叶えたい願い

レストランで食事を終え、おれ達は再びバスに乗り、本日の目的地の野宮神社へと向かう。

そしてバスで20分ほど進んだところで、近くの駐車場に停めた後、徒歩で野宮神社の門をくぐる。

そこからは時間まで自由行動となり。それぞれが写真を撮ったり、周りを見て回ったり、思い思いの行動を取っている。


「さて、おれ達はどうする?」


おれは隣にいた遥香、穂花に尋ねる。


「ここにある神石を撫でると年内に願いが叶うって噂だから、私はそこに行きたい!」


すると、やけに興奮気味の穂花が食い気味にそう言ってきた。

その普段とは違う迫力に少しだけ、驚いてしまう。


「あ、あたしもそこ行ってみたかったのよ」


賛成するように遥香がそう言った。


「じゃあ、とりあえずそこに行くか」


というわけで、おれ達はその神石が置いてあるところまで向かうことにした。

そういえば、ホームページにそんなこと書いてあったっけ。

叶えたい願いか……

おれは心の中で悩む。

おれの叶えたい願いってなんなんだろうか。

平和に生きたい?

あ、友達がほしいかな。言ってて悲しくなるけど。


「ってすげぇ人じゃん……」


やはりこの神社に来たら、皆、目的は同じなのか、ほとんどの生徒が同じ方向に進んでおり、その上、他の観光客の人もいるからものすごく混み合っていた。どこに神石があるのか見えないくらいの人だ。


「まぁまだ時間はあるし、待ちましょうよ」


「そうだな」


「あ、2人ともごめん。私、ちょっと今のうちにお手洗い行ってくるね……!」


「あ、うん。気をつけてな」


そう言ってから、穂花は慌てて駆け出して、トイレのある方に向かって駆けていった。


随分急いでる様子だな。

さっきまでは普通だったのに。急に襲ってきたのかな。まぁ身体に起きることなんて本人にもわかんないしな。

しかし、穂花が戻ってきたのはそれから20分後のことだった。よっぽどトイレが混み合っていたのだろうか。

そして、穂花と入れ替わるように遥香もトイレへと向かった。おれはそれが少し気になるのだった。


それから並ぶ事、30分。

ひとまず神石での願い事を終えたおれ達は周りの流れに乗り、絵馬を買い、そこにも願い事を書くことにした。


「……」


しかし、中々ペンが進まず、先程からずっと絵馬と見つめ合っている。


なんて書こうかな……

神石への願いは声に出さなくていいから、簡単に決まったんだけど、絵馬は色んな人が見るから、慎重に書かないといけないのだが、これが意外と難しい。


仮に友達ができますようにと書いてしまった時はもう一貫の終わりだ。

全世界から来た観光客におれの切実な願いが発信されてしまうからな……

しかし、それ以外の願いが特にないのが問題なのだ。

仕方ない。ここは無難に平和に過ごせますようにとでも書いておくかな。


ということで、おれはようやくペンを動かし、絵馬にさらさらっと文字を書いていく。

そして書き終えたところで他の2人に目を向ける。

すると、意外なことに2人ともまだ悩んでいた。


「あれ、まだ書いてなかったのか」


「意外と難しくってね……あんたは書けたんだ?」


「まぁな。平凡な願いだけど」


言って、絵馬を見せる。


「あんたらしいというか、なんというか……」


おれの書いた絵馬を見て、遥香は苦笑いを浮かべる。


「他になかったんだよ。2人だってそうだろ?」


「まぁね……ってそろそろ、ここを出ないといけない時間じゃない……!」


遥香は慌てたように近くにあった時計を確認した。


「ひとまず絵馬は持って帰ったらどうだ?もし願い事が決まったら、明日の自由行動の時にまたここに来て、掲げればいいんだし」


「そうしましょうか……」


「穂花もそれでいいか?」


「うん……部屋でゆっくり考えようかな……」


終始俯いていた穂花がおれの言葉を聞いて、ようやく顔を上げたので、ひとまずおれ達は神社から出て、バスに乗り込むことにした。

しかし、バスに向かう道の間、2人がやたら買った絵馬をずっと見つめていたのが妙に気になった。

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