。
ここは夜風が気持ちいいな。
そんなことを思っていると。
「ん?」
ポケットに入れていた携帯が震えた。
おれは缶コーヒーをベンチの上に置くと、携帯を取り出した。
メールだった。差出人はなんと遥香。
どうしたんだ、一体。そもそもメールが来るのが珍し過ぎる。それにすぐ近くにいるのに、何故わざわざメールを……
おれは心の中で不思議に思いつつ、メールを開いた。
そこには「ロビー近くにある自販機の前にいるからすぐに来て」と書かれてあった。
なんなんだ、一体。
もしかして、ジュース飲みたいけど、小銭がないから買ってくれってことか?
いや、ジュースが飲みたいなら、レストランに行けばいいはず。今は夜ご飯の時間だから、出入りは自由だ。
じゃあ一体、遥香はなんでおれをあんなところに呼び出したんだろう……?
おれは頭をかしげながら、遥香に言われた通り、自販機の場所へと向かった。
そして程なくして、自販機の前にたどり着いた。
自販機のすぐ側に遥香はいた。
「お待たせ。それにしてもなんでこんなところに呼び出したんだ?」
「うん。ここならあまり人が来ないからね……」
「え?」
どういう意味だ?
そう聞こうとしたが、何故か口から言葉が出てこなかった。
「本当はもう少し後にしようかなって思ってたんだけど、あんまりグズグズしてたら取られちゃいそうで後悔することになるから、だったら思い切って、今のうちに言った方がいいかなって思って。それに神石に頼んだんだけど、こういうのは神頼みじゃなくて、行動すべきかなって」
いつになく真剣な表情の遥香。
「おい、何の話してるんだ……?」
「ふふ、そういうところ鈍感だよね。いや、もしかしたらわざと気づかないふりをしてるのかも……」
「いや、だから何の話を……」
「初めのうちはあんたが家に来たとかは、正直に言うけど、嫌だった。でも過ごしていくうちに、あんたはあんただった。昔から変わらない。いつも優しかった。自分を犠牲にしてでも、あたしを守ってくれた。変わっていたのはあたし。でも、気持ちは……やっぱり変わらなかった。だからはっきり言うね。あたしね、ずっと前から……あんたのことが……す……」
遥香が全てのセリフを言い終わる瞬間。
ブーブー!!
ポケットに入れていたおれの携帯が盛大に震えだした。
その音量に遥香は驚き、喋るのをやめてしまった。
「なんだ……って電話?悪い、親父から電話みたいだ。話はまた後でいいか?」
「え、あ、うん……」
脱力したような遥香を他所におれは足早にそこから去るのだった。
そして、おれは遥香が見えないところで携帯を操作し、電話を切った。
嘘だ。電話なんてきていない。
フェイク着信ができるアプリで予め、起動し、時間になれば鳴るように設定しておいたのだ。
いつ鳴るか不安だったが、ギリギリのところで鳴った。
だが、あのタイミングで鳴っても意味はなかった。
遥香から告白されることは薄々気づいていた。
だからこのアプリを使った。
今日の告白以前から遥香の好意には前々から気づいていた。
でもおれは見ないふりをしてきた。気づかないふりをしてきた。心に嘘をずっとついてきた。
何故なら、今の関係を壊したくなかったから。
おれだって遥香が好きだ。
でも、もし恋人として関係が進んだとしても、上手くいかなったら、そこでもう終わってしまう。
だったら、今の関係のまま、良い関係のまま、進んでいきたい。例え嘘をつき続けたとしても。おれはそう心に決めたのだ。
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