訪問者
「ふぅ……」
夜の8時過ぎ。
おれは部屋の風呂から出て、ベッドの上に腰掛けながら、タオルでゴシゴシと頭を拭いていた。
いい風呂だったな。それに久しぶりにユニットバスを使った気がする。もし海外に行くことになれば、この光景が当たり前になるのだろうかと、ふと思った。まぁヨーロッパの方だと湯船がないのがザラらしいが……
湯船ないとか辛すぎるわ。絶対に耐えられん。
ちなみにホテルには大浴場があり、男女で時間帯は決まっているが、入浴は自由とのことだった。
だが、おれは大浴場に行く気はなかった。
ぼっちのおれが行ったところで何も楽しくないし、何よりなんでわざわざ他の男子の裸なんぞ見なきゃならんのだ。そんなもん、ただの罰ゲームだわ。多少狭くても部屋の風呂に浸かった方が100倍快適なのはわかりきっていたことだった。
さて、これからどうするかな。
夜の食事の時も遥香、穂花と一緒だったから1人になると途端に何をすればいいか分からなくなってしまう。
べ、別に寂しくなんかないんだからね!?
勘違いしないでよ!?
説明では夜の10時までは男女でも部屋の行き来は可能とのことだったが、今から部屋に行くのも何かな……
それに緊張するというか、行って良いものかと思ってしまう。
普段、遥香と同じ家で暮らしていて、互いの部屋に入るなんてよくあることなのに、場所が変わるとこんなに気持ちが変わるものなのかと思う。
とりあえず、今は部屋でゆっくり休むとするか……
明日の自由行動の時のスケジュールも確認しておきたいし。
おれはタオルを丁寧に畳むと部屋の机の上に置き、浴室にあるドライヤーで髪の毛を乾かす。
そして、浴室を出ると冷蔵庫に入れていたペットボトルに入ったお茶を取り出し、キャップを外して、ゴクゴクと飲んでいく。
と、ちょうどその時、コンコンと部屋がノックされた。
「ん?」
一体誰が来たのだろうと思い、おれはペットボトルを机の上に置き、丸穴から外を覗くとそこには。
「……」
ジャージを着て、そわそわと落ち着きなく、少しだけ緊張している面持ちの穂花が立っていた。
やばい、向こうから訪問してくるとは意外というか完全に予想外だった……
さて、どんな顔して会えば良いものか……
◆
「ごめんね、突然来ちゃって……」
「いや、全然。こっちも暇してたから丁度良かったよ」
「ほんと?よかった……」
ベッドの上に腰掛け、安心したように胸をなでおろす穂花。
その瞬間、ほんのりとシャンプーの良い香りが漂ってきて、おれは途端に緊張してきた。
部屋に置いてあるシャンプーではない香りだから、恐らく家から持ってきたんだろうな。
「それにしても、いきなりどうしたんだ?」
至って冷静に装いつつ、冷蔵庫から取り出した缶コーヒーを穂花に差し出す。
「いや、特に用はないんだけど、なんか喋りたいなぁと思って……」
おれが差し出した缶コーヒーを受け取りながら、穂花は小さくそう呟いた。
今、すごいドキドキするセリフ言ったよね?
やばいよ、この子。もしかして、おれの心臓破壊する気?
「そ、そっか……じゃあ今から明日の自由行動のスケジュールの確認したかったところなんだ。良かったら協力してくれるか?」
「あ、うん!もちろん!」
元気よく返事をしてくれる穂花。
相変わらず眩しい笑顔だな、おい。
と、そのタイミングでコンコンと再び部屋のドアが外からノックされた。
「なんだ、またか?」
まぁ大方、誰かは見当がついてるけど。
ベッドから立ち上がると、おれは丸穴から外を見ることもせず、そのままドアを開けるとそこにいたのは。
「念のため聞くが、怪しいことはしてないだろうな……?」
強面の表情の担任が立っていた。
「あ、いや……」
まさかの担任登場かよ!
ノックしたのは遥香だと思ってから、完全に予想外の人物だったわ!
「ん?なんだ、言えないことでもしてるのか?ん、ん?」
「してませんって……というか、なんで部屋に女子がいるってわかったんですか……?」
「偶然通りかかったら、倉田が部屋に入るのが見えたからな。お前、意外と手が早いんだなと思ってたところなんだ」
「だから何もしてませんって……」
どんだけ疑うんだよ、この人……
普段、どんな目で見てたんだよ……
「あの、何かあったんですか……?」
「ん?」
「え……?」
すると、突然聞こえてきた声におれ達2人はそちらの方に目を向ける。
そこには、やや困った表情の遥香が立っていた。
このタイミングでの訪問はマズイすぎるって!
「お前、1人ならまだしも2人ともとは……」
「いやいや!!ほんと、偶然なんですって!!」
鬼神の如き表情に変貌する担任。
その迫力に背後に魔神も出現しているように見えた。
下手なホラー映画より怖い……
ちびりそう。
ってか、なんで何もしてないのに、こんなことになるんだよ……
神様、おれの事、絶対嫌いだろ。
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